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[毎週月曜日朝更新企画]自動車業界ウラ分析:CAFCとNEVの「ダブル規制」継続の切り札 中国政府がついにハイブリッド車優遇へ 自動車産業に関わっている人は知っておいて損はない。自動車の世界最大市場・中国の方針転換のウラ事情。CAFCとNEV規制はこうなる!

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 中国の政府発表は、どうとでも解釈できるものが多い。具体的に「これはこうです」と明記しない。日本の法律によく似た階層構造だ。法律があり、その運用は運用令や施行規則で定め、最後の最後は明文化されていない行政指導で丸くおさめる。工信部発表の「低燃費乗用車」も、まさにこれだ。燃費がどれくらいなら「低燃費」なのか、いっさい触れていない。おそらく、これから決めるのだろう。その燃費の測定モードも示していない。ただし、低燃費乗用車は、2021年はマイナス0.5クレジット、2022年はマイナス0.3クレジット、2023年はマイナス0.2クレジットとして扱うことは明記されている。

 これはつまり、低燃費乗用車の優遇が2021年より2022年のほうが手厚く、さらに2022年より2023年のほうが手厚いということだ。来年は低燃費乗用車2台作ると「伝統的車両1台分」と同じマイナス1クレジットになる。2023年には、低燃費乗用車を5台作っても「伝統的車両1台分」と同じマイナス1クレジットになる。これはHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル=ハイブリッド車)優遇にほかならない。燃費のいいHEVを「中国で生産してほしい」ということだ。

 中国はNEVにHEVを入れなかった。おもな理由はふたつあると思う。ひとつはガソリン消費を減らしたい(つまり原油輸入量を減らしたい)という中国政府の目標に対し、内燃機関エンジンを積むHEVでは「適さない」こと。もうひとつは、いまさら内燃機関エンジンでは日欧米韓にかなわないから、自動車産業の戦いの土俵を変えて電動車分野を開拓すること。国を挙げてバッテリー、電動モーター、制御系の開発を進め、この分野で自動車強国になること。だからHEVは排除した。

 中国のある大学が「トヨタ・プリウスの制御プログラムをすべて書き出し、これをコピーする」作業を行なっていたことは、関係者の間では有名な話だ。しかし無駄に終わった。あまりに制御が緻密すぎたのだ。これ以降、中国政府はHEV開発には消極的になった。しかし、BEV、PHEV、FCEVで始めたNEV規制は思うように進まない。このままでは政府のメンツにかかわる。だから「NEVではない低燃費乗用車」というカテゴリーをCAFC規制内に作り、これでNEV生産目標が増えてもCAFCクレジットでNEVクレジットの穴埋めをしやすくする。これが中国政府の狙いだと思われる。

 もっとも、中国政府も「NEVが売れていない」ことはよく知っている。中国メーカー勢の「○○新能源」が製造したNEVは、それぞれのメーカーの地元で役所や公共施設に売り込み、メーカー自身も社用車としてNEVを使っている。さらに取引先の部品メーカーや金融機関にもNEVを買ってもらっている(おそらく割引で)。以前、中国メディアSina.comは「NEV販売台数の約23%が自動車メーカー直営フリート企業向けだ」と報じた。直営フリートとは自動車メーカー自身が経営するレンタカー会社やカーシェア会社などを指す。

 実は、一般ユーザーが購入したNEVは「全体の6割くらいではないか」という推測もある。筆者は中国メディアと20年来の交流があり「汽車の友」などの媒体に連載コラムも寄稿していた。大学の自動車研究者諸氏とも交流がある。彼らの証言をつなぎ合わせると、どうもNEV販売台数の半数は「一般ユーザー以外が買っている」ように思える。その証拠は、昨年7月に実施されたNEV補助金の大幅カットだ。7月を境にNEV販売台数は激減した。10〜12月は前年同月比で40%以上のマイナスだった。おそらく、このマイナス分が一般ユーザー向けではないかと思う。

荣威ERX5 | 上海汽車集団の上海荣威が生産するBEVのSUV「ERX5」。上海荣威はもともとローバーから買収した知的財産でクルマを作る会社だったが、現在はMGとROEWE(荣威)で輸出市場を開拓するポジションになった。

