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畑村耕一博士の「2020年の年頭に当たって」完結編 カーボンニュートラル走行を目指す将来のパワートレーンは? エンジン博士畑村耕一「マージナル(限界)電源に着目せよ」:自動車用パワートレーンの将来

  • 2020/01/14
  • Motor Fan illustrated編集部
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マツダでミラーサイクル・エンジン開発を主導したエンジン博士の畑村耕一博士(エンジンコンサルタント、畑村エンジン開発事務所主宰)が、2020年のスタートにあたり自動車用パワートレーンの将来:2020年の年頭に当たって」を寄稿してくださった。最終回のテーマは、「カーボンニュートラル走行を目指す将来のパワートレーンは?」だ。少々難しいが、多くの人に読んでいただきたいので、あえてMotor-Fan TECHではなく一般に公開する。
TEXT◎畑村耕一(Dr.HATAMURA Koichi)

カーボンニュートラル走行を目指す将来のパワートレーンは?

①JSAEエンジンレビューで将来のEVの普及と電力供給システムの特集が組まれた

 世界中でCO2削減を目的にEVの普及が推進されているが、。発電所からのCO2を含めて電力の専門家と自動車関連の技術者が顔を揃えることはあまりなかったが、2019年暮れに発行されたJSAEエンジンレビューでは、電力の専門家である東京電力エナジーパートナー(株)の佐々木氏と自動車の専門家(異端ではあるが)の私の解説記事が取り上げられた。

https://www.jsae.or.jp/engine_rev/backnumber/09-06/docu/enginereview_09_06.pdf

 ふたつの記事はともに、不安定な再生可能エネルギーから発生する余剰電力を使ってEVを充電する事の重要性を述べている。ただ、EVの充電に必要な電力はどの発電所から来るのかについて、異なる考え方が示されている。

 詳細は記事を読んでいただきたいが、「マージナル(限界)電源」という聞きなれない言葉が登場して、かなり難解だ。EVの充電需要がある場合に発電し、ない場合には停止する電源のことだ。この電源を特定できれば、EVはそのマージナル電源からの電力を使って充電していることになる。経済性から考えると、その時稼働している電源のなかでコストが最も高い電源がマージナル電源になる。一般的に負荷追従電源であるLNG火力が短期的マージナル電源になるが、長期的に考えるとかなりややこしいことになる。電力系統内の需要の変化を予測して全体の発電計画を策定して初めて、特定需要の長期的マージナル電源が特定できる。年間、曜日、時間帯それぞれについて需要の変化を予測して、電源政策に従って、それに対応する総コストが低い電源設備計画を立てることになる。さらに、今後はCO2排出量規制や炭素税を視野に入れる必要がある。

図1

 長期的マージナル電源を特定するには、不確実な要素が多いこと、正確に特定するには莫大な検討時間とコストがかかることから、現状ではほとんどなされていない。ただし、EVを充電している時間帯にその電力系統内で石炭火力が稼働している場合は、図1に示すように石炭火力を廃止してEVの代わりにHEVを普及する方がCO2排出量が大幅に減少するというのも事実である(CO2の数値については、2019年の③中期的にも長期的にもEVの普及がCO2削減に有効な手段であるとは限らない、を参照のこと)。運転コストが安い原子力と再生可能エネルギーはEVの電力需要に関わりなく発電を続けるのでことから、EV需要によって変化するのは火力発電になるので、EVの影響を電源平均で評価するというのは現実と乖離している。将来的にCO2削減を優先して電力計画を立てる場合や、適切な炭素税が導入されて石炭火力のコストが上昇する場合は、EVの電力需要がない場合は石炭火力の新増設を中止または古い設備を廃棄することになるので、マージナル電源は石炭火力になるというのが筆者の考えだ。

