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モーターファン1965年6月「モーターファン・ロードテスト」再録[トヨタS800(UP15型)] 福野礼一郎のクルマ論評4 モーターファンロードテスト現代の視点 トヨタS800(UP15型)

  • 2019/10/01
  • Motor Fan illustrated編集部
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かつてのモーターファン誌の名物企画、「モーターファン・ロードテスト」を再録。1965年6月号に掲載した、トヨタ・スポーツ800のロードテストです。

と き:昭和40年3月19-20日
ところ:船研・東村山機械試験場
座談会:東京ヒルトンホテル

1965年7月1日発売の6月号のモーターファン・ロードテストを再録した。表現等は、当時の原稿を忠実に再現。P141の「重量が50kg軽くなると」は「500kg」と記載されていたが、再録にあたって修正した。

ガラは小さくても……

 本 誌 トヨタスポーツ800の発売で、いよいよトヨタもスポーツカー部門に乗り出したわけですが、こういった車を設計した狙いや内容についてご説明ねがいます。
 長谷川 スポーツカーの概念には、特殊なエンジンを積み、独特のサスペンションを設計して、大きな馬力で、強引に引っぱっていくものだといった考えを持ちがちです。しかし、最高速200km/h以上といったレーシングカーならまだしも、いわゆる、100マイルカーと呼ばれる車ですね。常時160km/h~170km/hぐらいの高速で走る車ならなにも大馬力のエンジンを積んだ特殊な車でなくても、空気抵抗や重量を減らすといった合理的な設計で、そういった狙いを満足できるのではないかと思っていました。
 その結果、パブリカのエンジンを790ccにボアアップし、圧縮比を9.0:1にあげて、45psの高馬力を得るように改良、スポーツタイプのボディをのっけることによって、155km/hの最高速度を得る高速車をつくることに成功しました。これによって、われわれの狙いが間違っていなかったという自信を持つことができました。これを他のスポーツカーと比較してみると、つぎのようなことがいえます。
 第1表は、内外のスポーツカー22車との最高馬力対最高速度の比較です。フィアット・アバルト1000や、ロータス・エリートを除いた各車は、最高馬力があがるにしたがって、一線上に最高速度も上昇しています。ところが、この車は、パナールCD、グラース1300GT、MGBなどと同様、ややかけはなれていて、水準線を抜いていることがわかります。
 第2表は、エンジン容積対最高速度比較です。同じccという格からいっても、トヨタスポーツ800はフィアット・アバルト1000 やエリートほどではないが、水準を抜いています。
 第3表はエンジン回転数からみたリッター当り馬力数値の比較です。この車のエンジンは最高出力時が5400rpmで、リッター当り馬力は57です。同じ回転数のものと比べてそん色ありません。
 こうした比較検討から、空気抵抗の少ない軽量ボディをつくり、エンジンを改良するだけで、けっこう高性能なスポーツカーをつくり得たと思っています。またボディ以外は、パブリカの基本部品を使えるわけで、経済性という面でも有利となって、特殊な人たちだけでなく、沢山の人がたやすく手の出せる大衆値段(59.5万円)を打ち出すことができました。