 中国では、NEV補助金は購入者ではなく自動車メーカーに支給される。補助金を受け取った分だけ「安く提供しなさい」という仕組みだ。見方を変えれば、NEV補助金は「NEV製造報奨金」である。売れても売れなくても、作れば補助金がもらえる。中国の内陸部へ行くと、BEVがずらりと並んだモータープールを目にすることがある。昨年7月のNEV補助金大幅カットによって倒産した「○○新能源汽車」は数社あり、出荷されないままの在庫が放置されているのだ。おそらく、そのまま朽ち果てるだろう。

 すでに自動車業界内と自動車研究者の間では「政府のNEV政策は失敗」と言われている。中国の自動車メーカーの相当数はNEV目標を達成していて未達成は外資合弁のほうが圧倒的に多いのは事実だが、中国メーカーのNEVが技術的に外資メーカーのNEVにかなわないことは中国政府も認識している。そこで「低燃費乗用車」というカテゴリーを追加し、外資メーカーがマイルドHEVやフルHEVを販売しやすくし、その技術を提携相手である中国国営メーカーに供与してもらう。これで自動車市場全体の燃料消費量を減らす。中国政府はこういう戦術に出たのだろう。

 この背景には、NEVクレジット売買という中国独特の制度も見え隠れする。NEVノルマを達成できなくても、中国政府が自動車メーカーにペナルティを課すことはない。「業界内で片付けなさい」という姿勢だ。

 CAFC積分の数字がマイナスの場合、もし自社がNEVのプラスクレジットを獲得していたなら、それで補填することができる。前述の上海GM五菱はそれが可能だ。あまりにCAFC積分のマイナスが大きい場合は、新規の製造認可申請が却下されることがあると言われている。また、燃費極悪のモデルを放置すると「製造認可が取り消しになる」とも言われている。CAFC規制には罰金がないが、中国政府は許認可権を武器にしているのだ。

 一方、NEV規制ではNEV積分がマイナスの場合は他社からNEVのプラスクレジットを買い取るという道を選択できる。同じグループ内に所属し25%以上の資本関係があるメーカー同士の場合は、そこで融通し合うこともできる(価格は要相談)。じつは、グローバルメーカーの多くがこの方法を選択している。あらかじめNEVクレジット買取契約を結んでいるのだ。

 VWの場合は中国の江淮汽車と江淮大衆汽車有限公司(大衆とはフォルクスの中国語訳)という合弁会社を設立し、ここでNEVを生産している。この会社が獲得したNEVクレジットは上海大衆汽車と一汽車大衆汽車が第1優先権で買い取ることができる。会社設立時点でこういう契約を結んでいる。

 中国メーカーも、たとえば浙江吉利汽車はボルボから技術をもらった中級以上のモデルを生産しているためCAFC積分もNEV積分もマイナスだが、同じグループに小型車専門の浙江豪情汽車があり、ここが獲得したNEVクレジットで補填できる。

 まだ自社製品としてのNEVを持っていない外資合弁の場合は、とりあえず伝統的車両の燃費を向上させ、CAFC積分でマイナスにならないようにする。政府から与えられたNEV積分目標については、中国民族系の「○○新能源汽車」にお金を払って買い取る。この方法で2〜3年はしのぐことができる。ダイムラーはBYDとの合弁会社からNEVクレジットを買い取り、トヨタは広州汽車集団からNEVクレジットを買い取る。今年についてはそんな状況である。

中国の内陸部へ行くと、ガソリンスタンドがない町がある。自動車のインフラが整っていないのだ。そういう町にも改造EVを売る小さな工場がある。ラダーフレームにモーターを取り付け、汎用部品で構成した制御ユニットを積む。

 ここに「低燃費乗用車」が入ってくると、おそらく外資メーカーはHEVに切り替えるだろう。そのぶん、NEVクレジットのマイナスが減る。そうすればクレジット購入のための費用負担が減る。前述したように中国での外資グローバルメーカーは中国国営メーカーとの合弁事業であり、だからクレジット購入費用は出資比率に応じて中国国営メーカー側も負担しなければならない。これがバカにならないのだ。