 一方、EVが普及すれば大容量の蓄電システムとして使えるので、昼間の余剰電力(太陽光)を蓄えて、電力不足の時間帯に利用することで効果的にCO2削減が可能になるという検討が進められている。確かに、この電力で火力発電を停止すれば大幅にCO2削減が可能になる。ただし、EVが普及することを前提にした議論であって、最初から余剰電力の有効利用を考えるなら、EVへの補助金やユーザー負担分を使って巨大な蓄電システムを構築したほうが、効率的で社会的コストも少なくできるはずだ。耐環境性能が厳しい上に大きな充放電出力と軽量化が必要なEVの電池は高価である。何よりも重い電池を車で運ばなければならないEVは効率のいい自動車とは言えない。

 ハワイのカウワイ島ではすでに100Mwh(ピーク時の電力需要の40%を供給)が設置されており、充放電効率は91.6%と報告されている。余剰電力をEV充電に使うのではなく、90%の効率で蓄電して石炭火力発電の代わりに利用すると、発電にともなうCO2排出量が182×0.9=164g/km減少するので、EVの代わりに(129g/km)HEVを走らせた方(129g/km)がCO2排出量が減少する。原子力とセットで考えれば環境にやさしいEVだが、石炭火力とは相容れない。EVの普及より石炭火力の廃止が先だと思う。

図2

 世界的にもマージナル電源のCO2排出係数を使うべきとの主張がいろいろな場面で見られるようになってきている。19年8月に京都で開かれたJSAE(日本自動車技術会)とSAE(アメリカ自動車学会)の合同ミーティングでも、カリフォルニアのサンディア国立研究所のマイルズ博士が、基調講演でEVと従来エンジン車とのCO2排出量の比較について述べている。図2に電源平均と短期的マージナル電源を使ったEVと、従来エンジン車のCO2排出量の計算結果を示す。電源の仮定によって計算結果が大きく変わることがよくわかる。
次に、再生可能エネルギーを積極的に取り入れ,石炭火力を廃止していく方向の欧州では日本と事情が異なるので,欧州の場合について考察する。

 欧州では風力発電と水力が再生可能エネルギーの主力なので,夜間に再生可能エネルギーによる余剰電力が発生する。この余剰電力を直接EVの充電に使うとEVはカーボンニュートラル走行ができる。ただし,欧州に多い褐炭による発電は一般炭よりCO2排出係数が大きいので,充分な蓄電設備を整備して余剰電力を蓄電して褐炭火力を削減することに使うと,EVに代えてHEVを普及する方が日本以上にCO2排出量が減少する。

図3

 一方,欧州ではEU内で国を超えて電力が融通されているので,電力の移動を考慮してマージナル電源を特定する必要がある。図3に示すように,排出係数が大きく異なるドイツの風力発電(青矢印)とポーランドの石炭火力発電(茶矢印)はそれぞれ隣国でも大量に消費されている。極端な一例を示すと,原子力と再生可能エネルギーが発電がの大部分を占める、電力平均の排出係数が非常に小さいスエーデンでEVの普及を中止してHEVを普及すると,EVの充電で消費していた電力は不要になって隣国のリトアニアに輸出される。スエーデンから電力が入ってくる電力が増加するとリトアニアは石炭火力の多いポーランドからの電力輸入を減少する。結果的に石炭火力(条件によっては天然ガス火力)が停止するので、この場合のマージナル電源は主としてポーランドの石炭火力になり,CO2排出量が大きく減少する。

 すなわち,欧州全体としてこのような政策を実施すれば,石炭発電がマージナル電源に相当する場合が多い。将来的に充分な炭素税が施行されると,経済原理から上記のことが起こる可能性が高い。さまざまな要素が関係してくるので,長期的マージナル電源の特定は非常に難しいが、石炭火力削減の大きな流れから大局的に捉えると,EVの充電需要が存在すればその分は石炭火力の削減スピードを低下させると考えられるので,欧州でも長期的なマージナル電源は石炭火力ということになり,日本での検討結果を当てはめることができる。このことは,石炭火力が稼働している地域・国においては世界中どこでも適用できる考えである。
以上述べたように、EVの普及によるCO2排出量を検討するには、EV単独ではなく、充電需要が電源構成に与える影響を充分に考慮した上で、「EVと発電所の総合システム」が排出するCO2として捉えないと評価を誤る可能性がある。さらにCO2削減に必要な社会的費用についてもEV以外の他の方法との比較検討が必要だ。

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