オールウェザータイプの天井

大きな馬力で強引に引っぱっていくというスポーツカーでなく、空気抵抗や重量をへらすといった合理的な設計で155km/hの最高速度を得る高速車をつくることに成功。

 本 誌 ボディはハードトップというのでもないんですね。
 長谷川 ハードトップでないと空気抵抗は減らせないのですが、ムードとしては、オープンカー的なものも味わいたいといった要求があると思うのです。日本にも幌型の車が数種類出ておりますが、冬の寒いときや、雨、ホコリに弱いといった、オールウェザーということで難点があるんですね。
 それで、この車は、天井をつければ空気抵抗も減って充分性能を発揮できる。そうでないときは、簡単なボルトで天井を着脱でき、オープンカーのムードを楽しめるというものにしました。これはこれで問題がないというわけではないのですが、使用上の要求をこの全天候型の天井を採用することによって解決しています。
 本 誌 実際にボディ製作を担当した関東自工の苦心談などをお聞かせねがえませんか。
 佐 藤 一昨年、この車の前身ともいうべきパブリカ・スポーツをウチで試作しました。上方が全部後ろにスライドするタイプのものです。このパブリカ・スポーツとあまりかけはなれないもので、市販スポーツカーをつくってくれないか、というのが自工側の注文でした。
 空気抵抗の問題は、試作の車も模型で風洞実験を行ないましたが、今回の車の方が数値的にややよくなっています。実際走行でも、ボディにいろいろテープをつけて走らせ、風の流れを見たわけです。その結果、前の車は屋根をずらす必要上、レール状の段がついていました。風の流れがここで乱れていたのですが、今回の車は、普通のドアを採用しましたのでよくなっています。
 また、長谷川主査の要望として、極度につるっとしたもの。つまり流線型ですね。凹凸をつけないようにとのことでしたので、ヘッドランプとかテールランプの置き場に苦心しました。簡単に正面を向いた垂直の面がつけられないということで、かなりの時間をかけていまのようなものになりました。
 また、対空気のかたちですが、ボンネットの両方の肩も、前回のものより、もう少しRを大きくしてやわらかくしないといけないということがわかりましたので、まるくしました。このぐらい断面で丸いのはきわめて少ないと思っています。
 重量軽減の問題でも、ほとんど1cmも余裕のないほどムダなく設計しております。前も後もオーバーハングはこれ以上ちぢめることはできないでしょう。とにかく、これ以上、車を小さくはできないといったギリギリの線でまとめました。しかし、居住性は充分です。
 また、これはあとで発見したのですが、FIAの規格でウィンドシールドのあるところから、垂直方面にかかって、シートの一番低いところが、いくらの寸法を要するという条件があるのです。そのため、すっかりできあがってからウィンドシールドをわずかに上げましたが、これは前回の車と比べてガードが下がっていますので、たいした変更には見えておりません。

直径で5mm広がったボア

 本 誌 内容の点で、技術的な特長というものはなんでしょう。
 長谷川 エンジンからいいますと、パブリカの700ccエンジンはボアが78mmであったのに、83mmにボアアップして総排気量は790ccとなりました。したがって、ボアアップしたために、ヘッドシリンダー、ピストンリングなどが変わっています。
 また、気化器がツインとなりましたので、インテークマニホールドの関係も変わっています。
 強度をふやすということでは、バルブスプリング、クランクシャフト、メインベアリング、メタルといったものを補強しています。
 クラッチも強化され、トランスミッションは一部油もれ対策をしました。ギヤ比はセカンドとサードが、標準よりも一歯づつ上のレシオを採用、いわゆるクローズドレシオになっています。
 プロペラシャフトは長さを短くし、フックスジョイントになっています。リヤアクスルでは、デフのレシオとブリーザー関係が変わっています。
 サスペンションは全般にばねが固くなって、ステアリングは、システムとしては変わりがないが、ポストの傾斜角度とか、アライメントが変わっています。
 チェンジレバーは、リモートコントロールのフロアチェンジに変更しました。タイヤは同じですが、プレッシャーが上がっています。
 隈 部 パブリカのエンジンは、ボアアップしても強度的に問題ないのですか?
 長谷川 ボアアップのための余裕ということでは問題ないのですが、ピストンがセダンのものではダメで、サイズを変えて補強しています。そうした部品を変えることで、強度的にとくに心配だということはありません。
 隈 部 ボアは直径で5mm広がったわけですが、その程度の変更でよいのですか?
 長谷川 うまいことに、クランクケースなども、最初から、こういう場合を想定してつくってありましたので、局部を変えるだけですみました。結果的にはシリンダーの取りつけ部が変わったわけですが、700ccのものも共通で、ちょっと変更しただけですから、別に腹は痛みません。また、シリンダーの上に、シュラウドという冷却空気を導くいたがかぶさっておりますね。あれもそのまま使用できます。

