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ポルシェ・タイカンは5分充電で100km走れる電動スポーツカー【Porsche Taycan国際試乗会】 タイカンは単なるポルシェ初BEVなのではなく、21世紀のポルシェの走りを実現した新スポーツカーを体現したクルマなのだ

  • 2019/12/27
  • GENROQ編集部
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EVのために60億ユーロの投資を行うなど、ポルシェは世界の自動車ブランドの中でも電動化へ最も積極的な姿勢を見せている。今後、パワーユニットにおいてモーターの比率を飛躍的に高めようとしている同社にとって、初のEVとなるタイカンの仕上りは非常に重要だ。それはポルシェの未来の走りを教えてくれる存在となることだろう。

REPORT◉清水和夫(SHIMIZU Kazuo)
PHOTO◉Porsche AG

※本記事は『GENROQ』2019年12月号の記事を再編集・再構成したものです。

 天才技師の異名を持つフェルディナント・ポルシェ博士は弱冠28歳のとき、自らの名前を与えたローナーポルシェという電動自動車を1900年のパリ博覧会に出展した。自動車ビジネスのスタートラインが電気自動車だったというのが、あまり知られていないポルシェのDNAだ。エンジンを一定回転で回して発電機とし、インホイールモーターとするなど画期的な発想のクルマだったが、量産には到らなかった。しかし、自動車の電動化の最初の扉を開いた事実は、ポルシェブランドの隠された価値ではないだろうか。

 そのポルシェから登場した初のEVであるタイカン。電気は一次エネルギーではないから作り方次第ではどうしてもCO2が出てしまう。そこでクルマの製造から廃棄までを考えるLCA(ライフサイクルアセスメント)も重要となるのだが、ポルシェはタイカンの工場からCO2がなるべく出ないように工夫をしている。もはやEVは「バッテリーとモーターで走ればよい」という古典的な考えではなく、再生可能なエネルギーに社会がシフトできるかという壮大な挑戦なのである。その最先端にポルシェがいるのだ。ポルシェがEVシフトを鮮明にしている理由は、私なりにはしっかりと理解できたのである。

911につながるポルシェらしさを活かしたインパネ。パッセンジャーディスプレイはオプションだ。ステアリングは911と同じデザイン。
100%UVカットのグラスルーフはオプションだ。室内高が高くなるというメリットもある。シートの着座高は911と同じだという。
ポルシェ初のフルデジタルメーターを採用。オプションでナイトビジョンも用意される。
各機能の設定はセンターのモニターで行う。PSMを完全にオフにすることも可能だ。

 ポルシェ・タイカンの国際試乗会はヨーロッパの屋根と言われるアルプスで行われ、2日間で約700㎞のドライブとなった。印象的なのは、やはりその速さである。とにかく速い! アクセルを踏んだ瞬間に周囲の景色が見えなくなるほどの加速力だ。0→100㎞/hを2.8秒の「ターボS」も、3.2秒の「ターボ」も、同じように速い。もちろんエンジンの唸り音もなく、空気の壁を切り裂く音さえ聞こえない。しかも、エンジンのように振動する震源もないから、宇宙船がワープしているような感じなのだ。このタイカン、ドライバーとして自分で加速すると楽しいが、助手席に乗る人には苦痛だろう。油断していると、むち打ち症になりそうな衝撃的な加速Gに襲われるからだ。優しいドライバーは「加速するから気をつけてね」と断ったほうがいいかもしれない。

 しかし、タイカンは決して直線番長ではない。クルマは慣性モーメントの関係で、限界域のコーナリングではアンダーステアが顕著となるが、アルプスのワインディングを走ってみるとタイカンはその限界点が非常に高いようだ。ややもすると、コーナーイン側の側溝にタイヤが落ちそうになる。重いバッテリーは床下に搭載されるので、重心高は911よりも低く、前後アクスルにはエンジンのような重い物体は搭載されていない。前後重量配分は若干リヤよりかもしれないが、慣性モーメントが小さくトレッドもワイドだから、曲がりやすく姿勢も非常に安定している。つまりポルシェでさえエンジン車では達成できないほど優れたレベルの運動性能を持つクルマが、EVなら実現できるのである。タイカンに用いられる「J1」と呼ばれるプラットフォームは、アウディのR8 GT e-tronとランボルギーニにも採用されるだろう。またポルシェはEVの量販モデルのために「PPE」とよばれるプラットフォームを開発中で、こちらは2022年ごろにマカンのEVとしてデビューするはずだ。

