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【アーカイブ・一世一台】マークⅡへのレクイエム、トヨタ・ヴェロッサの「非トヨタ式」への賭け

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特徴的デザインのみならず、直6エンジンがしっとりした走りを感じさせてくれたトヨタ・ヴェロッサ。

何代もの代替わりでその名が永く継承されるクルマもあれば、一代限りで途絶えてしまうクルマもある。そんな「一世一台」とも言うべきクルマは、逆に言えば個性派ぞろい。そんなクルマたちを振り返ってみよう。

人間中心のデザインの時代。その時、クルマは…?

「デザインをかっこよく変えてほしい。これからのクルマには、これが欲しいと思わせるデザインが重要だ」
2009年、トヨタ自動車第11代社長に就任した豊田章男氏は、2011年に同社デザイン本部長に任命した福市得雄常務役員(当時)にこう要請したという。
これに対する福市氏の回答は、「かっこいいクルマをつくろうと思うなら、現時点では、ちょっと変じゃないかと思われたり、抵抗感があったりするくらいがちょうどいい」であった。
こうして生まれたのが、「CROWN Re BORN」を旗印に掲げ、アヴァンギャルドとも言えるデザインをひっさげて2012年に登場した14代目のS140系クラウンだ。

この話は、当時、様々なメディアで喧伝されたから、ご存知の方も少なくないだろう。トヨタ伝統の主力車種であるクラウンがその姿をガラリと変えたことから、自動車メディアのみならず、経済誌紙どころか一般大衆誌や新聞にも、新世代の社長の姿や談話とともに華々しく「改革」、「革新」、「斬新」といった言葉が躍った。
その、お祭り騒ぎのような喧騒を尻目に、筆者はこの8年ほど前に、わずか3年の生涯を閉じた、とあるトヨタ車のことを思い出していた。
それがヴェロッサである。

ファンカーゴやbB(ビービー)、オリジン、WiLL Vi(ウィル ブイアイ)、WiLL VS(ウィル ブイエス)、WiLL サイファと、1999年から2002年にかけて…と言うよりは、20世紀から21世紀へと時代が移り行く時に、トヨタはアトラクティブなデザインのクルマを続々とリリースしていた。発売の時系列から見れば、ヴェロッサもそんな中の1台だったと片付けられてしまうだろう。

このトヨタのデザインの一連の流れを、1985年のBe-1にはじまる1980年代後半から1990年代中盤にかけての日産のパイクカーと比肩する言説も見られるが、それは違うのではないか。日産のパイクカーは「インスタント・クラシック」を志向したデザインの試みであったのみならず、少量生産にも対応した生産技術の涵養と合理化の実証実験としての側面を持っていた。
だが、生産技術を十分に涵養し尽くしているとも言えるトヨタにあっては、明らかに「21世紀を迎えて、トヨタ車のデザインはこのままでよいのか?」という焦燥の方が前面に立っていたように思う。
もっと言えば、「WiLL」シリーズのように、今後、増大することが予想される他業種とのコラボレート企画において、自動車以外の業界のデザインとトヨタ車のデザインが、どう足並みをそろえていくのかという課題も抱えていたはずだ。

この時期にはまた、デザイン界全体にも大きな流れが起こっていた。
1990年にアメリカで「障害を持つアメリカ人法(Americans with Disabilities Act of 1990=ADA )」が成立したことから、建築家のロナルド・メイスが提唱していた「ユニバーサルデザイン」がクローズアップされ、1990年代後半から日本でも盛んに研究され始めた。これと同時に人間工学が顧みられ、QDA法(定量的記述分析法)を背景に、感覚や情緒的経験を誰にでも理解できる言葉で表現する官能評価ががぜん注目を集め始めた。
つまり、「何らかの理論に基づいた人間中心のデザインの構築」だとか「ヒトの情念や情動の実体化」が試みられ始めたのだ。「ヒトが中心のデザイン」…大げさに言えば「プチ・ルネサンス」である。