軽自動車よりもよい燃費

 隈 部 キャブの原型はなんですか?
 長谷川 カータータイプというのですが、愛三のもので、基本的にはセダンのものと変わりません。ただ、ベンチュリーだとか、ツインのための操作系統、ゼット系などが変わっています。
 隈 部 燃費はどうですか?
 長谷川 最初から予想していたわけではないのですが、これは非常によいので困っているくらいです。むしろセダンよりよいかもしれません。運輸省の認定試験のデータですが、運行燃費が31km/ℓ、定地燃費ですと34km/ℓという値です。軽自動車よりもいいんです。スポーツカーで燃費がよいなんて宣伝するのは、ピントがはずれているのかもしれませんが、普通路上を運転していて、例えば、トップで60km/hくらいですと、回転数は2000rpmそこそこで、非常に低いところだということと、空気抵抗が少ない、それにふたり乗りなので重量が軽いなんていう要素が、いろいろからみあったため、この予想外の結果を得たのだと思います。
 とにかく、路上を走っていて、向こうに見える交差点まで惰行でいこうとすると、コロコロ転がって、なかなか止まってくれません。惰行係数が、普通のセダンは0.0019とか2といった数値ですが、これは0.00155と少なくなっています。
 平 尾 そのほか、タイヤプレッシャーが高い。シリンダーボリュームをふやして、ギヤレシオをあげた。みんな燃費のよくなる方につながったのでしょうね。だから、燃費がよくなっているのは当然です。
 隈 部 それに、ボンネットをあけてみても、この車のエンジンはきれいだね。よくほかの国産車にはオイルが漏れて、ホコリがついているのがあるが、これは実にきれいだ。
 平 尾 こういったシリンダー配置で、ツインキャブというのは、きれいにまとめられるんでしょうね。
 隈 部 普通のセダンでも、どんどんツインをつけれるようにすればよいのにね。少々高くはつくが……。
 長谷川 燃費なんか、一般にツインキャブにすると燃料を食うと思われがちですが、かならずしもそうではないんです。
 平 尾 両方の調整がうまくいけばの話だが、それが、なかなかむずかしいという難点もあるね。

剛性を落さない軽量化

オーバーステア、アンダーステアのテストは横向加速度0.7Gぐらいまで弱いアンダーを維持。オーバーステアになることはない。

 山 本 重量が580kgと、大変軽くなっているのですが、強度面では、どのような補強がなされているのですか。
 長谷川 天井を固定できるハードトップのものは、全体の剛性に対して天井が働いてくれるので助かるのです。ところがこういった天井を着脱できるものは、それを期待できず、最後まで困り抜きました。580kgというのは、そうしたハンディからいえば、努力がむくいられたといえましょうが、決して満足している数値ではないのです。
 構造的にいうと、フロントのフレーム構造は、セダンと似ていますが、セダンはボルト締めで、フレームが着脱できるのに対し、この車はくくりつけになっています。特殊な使用が多いということで、かならずしも、サービスのことを考えなくてもよいのではないかと思ったわけです。
 それから、ボンネットやトランクなどには軽合金をつかっています。とにかく、コンパクトにまとめたということで、重量計減には、これが一番きいたと思っています。このクラスの車ですと、重量が50kg軽くなると、0→400m加速で1秒ちがいます。それで、リヤウインドーガラスなどは、やむなくアクリル系のものにしました。
 山 本 軽合金の材質はどのようなものですか?
 吉 田 アルミニュームでJIS規格A2T1に相当するものです。
 山 本 板厚は何ミリのものですか?
 吉 田 鉄板は全般的に0.9mmのものですが、強度上必要なところはそれ以上のものを使っています。構造上頼れるところというのはサイドレールだけなんです。その両端部のフロントならびにリヤボディの結合に苦心しました。
 長谷川 オープンカーの場合は、カウルが横にゆれるんですね。計器板ですね。これを退治するのに苦労しました。
 吉 田 結局、補強パイプを通しました。また重量軽減では、シートも役立っています。運転席、助手席両方で13kgを割っています。