 2019年のCAFCとNEVの実績が出る前、昨年夏の補助金大幅減額でNEV販売台数が激減する前に中国政府は「低燃費乗用車」の導入を決めていた。素案は昨年7月に一部が公表されている。そして、2019年実績が明らかになり「このままではNEV規制そのものが崩壊するという危機感を抱いた」と中国メディアからは聞いた。おそらく「低燃費乗用車」はかなりの低燃費に設定されるだろう。すでに中国メディアは「トヨタやホンダのHEVが有利になる」と書いている。

 中国はCAFCとNEVのダブル(二重)規制であり、政府は両方をうまくからめてCAFCクレジットとNEVクレジットを「統一管理」している。そもそもの話をすれば、燃費と電動化率の両方に規制を敷くという点で世界的には例のない強引なやり方である。しかし、その運用ではあからさまに罰金を徴収せず、中国企業のフトコロに外資グローバルメーカーのお金が流れ込むようにした。そして、中国企業がクレジット売買で稼いだお金の幾らかを税金として政府が徴収する、と。しかし思惑通りには事は進まなかった。中国国営自動車メーカーですら「政府は無策」と批判するほどNEVは売れていない。当初の方針を曲げてでもHEVをある程度優遇することが現実的でありNEV規制失敗論を一蹴できる。これが中国政府のいまの心境なのだろう。

企業別平均燃費(CAFC)と新エネルギー車(NEV)の同時管理措置改定

工信部発表の中国語原文を筆者が和訳した。この文面からは「低燃費乗用車」という分類が新たに発生することと、来年以降のNEV生産比率がどんどん増えることしかわからない。参考までに掲載する。(牧野茂雄)

企業別平均燃費(CAFC)と新エネルギー車(NEV)の同時管理措置改定
2020年6月15日決定/22日公布

 CAFCおよびNEVの両クレジット管理の修正に関する決定は2020年4月23日に産業情報省大臣会合で承認され、商務省、税関総局、および各自治省の市場監督管理局が承認した。2021年1月1日を持って発効する。

 中国の省エネルギーおよびNEV開発ニーズを満たすために、工業和信息化部(工業情報部)および他の関連部門はCAFCとNEVの並列管理措置を次のように変更する。

1)第4条3項の改定:ここで言及される従来自動車はNEV以外のガソリン、ディーゼル、ガス燃料またはアルコール燃料を指す。

1-2)第4条4項の追加:低燃費乗用車は乗用車の燃料消費量の評価方法と指標(GB 27999)を超えない燃料消費量である。積分法の計算結果は小数点第2位で四捨五入。

2)第12条の改定:年間2000台未満の生産または完成車輸入を行う企業についてはCAFC積分法達成の要件を緩和する。

2-1)2016〜2020年の間にCAFCが前年比6%以上改善した場合は達成目標を60%緩和し、同3%以上6%未満の改善の場合は30%緩和する。

2-2)2021〜2023年の間にCAFCが前年比4%以上改善された場合は達成目標を60%緩和し、同2%以上4%未満の場合は30%緩和する。

2-3)2024年以降については別途決定する。

3)第16条への追加:NEVではない低燃費乗用車の販売・輸入については以下のように計算する

3-1)2021年、2022年、2023年の低燃費乗用車生産または輸入台数は、0.5倍、0.3倍、0.2倍に勘定する。

3-2)2024年以降については別途決定する。

4)第17条への追加:全乗用車出荷台数に占めるNEV導入目標の比率は、2019年が10%、2020年が12%、2021年が14%、2022年が16%、2023年が18%とする。2024年以降は別途決定する。

5)第22条の改定:NEV生産により取得したクレジットは自由に取引できるが、その繰越期間は3年を超えてはならない。

5-1)2019年のNEVクレジットは1年間だけ同じ金額で繰越可能。

5-2)2020年のNEVクレジットは、持ち越しを繰り返すごとに持ち繰越率は50%になる。

5-3)CAFC目標値と実際のCAFC値の比率が123%を超えない場合は、その年にNEV生産で得たプラスクレジットは持ち越すことができる。持ち越す場合は、持ち越しの繰り返しごとに比率50%になる。NEV専業メーカーがNEV生産で取得したクレジットは50%まで繰り越せる。