リヤシートの足元にはバッテリーを置かず、スペースを確保している。4人乗りが標準で、5人乗りはオプションとなる。
フロアはやや高いが、リヤのラゲッジスペースは366ℓの容量を持つ。フロントにも81ℓのラゲッジスペースがある。

 回生ブレーキは「オン」「オフ」「オート」の3モードが選択できる。オートではフロントカメラで前方を監視し、減速側のみ前車との距離を一定に保つ機能を持っているのだが、これが実際に走ってみるとかなり便利だった。気になったのがパドルシフト(他のEVでは回生ブレーキの強さを数段階にパドルで選べたりする)を持っていないこと。聞くとニュルブルクリンクでハイスピード領域のテストを行った際、回生ブレーキはバッテリーの状況によっては不安定になることがあり、またドライバーが期待する制動力が得られないケースもあるので、あえてパドルは採用しなかったとのことだ。

 タイカンのシステム電圧はなんと800Vという、他のEVの倍となる高い数値だが、その理由は速さを追求した果だろう。電圧を2倍にすると出力も2倍になる。「ターボS」の最大トルクは1050Nmもあり、これは1億円を超えるW型16気筒クワッドターボのブガッティ・ヴェイロンのトルクとほぼ同じなのだ。その意味では「ターボS」につけられた18万5456ユーロ(約2200万円)というプライスタグは安いのかもしれない。

特徴的なデザインのヘッドライトはLEDマトリクスを採用。対向車や人を検知してその部分を減光し、眩惑を防ぐ。
充電口は左右のフロントフェンダーにあり、リッドは電動で開閉する。専用ネットワークを使えば5分で100㎞走行分の充電が可能だ。

 しかし、なぜこんなに速い4ドアサルーンが必要なのか? おそらくテスラの存在が大きいだろう。テスラ・モデルSが登場したとき、同社はテスラを販売するセールストークとして「ポルシェ911ターボよりも速くて値段は半分」と言ったらしいが、これがポルシェの逆鱗に触れたそうだ。今度はタイカンでテスラを駆逐する、それがタイカンがここまでの速さを追求した理由なのではないか。スピードへの飽くなき挑戦は、ポルシェの社是だが、つまりポルシェは常に世界最速車でなければならないのだ。

 先日開催されたフランクフルトモーターショーではポルシェからフォーミュラEのマシンが発表された。血管にはガソリンが流れていると信じている私にとって、欧州プレミアムメーカーがなぜフォーミュラEなんかに熱心なのか理解できない部分もあった。しかし、タイカンのダイナミクス性能の高さは私の想像をはるかに超えていた。まるで真空管からトランジスタの時代の変貌を経験したきと同じ感覚だ。さらにこの原稿を書いている最中、ベースモデルである「タイカン4S」も発表された。バッテリー容量79.2kWhや530㎰のパワーは「タイカン・ターボ」よりも低いが、それでも十分すぎるだろう。ポルシェはEVという技術を使って、新しいポルシェのスタンダード、究極のダイナミクスを作ろうとしているのだ。

ターボSはフロント10ピストンのPCCBを組み合わせる。回生ブレーキは0.4Gまでの範囲で行われるが、ワンペダルドライブはできない。
急速充電システムは欧州ではアイオニティ、日本ではABBと共同開発。20分強で満充電になるという。

SPECIFICATIONS ポルシェ・タイカン・ターボS
■ボディサイズ:全長4963×全幅1966×全高1378㎜ ホイールベース:――㎜
■車両重量:2338㎏
■モーター:永久同期式 最高出力:560kW(761㎰) 最大トルク:1050Nm(107.1㎏m)
■トランスミッション:Ⓕ1速 Ⓡ2速
■駆動方式:AWD 
■サスペンション形式:Ⓕダブルウイッシュボーン Ⓡマルチリンク
■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク(カーボンコンポジット)
■タイヤサイズ:Ⓕ265/35R21 Ⓡ305/30R21

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