800ccとは思えない加速性能

本 誌 それでは、動力性能のテスト結果を……。
 小 口 0発進加速を距離と時間の関係でみますと、0→200mが11.9秒、0→400mが18.8秒。800ccクラスの車とは思えないよい値です。追い越し加速は、サードとトップの総減速比が小さいので、サードでは、20 ~ 30km/h、トップでは30~40km/hから行ないました。サードの30km/hからでは100km/hに19.6秒、トップの40km/hからでは31.9秒です。
 なお、ローとセカンドの使用時間は、ローが3.6秒、セカンドが4.2秒です。加速のところでは、トップまでもっていかないで、そのまま走り抜けています。
 モーターファン・テストでは、いままで3人乗車で計っていましたが、こんどはふたりしか乗れませんし、天候もよかったなど、条件はよろしかったのですが、それにしても、加速性能はたいへんよいといえます。
 佐 藤 各ギヤの回転数は、どの辺まで引っぱっているのですか?
 小 口 だいたい6000rpm近くまで引っぱっていました。
 長谷川 乗員の問題ですが、ひとり乗らないと0→400mで1秒違います。だが、それにしても社内データよりは悪いですね。0.4秒ですが……。
 平 尾 社内データはピークですからね。0.4秒ぐらいは普通でしょう。積載重量も、ドライバー57.5kg、測定員68kg、計器11.5kg、合計137kgですから、重量もややオーバーだったのでしょう。
 亘 理 この間、試乗のとき、あるトンネルを出るまでのうちに、スピードメーターが130km/hになっていた。ほかの車は、なかなか、こうはスピードがあがらないんだが、それからみても、たしかに加速はいいね。
 小 口 スピードメーターですが、普通はメーターの方が実車速より大き目にでるのがあたりまえです。これは実車速の方が大きいのですね。
 亘 理 それでは、130km/h以上でたんだな。だけどああいう車を買う人には、街中ではトップを使えないということを教えないとダメだな。60km/hでもムリなようだった。回転計にはシルシがついているが、スピードメーターにも、各ギヤの使用範囲を示していたほうが安全だね。

欲しいダンナ仕様

ブレーキは前がツーリーディング、後ろリーディング・トレーリングという安定したもの。左右のバランスもよくとれている。減速度0.6G相当の踏力も23kgと使い易い(船研におけるブレーキテスト)

 平 尾 それを裏がえしていうと、ダンナ仕様もつくるといいと思うことだね。ばねやギヤレシオをセダンと同じものを使って、スズカのようなところには出っこないといった人にオプションで売ると受けると思うな。いまの仕様で、沢山の人に乗ってもらおうとすると、スポーツライクを好む人には物足りないところも出てくる。例えば、ハンドルの剛性だが、あのばねの固さや、加速からいくと、スポーツライクな人からは不満が出ると思うんだ。ハンドルを回す方向の剛性ですな。
 亘 理 それと同じことから、あのブレーキの感じね、効き方というのではなく、タッチが柔らかすぎるようね。もう少し固目でないと物足りない。
 平 尾 レースに出ようという人にはね。ハンドルのロック・ツウ・ロックも、せいぜい2回転半ぐらいにして剛性をあげるとかした方がよいと思うんだ。だから、仕様としては、レースにでも出ようとする人には、いまの仕様に、ハンドルとかブレーキもそれとバランスのとれたものに剛性をあげる。また、ダンナ仕様としてはいまのハンドルやブレーキの味でよいから、ギヤレシオやばねを柔らかくして、使いよく、乗り心地もそう悪くないというもの。このふた通りを用意すればよいと思うんだ。
 亘 理 それから、シフトレバーね。あれは節度があって非常によいのだが、1~2のラインと3~4のラインが、ちょっと遠すぎるね。普通のシフトレバーなら、セコンドから抜いて戻すと、サードとトップのラインにスコンと入ってしまうでしょう。あれはそれがない。自分で入れてやらないとダメなんだ。間隔がいまの半分でいいなあ。
 樋 口 シフトとセレクトが同じぐらいですね。
 長谷川 セレクトに対してバックスプリングをつけるべきか、そうでないかについては、いろいろ議論もありましたが、なくてもよいということになりまして……。
 亘 理 その必要はないでしょうが、Hの間隔ね。あれはつめてもらいたいね。あれほど、きれいにポンポン入るんだから……。それから、室内のバックミラーね。あれもなんとかしてもらわないとダメだね。つけているところがさがっているのに、直角に立っているでしょう。上ばかり見えるので、直すとこんどは窓の下辺が入って視界が悪くなる。背のびしないと見えないね。別に部品を替えることはないから、なにかゲタでもはかしたらどうかな。
 佐 藤 たしかに指摘の点は苦労した点なんですが、もう少しというところですね。研究します。