5-4)第22条4項への追加:工信部は自動車産業の発展に応じて補償期間の延長と2020年生産のNEVについての繰越比率を調整することができる。

6)第23条の改定:以下の関係のうちのひとつを持つ自動車製造および輸入会社は、第22条1項に指定されている関連会社とみなす。

6-1)国内およびその他の国の乗用車生産会社で、直接または間接の株式の合計が25%を超える企業。

6-2)第三者が保有する直接または間接の株式の合計が25%を超える国内の乗用車メーカー。

6-3)海外の乗用車メーカー、海外の乗用車メーカーと直接または間接的に25%以上の株式を保有する国内乗用車メーカー、国内の乗用車生産企業が直接的または間接的に承認し25%以上の株を所有する乗用車輸入企業。

7)第27条の改定:従来エネルギー車の生産で課せられたマイナスクレジットはNEVのプラスクレジットで補うことができる。

8)第28条の改定:2021年に生産されたNEVで獲得したクレジットで2020年のNEVクレジットのマイナス分を補うことができる。

9)第3条、第21条、第31条および第32条の「品質監督・検査・検疫総局」を「市場監視総局」にあらためる。

10)第32条の改定:市場監視総局は、輸入されたNEVおよびNEV以外の乗用車の燃料消費量を検証する責任を負う。

■積分計算法の改定(クレジット計算は小数点第2位を四捨五入する)

●BEV:
クレジット計算式は「0.0056×R+0.4」
実際に付与するクレジットは
「標準クレジット×走行距離調整係数×エネルギー密度調整係数×消費電力係数」で計算する

1)Rは航続距離kmで100km未満の場合は0クレジット、100以上150未満の場合は1クレジット。上限は3.4クレジット
2)走行距離調整係数は航続距離100km以上150km未満が0.7、150km以上200km未満は0.8、200km以上300km未満は0.9、300km以上は1
3)エネルギー密度調整係数はバッテリーの質量エネルギー密度が90Wh/kg以下の場合は0、90Wh/kg以上105Wh/kg未満の場合は0.8、105Wh/kg以上125Wh/kg未満の場合は0.9、125Wh/kg以上の場合は1。
4)最高速度100km以上。車両重量(※筆者注:m=kgとの表記だが、おそらくmはマスの意味でkgと同義語)に応じて電気エネルギー消費量の目標値Yを設定する。目標値を満たしている場合は消費電力調整係数(EC係数)は目標値÷実績値で計算し小数点第2位を四捨五入する。上限は1.5とする。電費が目標値以下の場合は0.5とする。
目標値:m≦1000の場合はY=0.0112×m+0.4、1000<m≦1600の場合はY=0.0078×m+3.8、m>1600の場合はY=0.0048×m+8.60。

●PHEV:1.6
PHEVは、「PHEV乗用車の技術条件」(GB / T 32694)を満たす必要がある。 車両の電力保守モードテストの燃料消費量(電気エネルギー変換の燃料消費量を除く)は、乗用車の燃料消費量制限(GB 19578)が対応する車両の燃料消費量制限と比較して70%未満である必要がある。 消費電力モードテストの消費電力は、従来のBEVの消費電力目標値の135%未満である必要がある。この2つの指標を同時に満たすことができないPHEVは標準クレジットの0.5倍とし、クレジットはその社内でのみ利用できる。

●FCEV:0.08×P
Pは燃料電池システムの定格出力kW。上限6クレジット。
FCEVの走行可能距離は300km以上、Pは駆動モーターの定格出力の30%以上とする。10kW以上の場合、獲得クレジットは標準クレジットの1倍、これ以外の場合はクレジット0.5倍とし、クレジットは社内でのみ利用できる。

注:2021年1月1日より前に型式承認されGB / T 32694-2016の要件を満たしているPHEV乗用車は、2023年1月1日以前の標準車両モデルに対し特定のクレジットで1.6クレジットを獲得でき、上記のPHEV乗用車の要件に従って付与される。乗用車製造および輸入企業のNEVクレジット実績値を計算するとき、会計年度(暦年)に同じ車種の複数の獲得NEVクレジットがある場合、これらは異なるクレジット計算方法に従って別々に計算する。

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