このような雰囲気の醸成は、当然、新たな21世紀という時代を迎えんとしていたカーデザインにも影響を与えぬわけがなかった。
トヨタで言えば、ラウムというクルマがその好例だろう。1997年に登場した初代が掲げた開発テーマは「"乗る、使う、楽しむ”を具体化するヒューマン・フレンドリー・コンパクト」 であり、2003年に登場した2代目はそのものズバリ、「クルマ作りにおけるユニバーサルデザインの追求」 だった。
無論、このような流れはトヨタに限ったことではなかった。

吸い込まれるような形状をもつ、立体的な構造のインテークに惹かれるフロントマスク。
躍動感あふれるリヤビュー。尻を上げ、低く構えて獲物を狙う猛獣がイメージ。
何といってもヴェロッサで最も刺激的なのが、「シャドーストリームライン」と呼ぶ、前後フェンダーの強烈なキャラクターライン。タイヤを包み込む立体を強調する意図である。

デザインというカンフル剤がヴェロッサを生んだ。

さて、2001年に登場したヴェロッサというクルマはX110の型式名からわかる通り、トヨタを代表するアッパーミドルセダンであったマークⅡ、そのシリーズ最後を飾った9代目X110系の姉妹車であり、この代でなくなったチェイサーおよびクレスタの後継車である。
ビスタ店系列での発売なので、厳密にはクレスタの後継車だが、チェイサーはこの代で消滅して統合されたため、両車種の後継ということになる。
そして、このクルマがクレスタを名乗らなかったのは、チェイサーとの統合後継車であったこともあるが、それよりもなお、開発者の「想い」の方が大であった。

開発を指揮したのは母体であるX110系マークⅡと同じく、第1開発センターの大橋宏チーフエンジニア(当時)である。入社当時の最初の仕事が初代クレスタの開発であり、以来19年、およそ歴代マークⅡファミリーを知り尽くしていたと言ってもいいエンジニアは、ヴェロッサの開発の発端について尋ねられたとき、「自分自身が担当し、あこがれたクルマだったが、21世紀にふさわしい存在かというと、やはりクレスタは目に入ってこなかった」と語った。
もちろん、これはクレスタの話だけにとどまらず、母体であるマークⅡも含めてのことだったのだろう。結局のところマークⅡも、この9代目をもって最後となり、この後はコンセプトは継承するものの、マークXになってしまうのだから…。

この大橋氏の言葉は2001年当時のトヨタの商品構成、とりわけ2.5~3ボックスの4ドア・セダン(ハードトップ、ピラード・ハードトップを含む)のラインアップを見れば納得が行く。この当時は下からカローラ、コロナ、マークⅡ、クラウンというトヨタのセダンの伝統的なヒエラルキーに、1989年からセルシオ、91年からはFRのマークⅡと同クラスでFFのウィンダム、99年からはカローラより下のクラスのプラッツ(78年からのターセルの後継)が加わっている(ハイブリッド車とセンチュリーは除く)。

つまり下から順に

プラッツ<カローラ<コロナ(のちにプレミオやアベンシス)<マークⅡ=ウィンダム<クラウン<セルシオ

という並びになり、商品構成に交通渋滞が起こりつつあった。「21世紀に何が残るべきか?、何を残すべきか?」は、当時のトヨタにとって喫緊の課題であったに違いない。

クルマは商品である以上、代を重ねるごとに、先代よりも快適で安全、立派であることが顧客から求められる。「先代よりも上」を追求すれば、代を重ねるごとに、サイズにしても装備にしても、必然的に上のクラスのクルマに限りなく肉薄することを意味する。
そしていずれは、上のクラスのクルマとの境界を越えてしまい、立場が逆転しかねない。そうなると、そのクルマの存在意義そのものが問われるようになり、たいていの場合はそこで生涯が閉じられ、同クラスの新たな名前の別のクルマが登場して一からリスタートする。

だが、それはあくまで商品の数による。商品の数が多ければ、リスタートをかけずに廃止される商品が出てくるのもまた必然である。
結論から見てみよう。2020年現在の、ハイブリッド車やセンチュリーを除いた、トヨタの4ドア・セダンは下から順に、