最後まで弱いアンダーを持続

燃費は最初から予想していたわけで はないが、非常によいデータがでて いる。運輸省の認定試験では運行燃 費が31km/ℓ、定地燃費は34km/ℓ。

 本 誌 燃費テストでは行ないませんでしたので、トヨタのデータを別表のとおり掲載させてもらいます。つづいて、振動、騒音のデータはどうですか。
 亘 理 市販スポーツカーとしては、普通の値だと思います。バウンシングは毎秒1.6回、毎分で96回、ピッチングは毎秒1.8回、毎分にして105回です。街のなかで乗った感じは、そう悪くありませんね。重心が低いことが効いているのではないかな。音は、テスト車の屋根の取りつけ部がオカシかったので、トヨタのものを参考にさせてもらいます。
 立 石 90km/hの84ホーンまで、ゆるやかに上昇しておりますので、とくに申し上げることはありません。ただ数値としては、スポーツカーなので乗用車より5~10ホーン高くなっています。
 亘 理 音の高いのは、ミッションから、駆動軸への伝達に、歯車がひとつよけいに回っているというせいもあるね。
 平 尾 スポーツカーだから、音はムリに消さなくてもよいが、排気の音をもっとよい音にしてもらいたいね。シリンダーの数がものをいうんだと思うんだが……。
 本 誌 操縦性、安定性試験はどうですか?
 近 藤 研究室の都合で、残跡装置を使わない簡単なテストしかできませんでしたが、オーバーステア、アンダーステアテストは、横向き加速度0.7Gぐらいまで弱いアンダーを維持したといいますから、オーバーステアになることはないと思います。
 この場合の保舵力は2kgぐらいでした。非常に軽いと思います。8字形走行やスラローム走行試験でも軽く出ています。8字形では求心加速度0.25Gのあたりで2.5 ~ 3.5kg、スラロームでの高速時でも、横向き加速度0.25Gぐらいで2kg。平尾先生のおっしゃったように、もう少し重くて、カジの効きをシャープにする方向を考えてもよいのではないかと考えられます。
 裾切り操舵力は最大で14~15kgで、最近のスポーツカーと同じような数値です。手放し安定は、110km/hまでやりましたが、なかなかおさまりはよいと思いました。
 平 尾 街のなかで、スポーツ走行を楽しむというのならあれでいいんですが、レースに出ようとすれば、操舵力関係に問題が出てきますね。ギヤレシオを小さくすると、重くなって剛性もあがりますからね。そこの関連性で、もっとよくなると思うね。

前輪負荷の多い高速型ブレーキ

 本 誌 それでは船研のテスト結果をねがいます。
 石 川 公称は580kgですが、スペアタイヤ、工具つきで596kgでした。重量配分は、前316kg、53%、後ろ280kg、47%。ふたり乗るとだいたい50%づつになります。面積は5.24で、ccは大きいのですが、オースチン・ヒーレーより広く、トライアンフTR4よりも狭いという数値です。占有面積当り重量は110で、こんな小さな値は、国産車でも、ヨーロッパ車にも見当たりません。非常に軽いという裏づけになると思います。
 つぎに、アライメントをサイドスリップテスターで見ますと、ひとり乗ってもふたり乗りでも前後輪とも変化はほとんどありません。前輪はキャンバー、トーインがかなり大きく、後退方向ではトーアウトが生じますが、前進方向にはバランスがよくなっています。後輪はわずかにトーアウトになっています。
 本 誌 ブレーキはどうでしょう。
 石 川 この車のシュータイプは、前がツーリーディング、後ろリーデング・トレーリングという安定したもので、左右バランスはとてもよくとれています、減速度0.6G相当の踏力も23kgぐらいで、大変使いやすくなっています。
 力の前後配分も、高速型で前輪負荷は7:3と大きくなっています。
 耐フェード性は0.6G踏力が、50km/hで20kg、80km/hで24kg、100km/hで25kg、80~100km/hではほとんど変化がありません。100km/hで0.5Gの減速度を得るブレーキの繰り返しは、1回目17~27kg、10 回目22~34kg。踏力の増加程度は少なく、コントロールしやすいものです。
 駐車ブレーキは、フロアレバー型の後2輪ブレーキで、よく左右イコーライズされています。能力は0.2Gの減速度が18kg操作力で、能力としては高い方です。
 各部の操作力は、変速レバーの操作力がやや大きい方ですが、節度はよく入ります。クラッチはつなぎが5.5~6kg、切りが9kgで、フィーリングとしては軽く、ストロークは使い易い値となっています。
 隈 部 テスト車にもよると思うんだが、70km/hぐらいの高速で急ブレーキを踏んでみたら、ちょっと不安定になった。前輪はディスクブレーキの必要はないだろうか?
 長谷川 パブリカのブレーキは、セダンとしては能力以上のものを持っていますので、そのまま使いましたが、将来、高速道路ができて、その必要が生じたときにはディスクも考えています。一般的には不安定だという人はありません。

