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【難波 治のカーデザイナー的視点:連載コラム 8回目】Hello, Nice to meet you. I am happy to meet you!!

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1953 / Fiat 8V Supersonic : Ghiaデザイン。なぜか前輪のトレッドが狭いのだが、それでもまったく不安定には見えない。ボディとグリーンハウスのボリュームのバランスもアンバランスなのだが絶妙なスタンスを持っている。

クルマはやはり走ってこそ

 クルマが走るか走らないか、これはとても大事で、エンジン音をあげてホイールを回して走る姿が見えると感動はさらに高まる。やはりクルマは走らなければダメだ。

 そして1800年代から続くこのVillaだからなせる技なのか、その姿を見ている瞬間だけはそのクルマが現役で走っていた時代にタイムスリップしてしまう。そのクルマが現役で走っていた頃のこと、クルマが出来上がってカロッツェリアからオーナーに手渡されるその瞬間の晴やかな瞬間、鍵を受け取って笑顔を見せるオーナーの顔。そしてもう我慢できずにドアを開けてクルマに乗り込む姿。シートに身体を沈めステアリングを握り悦に入っているオーナーを見ているカロッツェリアの職人たちの皺の深い顔、顔。そんなシーンに瞬間移動をしてはまり込んでしまうのだ。

 1908年代のLanciaから70年代のFerrariまで、時代とシーンの異なるクルマ達を見て回れば、さまざまな時代を想像しながら駆け巡ることになる。そんな贅沢な時間を過ごすことができるのも

 やはり世界最高の仕上げをキープしているクラシックカーだからこそだ。しかも私にとってはそのほとんどが初めて会うクルマたちなのだから興奮は収まらない。VillaD’Esteの車たちが私にとって「初めまして」の訳はもうひとつある。ここに集まるクルマがあまり見る機会の多かったクルマたちではないということも一因だからだ。

 レースでの優勝車もあり、カロッツェリアのワンオフのスタディモデルであったり、オーナーの意向を汲んだスペシャルだったりするからなのかもしれない。「やぁ久しぶり!」も悪くはないが「初めまして!」の感動は最高なうえに心に刻まれる。まだまだ知らないクルマが多くあり、この先まだ沢山クルマを愉しむことができると思うと本当にワクワクする。

 Villa D’Esteには面白いクラスも存在している。[Concept Cars and Prototypes]というクラスがある。直近の自動車ショーで展示された最新のコンセプトカーやプロトタイプ車の中から何台かを選んで展示している。これらも自走することが条件だ。このクラスはクラッシックということではない。これから30年、50年経てばクラッシックとして扱われるだろうという意図なのではないだろうか。

手前は2017 / Techrules Ren : ジュジャーロ親子が設立したGFG Styleの初作品。奥は2016 / Renault Trezor : 昨年のパリショーに出品されたルノーのコンセプトカー2台のEVは果たして将来クラシックカーとして記憶に残っているのだろうか。観客スタンドの前で紹介されているのは1952 / Astra Coupe

 冒頭に4年ぶりにVilla D’Esteでのコンクールを見たと書いたが、実は4年前は出展者としてコモへ来ていた。

 2013年のジュネーブショーでデビューしたSUBARUのコンセプトカー[VIZIV concept]をVilla D’Esteで展示する機会を得たからだ(今年も2台のコンセプトカーが出展されていた)。だが今年は残念ながら時間がなく、一般公開日のしかも午後だけしか見ることができなかったのだが素晴らしい時間を持つことができた。そして短い時間のなかで何台かの「初めまして!」にも会うことができた。

 私はやはりデザイナーなので保存状態が良いことやレストアの仕上げが素晴らしいこと以上に、スタイルの素晴らしさに心を奪われる。それだけに「久しぶり」よりも「初めまして」が印象深いのだろう。時代の古いクルマなので現代のクルマに対してはギュッとコンパクトなのが何よりまず一番に気に入ってしまうのだが、それなのに発する表現力は現代の車以上であることに驚かされる。

 プレスではなく職人による手叩き板金の時代のものなので最新のプレス機器でのシャープな形状出しではないにも拘らわらず、また樹脂など使用していないので細かい自由な造形など一切存在していないのに、こちらに訴える力は何倍だろうか。

 「創造力」の持つ力、なせる技なのかもしれない。決め過ぎない。固定し過ぎない。受け手側の思いが足された時に初めて完成するような、余裕というか、考えしろが残してあるというか。そういう言い方が合うように思う。もちろんカロッツェリアが中途半端で作るのを終えたということではない。作り手側の込めた世界を、受け手側がさらに伸ばせる大らかさがあると言えばよいか。うまく説明ができないが、受け手側は作り手の世界観に対価を払って、その世界を楽しんでいるように思うのだ。

 現代の商売のようにマーケティングを綿密に行って生まれた「商品」と「作品」との差、といえばわかりやすいだろうか。ぴったりと同じ物が二度と作れないものの良さなんだろうか。左右のフェンダーの形状がコンマ3桁まで管理されたプレス型で成形された現代との「良さ」のモノサシの違いなのだろう。スクラップにしてしまってはいけない価値がある。

 クラッシック音楽を聴く時間、Villa d’Esteで過ごす時間。これらは忙しさに追いまくられて見失っていた何かを思い出すような気持ちになれる。やはりクリエーターは時々こういう時間を持つことが大事だ。それは決して知識をひけらかすために知るのではなく。

 心の豊かさを取り戻すために、人の幅や奥行きを育成するにはこんな時間も必要だ。情操が豊かになる。時間の流れの違いに身を置いてみる。ゆっくりと時間が過ぎることを体験してみてもバチは当たらない。本来は誰の身体のなかにもあるものなのだ。忙中有閑。

難波 治 (なんば・おさむ)
1956年生まれ。筑波大学芸術学群生産デザイン専攻卒業後、鈴木自動車(現スズキ自動車)入社。カロッツェリア ミケッロッティでランニングプロト車の研究、SEAT中央技術センターでVW世界戦略車としての小型車開発の手法研究プロジェクトにスズキ代表デザイナーとして参画。94年には個人事務所を設立して、国内外の自動車メーカーとのデザイン開発研究&コンサルタント業務を開始。08年に富士重工業のデザイン部長に就任。13年同CED(Chief Excutive Designer)就任。15年10月からは首都大学東京トランスポーテーションデザイン准教授。

Motor Fan vol.8

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