カローラ アクシオ<プレミオ<カローラ セダン<クラウン

となる。

カローラは2006年発売の10代目から世界商品へ進化して3ナンバーサイズ化したため、日本国内では5ナンバーサイズを堅持したカローラアクシオが新たに誕生し、国内専売車種となった。
だが、2019年から世界商品である本家の無印カローラも日本で販売されることになったため、かつてのコロナであるプレミオの上にカローラが来るという、逆転現象が起こってしまった。
乱暴に言えば、現在は本家カローラが、かつてのマークⅡのポジションに立っているわけだ。また、2005年から日本でもレクサス・ブランドの展開が始まったため、トヨタ車としてのトップエンドはクラウンということになった。

こうして見ると実は2020年現在は、結果的ではあるものの、カローラ<コロナ<マークⅡ<クラウンという、かつてのヒエラルキーと同じところへおさまっている。
つまるところヴェロッサが登場した2001年、21世紀に入った頃のトヨタに起こっていたのは、「コロナとマークⅡを生かすのか、殺すのか?」という議論だったのではないかと思われるのだ。

これでようやく、ヴェロッサの開発を担った大橋氏が、当時のインタビューでポツッと語った「このまえ、クレスタの生産終了式に立ち会ってきたんです。僕はクレスタを殺した男ですから…」という言葉の意味が理解できる気がする。
単なる技術者の感傷とか自嘲と受け取れるが(事実、筆者も当時はそう受け取っていた)、その後のマークⅡ一族の行く末を考えると、もっと深いものが隠されていたように思える。
そう、この当時のクレスタ、いや、マークⅡ一族は、すでに今で言う「オワコン(="終わったコンテンツ”の略。主に一般ユーザーに飽きられてしまい、一時は栄えていたものが現在は見捨てられてしまった、時代に合わなくなった事物のこと)」だったのだ。それは入社当初からマークⅡ一族にかかわってきた大橋氏には、痛いほどよくわかっていたのかもしれない。

そんな「オワコン」がたどるべき道は2つだ。ひとつは細々と延命措置を施しつつ、自然にフェードアウトする自然死とでも言うべき道。そしてもうひとつは、そこで寿命が途絶えるかもしれないが、今までとはまったく違う、思い切った治療法を試す道である。
いわばヴェロッサは、マークⅡ一族の延命を模索して後者の道を選び、「一度、死んで、生まれ変わる」ことを意図していたのだろう。そしてそのために選ばれたのが、最も即効性のある、しかし、外した時のダメージが最も大きい「デザイン」というカンフル剤だったのだ。すなわち「Re Born」であり「デザイン重視」。これが後年、もう一度、14代目クラウンに対して浮上してくる。トヨタ流のジレンマ打開のイノベーションとでも言えようか。おそらくこれを最初に試みたのがヴェロッサだ。

「まずスタイリングが優先だったんです。そのなかに、いかに機能を融合させるか。成り立っていないようなデザインを、設計がいかにリカバリーするか」と大橋氏は語っているが、これがヴェロッサというクルマのアルファでありオメガだった。
無論、スムーズに回る直列6気筒エンジンを積んで上質な走りを供するFRセダンという、歴代マークⅡゆずりの中身の良さに加え、走りのスポーツ・セダンを志向したゆえの専用チューニングが生み出す爽快感は、運転音痴の筆者がちょっと試乗しただけでも違いがわかるほどのものだった。中身は、およそ歴代マークⅡ一族の知見が総動員されていると言ってもよい「いいクルマ」である。
2002年にはトヨタ・グループ内のカロッツェリアとでも言うべきモデリスタから、ヤマハ製の専用ターボを装備し、なおかつ専用チューニングが施された「ヴェロッサ・スペチアーレ」なる、さらに走りに磨きをかけた特別限定車まで発売されたが、それでもなお、ヴェロッサは「デザインありき」の車であった。

開発に掲げられたキーワードは「エキゾチック」。一般的には「異国的」「風変り」「奇妙」など形容詞的解釈で受け取られるが、ヴェロッサにおいては、むしろ「非標準型」という名詞的解釈で用いられていた。「非トヨタ的」とも言い換えられよう。
しかし、これはいささかエンジニアには理解し難かったようで、「出てきた言葉がエモーショナル。エモーショナル・フォルム、エモーショナル・ドライビング、エモーショナル・テクノロジーという3つの柱で造っていこうということになりました」という。今で言えば「エモい」という言葉にでもなろうが、ここに当時の「ヒト中心」「情動至上」の「プチ・ルネサンス」的な雰囲気を背景にした景色がうかがえる。