スポーツカーには珍しくよい前方視界

 本 誌 それでは視野測定の結果を……。
 山 本 地上から93cmの高さに魚眼レンズを据え、シート前と後のふた通りについて、前後視界を測定しました。前方可視範囲はシート前で左右97度、上下33度。シート後で左右85度、上下25度。視線上の全死角は69度で19.1%。シート後は左右85度、上下25度。視線上の全死角は80度、23.9%。普通の車に比較して、それほど悪い値ではありません。むしろ、ワイパー刷拭範囲は、シート前で左右74度、シート後で66度と、普通よりも広くなっています。後方可視範囲は、シート前で左右81度、上下23度。シート後で左右92度、上下29度。これもそれほど悪い値ではありません。
 このテストでは可視範囲の立体角も測定しました。その数値は別掲のとおりですが、この車はフロントの視界をさえぎっているものの面積がわりあいと小さくなっています。例えば、ボンネット、ワイパー、ステアリング、ハンドルなど、前方視界の下を、大きな範囲でおかしていないのですね。
 しかし、難をいうと後の視界をもう少しどうにかできないかと感じました。亘理先生から出たバックミラーを通しての視界ですよね。
 近 藤 シートが低いわりには、前方視野はよいですね。
 佐 藤 前方視界については、わたしたちも苦しんだのです。後をよくして、それでいてムダな工作やカタチをすまいとしたわけです。例えば、指摘の個所とちがいますが、クォーターの板の個所は、追い越しされる場合に必要なところなんです。ところが、そこをあけるとトビラを大きくしないとならない。そうしないと後には小さな小さなクォーターウィンドーを設けなければたらない。どの程度にすればよいかということで、いろいろ意見がありました。これはロータス・エリートとちょうど同じぐらいで、実用に充分ではないかということになったのです。とにかく、車が絶対的に小さいものですから……。
 山 本 それに、リヤウィンドーですが、プラスティックガラスは色があせますのでね。それも考えないといけないと思います。
 平 尾 クォーターの幅をあんなにとっているのは、強度的なことからなんですか?
 佐 藤 別に強度的なことからではないので、いまお話ししたことからです。
 長谷川 全体的には、それは剛性面で働きますが、それ以外に、天井を取ると、左右のアーチがロールバー的な役割もするのです。

ポルシェと同じぐらいの空気抵抗

全体的に空気抵抗のすくないスタイルを狙い、空気抵抗係数は空気抵抗のすくないといわれるポルシェ・カレラと同じ値。

 平 尾 それに、クォーターのところに耳のようなものがついていますね。あれはなんですか?
 長谷川 あれは新しい試みなんです。一種の空気吸い出し装置なんですが、ベンチレーターのほかに、ガラスがくもらないための安全装置的な役目もしています。
 近 藤 空気抵抗には影響ありませんか?
 長谷川 全体的に空気抵抗の少ないスタイルを狙いましたので、この程度のものはたいした問題になりません。
 この車の空気抵抗係数Cxは0.35、面積Fは1.33。Cx×F=0.465で、空気抵抗の少ないといわれるポルシェ・カレラのCx×F=0.435と、だいたい同じ値です。これが、天井をはずすと、後から風が流れて、前マドのサイドから出ていきます。そこで少しあらされるせいか、最高速度で約10km/hもちがってきます。
 近 藤 でも、天井をはずして運転していても、帽子が飛ぶということはありませんね。空気がよどんでいるという感じでした。
 平 尾 タイヤのえぐりのところの出っぱりなんかも空気抵抗的にはマイナスだろうな。
 佐 藤 FIAの規定で、前からみた場合、タイヤのいかなる部分もボディから出てはいけないということがあるので、形の上で工夫が必要だったのです。
 近 藤 スタイルとしては、大変抵抗係数の少ないものにまとめられていますが、いま話に出たようなところや、ウィンドシールのゴムパッキン、バンパーなど細かいところを外車なみに注意すると、もっともっと空気抵抗の少ない車に仕上げられてたでしょうね。これは国産車全体にいえることなんですが、全体的に空気抵抗の少ないものにまとめながら、わずかなことで損しているという気になりまして、残念に思いました。

