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カムはダブルかシングルか? 現代のエンジンがDOHCである理由

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(PHOTO:BMW)

巨人・大鵬・卵焼きじゃなかった白黒テレビに冷蔵庫に洗濯機が三種の神器といわれたのは1950年代末のこと、石油ショックによる排ガス規制の大嵐が吹き荒れたあとに自動車用エンジンには高出力追求の時代が訪れ、「ターボかツインカムか」という愉快な論争が繰り広げられることとなった。時代を下って現代、もはやDOHCではないエンジンを探すほうが難しいのはなぜか。あらためてDOHCの効能を考えてみる。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)

 ガソリンエンジンのバルブ駆動系はDOHCが主流だ。DOHCはDouble Over Head Camshaftの略である。吸気バルブと排気バルブの開閉制御を、燃焼室の上に配置する独立した2本のカムシャフトで行なう動弁機構を指す。1本のカムシャフトで吸気バルブと排気バルブの両方を開閉制御するOHCが先にあり、その進化形の位置づけだ。

 OHCはカムシャフトが1本なので、DOHCと対比させる意味でSOHCと呼ぶこともある。SはSingleの意味だ。また、DOHCは2本のカムシャフトで構成するので、ツインカムと呼ぶこともある。その手でいくと、OHC/SOHCはシングルカムだ。

(PHOTO:BMW)

 DOHCとOHCはそれぞれメリットとデメリットがあるが、燃費や出力、排ガスのことを考えると、DOHCにしたくなる。いっぽうで、コストや重量面ではOHCのほうが有利だ。なにしろ、カムシャフトの本数は半分だし。シリンダーヘッドもコンパクトにできる。

 燃焼に使う空気をたくさん入れ、燃焼後の排ガスを効率よく排出するためには、吸気バルブの面積は大きく、排気バルブの面積も大きくしたい。OHCでも吸気2、排気2の各気筒4バルブにできないことはないし、現実に存在したが、カムシャフト1本で成立させようとするとバルブ挟み角などに制約が生まれてしまう。OHCの場合は吸気1、排気1の各気筒2バルブのほうが相性はいい。そうすれば、カムシャフトだけでなくバルブも半分になってコスト低減効果は大きい。

 DOHCのメリットは、バルブ面積を大きくとることができ、ポート形状に合わせたバルブ挟み角にするのが容易で、バルブ開閉タイミングの設定自由度が大きいことだ。ネガティブ(うれしくない)な面よりもポジティブ(ありがたい)な面のほうがたくさんあるので、現代ガソリンエンジンの当たり前技術になっているのである。

(PHOTO:BMW)

 エンジンは、吸入行程でピストンが下降することによって生じる負圧によって、空気をシリンダーに吸い込む。エンジンの性能は吸い込んだ空気の量に比例するといっていいので、効率よく、たくさん吸いたい。燃焼が終わったら、排ガスはやはり効率よく外に出し、シリンダー内を新鮮な空気で満たしたい。排出しきれずに熱い排ガスが残っていると、ノッキングなど異常燃焼の原因になる(状況によっては、あえて排ガスを残すが)。

 吸気側、排気側のバルブ駆動系の構造(ポート形状やバルブ挟み角など)と設定したバルブタイミングしだいで、エンジンの素性はほぼ決まってしまう。だから、吸気バルブと排気バルブの開閉タイミングは個別に制御したく、それゆえDOHCに落ち着くのである。

連続可変タイミング機構がエンジンの高効率/高出力の両立を実現した。現代においては必須のデバイスである。(PHOTO:BMW)

 吸気バルブと排気バルブの開閉タイミングが個別に制御できるとなると、いいことがたくさんある。バルブが開いたり、閉じたりするタイミングを可変制御する可変バルブタイミング(VVT)を採用することで、燃費や出力を向上させたり、排ガスをきれいにしたりすることが、柔軟にできるようになるのだ。アイドリング時や全開時など、エンジンの運転状態に応じた開閉タイミングにすることができるようにもなる。

 吸気バルブを吸気行程の途中で閉じたり(早閉じ)、圧縮行程の途中で閉じたりして圧縮比より膨張比が大きくなるように吸気バルブの閉じタイミングを制御すると、燃焼サイクルの効率が高くなって燃費に効く。また、下死点から圧縮を始める通常のエンジンに比べて上死点での混合気の温度は低くなり、ノッキング防止効果が高まる(熱効率を高くできる)。

 排気バルブの閉じタイミングを制御すると、排ガスをシリンダー内に閉じ込めたり、逆流させたりするEGR(内部EGR)を導入できる。これを次のサイクルで燃焼させると、有害物質のひとつであるHCの低減効果が得られる。内部EGRを入れておいてスロットルは大きく開いておき、吸気バルブの閉じタイミングで吸気量を制御すれば、ポンピングロスを低減できる(ので、やはり熱効率を高くできる)。

 また、吸気行程で吸気バルブが開くタイミングを遅らせると、シリンダー内が負圧になり、吸気バルブが開いたときに空気は断熱圧縮されて温度が上がり、火がつきやすくなる。これを利用して点火時期を遅らせると、排ガス温度が高くなって触媒の暖機性が高まる。つまり、始動時に有効だ。

世界で最も成功した連続可変リフト機構・バルブトロニック(PHOTO:BMW)

 可変バルブタイミングはバルブが開閉するタイミングを前後にずらすシステムだが、バルブがリフトする量を大きくしたり、小さくしたりするシステムが可変バルブリフト(VVL)だ。VVTと同様、熱効率や排ガス性能の向上に効く。

 燃焼を緻密に制御しようとすればするほど、吸気バルブと排気バルブの開閉タイミングやリフト量は個別に制御したい。VVLは少数派だが、VVTはもはや一般的で、VVTを効果的に使うことを考えると必然的にDOHCという選択になる。DOHCとVVT(吸気側のみの例が多く、吸排VVT付きも存在する)の組み合わせは、軽自動車でも一般的な技術だ。

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