また、大橋氏からは「ファーム=硬質」という思想も語られていたが、これも、今で言えば「トンガッてる」とか「刺さる」という言葉になる。こうして見ると、当時は極めて異質に見えていたヴェロッサというクルマが、実は20年ほど先を歩いていたのではないかとさえ思えてくるのだ。

しかし、現在でも状況はさして変わらないが、ドイツ車に対する絶対的信仰のようなものが存在していた当時の日本では、イタリア語の「vero-rosso=ヴェロ・ロッソ」(真実の赤)を語源とするヴェロッサの、同時代のアルファロメオ車--たとえば145/146や147、あるいは156--を思わせる、ラテン系の血が入ったかのようなデザインは受け入れられ難かった。

筆者がこのクルマを初めて見たのは、実は別のトヨタ車の取材ーー2代目イプサムーーで静岡県の東富士研究所を訪れた時だった。取材陣を乗せて構内移動していたマイクロバスの前に、突然、開発中のヴェロッサが2台現れたのだ。これがトヨタ側の仕組んだ「演出」だったのかどうかは定かではない。ただ、「なんだ、あのクルマ!!」と車内が騒然となったのは事実である。
筆者はこの直前まで、いわゆるVIPカー雑誌の編集部に在籍していたため、「エグい」と言われるデザインのエアロパーツや改造車など見慣れていたから少々のことでは驚かなかったが、それでもヴェロッサを見たときに、「メーカーが、それもトヨタがここまでやるのか!?」とザワザワとしたものを感じたのは確かだ。

大橋氏は当時、「ヴェロッサは感性でモノを考えるハイセンスな人達、あるいは10人中、2人に熱狂してもらえばいいのです」と語っていたが、結果から言えば、残念ながら10人中、2人にも理解されなかったのであろう。結局、総生産数2万4000台で、2年8か月という極めて短い生涯を終えることになる。この後、マークⅡもヴェロッサもろとも消滅してマークXに生まれ変わったものの、そのマークXもまた昨年、2019年に生涯を終えた。

そして先日、「Re Born」と「デザイン」を掲げて登場した14代目を引き継ぐ、現行15代目を最後に、クラウンもまた生涯を終えてSUV的なスタイルのクルマに引き継がれるのではないかというニュースが報じられた。セダン人気の全般的な低迷が、その背景にあるという。
栄枯盛衰、盛者必衰。自動車の開発とは、なんとも無情な物語であろうか。

楕円レジスターが目を弾くインパネまわり。アルミペダルなどスポーティなパーツ類が気前よくおごられている。
フロントシートは2時間程度は疲れず運転できる賭け心地を目指したという。この当時のシートとしては確かに上等だった。
リヤシートはX110系マークⅡゆずりの快適性を誇る。後席にむち打ち症を緩和する「WILコンセプトシート」を採用したのはX110系マークⅡに続く2例目。
トランクルームはゴルフバッグが4個積めるほど容積が大きく、トランクリッドはバンパーレベルから大きく開く。リッドヒンジが左右端ギリギリに配されており、カサ張る荷物も楽に出し入れ出来た。

トヨタ ヴェロッサ VR25(5速MT)主要スペック

全長×全幅×全高(mm):4705×1760×1450
ホイールベース(mm):2780
トレッド(mm)(前/後):1495/1475
車両重量(kg):1520
乗車定員:5名
エンジン型式:1JZ-GTE型
エンジン種類・弁機構:直列6気筒 DOHC 24v
総排気量(cc):2491
ボア×ストローク(mm):86.0×71.5
圧縮比:9.0
燃料供給装置:電子制御燃料噴射(EFI)
最高出力(ps/rpm):280/6200
最大トルク(kgm/rpm):38.5/2400
トランスミッション:5速MT
燃料タンク容量(ℓ):70
10.15モード燃費(km/ℓ):9.8
サスペンション方式:(前/後)ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク/(後):ディスク
タイヤ(前):215/45Z R17 (後):225/45ZR17
価格(税別・東京地区):334万円

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