ゆったりしたドライブ姿勢

 本 誌 スタイルの話が出ましたので、寸法、内装関係のテスト結果をねがいます。
 樋 口 車体寸法からいうと、ハードトップタイプとしては、同クラスのものよりも、全長は長く、幅も広くなっている反面、高さが極めて低くなっています。ホイールベースとトレッドは並の値です。最低地上高も大きいので、普通の街を走るのに心配はありませんが、あのバンパーは、街のなかでスポーツライク重点の使い方をすると、ちょっと不安ですね。
 車内寸法は、長さと高さが低いのですが、完全なセパレートの2シートで、シート高さが極めて低いので、前後方向や高さに対する広さは充分です。ブレーキレバー後方のグローブボックスはトランクとスペースを兼用しているわけで、カバーにはジッパーがついていてなかなか便利です。ただ、ジッパーの操作が、ドライバー側からやりにくいのは難点だと思いました。
 ドライブポジションは、小さな直径のハンドルを傾斜させ、シートクッションに近づけるとともに、シートバックとのすき間や、ペダルとの距離を充分にとっているので、非常にゆったりしたものになっています。したがって、腕をのばして、体をねかせるスポーティな運転姿勢が楽にとれるようになっています。
 スイッチやノブ類のリーチも、運転中に使用ヒン度高いものは、ドライバーの近くに集められて、非常によいと思いました。
 ただ、サイドブレーキのレバー。これは、あまり近くにあるために、かえって力が入れにくくなっているのは難点のようです。特に高速での右旋回では使用しづらいので、もう少し前方に出した方がよいのではないかと思いました。
 ブレーキとアクセルは近目に置かれているので、トーアンド・ヒルはやりよいようです。
 装備関係では、モノコックボディに4面とも曲面ガラスを使って、全体に剛性は高くなっているとおもいます。さきほど話に出たリヤのクォーターパネルのベンチレーターは、風の吸い出しには、たしかに効力を発揮しそうです。ただ、三角窓が固定で、サンバイザーがなく、足元のベンチレーターが見当たりませんでしたので、夏は暑いのではないかと思いました。
 メーター類は完全に独立して、大きさ配置もよろしいのですが、時計がほしいところですね。
 セイフティベルトは、アンカもショルダータイプのものがついており、アシスタントグリップもしっかりとしています、クラッシュパッドも充分なので、安全に対する配慮はさすがと思いました。
 小 林 いろいろと貴重なご意見をいただいてありがとうございました。これからも研究改良を加えまして、多くの人に喜ばれる車にしたいと思います。
 月産は300~500台ぐらいの能力を持っていますので、若い人だけでなく、若さで乗ろうという紳士方のビジネスカーとしても売っていきたいと思っています。

トヨタスポーツ800 主要諸元
寸法:全長3580×全幅1465×全高1175mm、軸距2000mm、軸距前1203mm、後1160mm。
重量:車重580kg、定員2名。
性能:最高速度155km/h、燃費31km/ℓ、登坂力sinθ0.464、最小回転半径4.30m。
エンジン:空冷2気筒水平対向式ツインキャブ式、内径83×行程73mm、790cc、圧縮比9.0、最高出力45ps/5400rpm、最大トルク6.8kgm/3800rpm、燃料タンク容量30ℓ。
変速機:前進4段、後退1段、2、3、4速シンクロメッシュ、フロアシフト。
変速比:1速4.444、2速2.400、3速1.550、4速1.125、後退5.812。減速比3.330。
ステアリング形式:ウォームセクターローラー式。

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