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【難波 治のカーデザイナー的視点:連載コラム 3回目】私、デザイナーという職業をしております。

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クルマのかたちを作り出す。言葉で表すのは簡単だ。では、どこを?容易に想像できるのは外形。内装や機能部品、機械類の設計だって含まれるかもしれない。それらを決めるのは、人がどのようにクルマを使うかという視点。だったらライフスタイルの提案まで考える必要がある。デザイナーと言われる人々は果たして何を仕事としているのか。彼らの役割をあらためて考えてみよう。

TEXT●難波 治(NANBA Osamu)

 今日はちょっとデザイナーのお話をさせていただこうかと思っています。

 皆さんはアレック・イシゴニス、フェルディナント・ポルシェ、ダンテ・ジアコーサという名前を良くご存知だと思います。それぞれMini、Beetle、Cinquecentoを生み出した卓越した才能を持った設計者達なのですが、彼らは優秀なエンジニアであるとともに優秀なデザイナーでもありました。彼らの活躍した時代にデザイナーがいなかったわけではありませんが、彼らは設計者であるとともにスタイリングに対しても鋭い感性やバランス感覚を持っていたのだと思います。そうやって思い返してみると僕が自動車会社でまだまだかけ出しの小僧で駆けずり回っていた頃の大先輩設計者の方々も、やはり皆さん絵がとても上手くてデザイナーだと威張っていた自分が恥ずかしくなったことを思い出します。何より学校を出たての僕よりもずっと判って描いていらしたし(そりゃもちろんですよね)、構造・製造の条件から商品性に至るまで全部計画して説明をされるのですから説得力抜群なのです。あれっ?それではデザイナーというのは設計者のことなの?と思われるかもしれませんね。

 ではここでちょっと単語の整理をしてみたいと思います。「デザイン」という単語を辞書で引きますとまずは「設計」とでてきます(最近ではもう少し実情にあった訳が出てくるようにもなりましたが)。どうやら英語の母国ではもともとデザイナーとは設計者のことを指すようです。さらに「デザイン」という言葉の語源を紐解いてゆくと「計画を記号に表す」「指示・表示する」という意味のdesignareというラテン語に辿り着くようです。これを読むと少し「表現する」というような意味が見えてきます。うーん、またまたこんがらがってきましたね。「デザイン」ってなんなのでしょうか。

 僕も初めて海外で仕事をした時に「彼はスタイリスト」と紹介された時があって「おや?」と感じたことがありました。よくよく考えれば設計とデザインとは物事に対峙する時の「スタンス」が同じなのでそれを現代の「職種」や「職域」として線引きすることが難しいのですが、設計もデザインもそれぞれに工学としての部分や少しアートの領域に近い感性的な表現の部分が、分化・深化し、専門化するにつれて「デザイン」という単語で表現する領域が広がってしまった結果、設計者をデザイナーと呼んだりスタイリングまでを受け持つ僕らをデザイナーと呼んだり、場面場面でいろいろな表現が使用されてきたのが事実だと思います。僕は設計者とデザイナーを[エンジニアリングデザイナー/engineeringdesigner]と[スタイリングデザイナー/styling designer]というようにそれぞれを呼び分けていますがこれも正解かどうかは判りません。

 設計とは求められる要求に対しての最適な「仕組み」を導くことをいうのだと思いますし、そしてその「仕組み」を使用される場面や求められる価値に対する最適な「カタチ」に作り上げ可視化(目に見えるカタチにして表現すること)するということがデザイン(その表現は2次元でも3次元でも存在します)だと定義してみると設計者とデザイナーの受持ち分野がクリアに考えることができると思います。

 ここで次にいわゆる『デザイナー』が受け持っている範疇を少しばかりお堅く説明させていただきますと、『デザインするということ』はただ単に最終的な表面のカタチや色を決めるということではなく(それにはとどまらず)実はデザインするモノの構想段階からデザイナーの仕事が始まります。そのモノの存在している意味や社会的な価値を考えて、道具としての便利なところはどこで、不便なので改善するところはどこで、さらにお客様が望んでいるのはどんなこと?などまで探る、というような前提を本当に深く深く考えて、そして何らかの答え(もしくは方針)を持った後に今度は実現するために使用できる技術や素材などを考慮し、その後に設計者とともにその機能性や安全性、使いやすさ、生産性、環境への影響、などを含んで成立ちを計画し、その上で最適な「カタチ」あるいは「伝達」をもって使用する人や社会にとっての価値(サービス)を創り上げ、届けることまでの全行程の行為のことをいいます。ですからデザイナーという人達はそういうことをする人を指すんだと僕は思っています。そしてその最後の段階の「カタチ」に表す部分が当然ながらもっとも困難で、ここに商品の成否がかかってきますのでデザイナーはそこに才能を発揮できなければなりませんし、そこに才能を持っている人で無いとデザイナーはできません。さらにデザインする対象はカタチを持っていないモノもありと思っています。2次元的な表現はもちろんですし、例えば皆さんも生活や人生などをデザインしていらっしゃるんだと思います。

BMC Mini(1959)

サー・アレック・イシゴニスの設計によるFF車。小型車として仕立てるためにパワープラントをコンパクトにする必要があり、彼のとった手段はエンジンの下にデフとトランスミッションを置く二階建て構造。イシゴニス式とも称されるようになったパッケージによって、極小の車体ながら大人4名の乗車を可能とする革新的な車両となった。

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