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路線バスは「電気」で走れるか? エンジンをなくしてしまって、ホントにいいのですか? その2

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雷天を取材したのは、11月に開催される広州車展(モーターショー)のついでだった。11月の広州はまだ寒くない。しかし北京の11月は寒い。石炭暖房を炊き始めるころであり、石炭由来の煙が北京市内を覆う。この煤煙は海を渡って日本に飛来する。一時期「中国らから飛来するPM2.5(粒径2.5ミクロン程度の微粒子)」として騒がれたものは、たしかにガソリン車から出るPM2.5も含まれていたようだが、ほとんどは石炭暖房が原因だった。

ディーゼル車から排出されるPMは粒径6〜7ミクロンだ。一方、ガソリンを燃料とする筒内直噴エンジンから出るPMが粒径2.5ミクロン。2010年当時、中国で販売されている直噴ガソリン車は大半が欧州メーカー設計による中国合弁生産モデルだったが、中国の自動車保有台数全体から見れば比率はそれほど多くはなかった。日本に飛来したPM2.5の正体は自動車由来ではなく、粒径2.5ミクロンだけでもなく、その多くが石炭由来の排出物だった。

PMの研究者に訊くと「粒子を調べればどんな燃料から発生したものなのかをほぼ間違いなく特定できる」という。PMの「核」になっている物質を炭素13/14および硫黄の放射性同位元素を使って分析した結果、石炭を構成する分子にしか含まれないアロマティクスが検出され、その石炭の産地が中国であることも判明した。この種の分析では、99・9%の確率で燃料およびその産地を特定できるそうだ。

暖房用石炭の配給は中国共産党の「偉業」であり、やめるわけにはゆかない。北京や上海での冬場の大気汚染を自動車排ガス公害にすり替え、老朽車廃止というおふれを発し、多くの市民の目にとまる路線バスをBEV化した。もっと穿った見方をすれば「軽油は人民解放軍車両のための備蓄に回した」との推測も成り立つ。

しかし、路線バスでも電動化できるというということは実証された。どれくらいのコストがかかったのかはわからないが、毎日決められたルートを走行する路線バスなら航続距離は決まっていてBEV化しやすい。300kWh以上のLiBを搭載し、毎日充電し、故障したら運行本数を減らせばいい。中国ならではのやり方でBEVバスを定着させた。

エンジンをなくしてしまってホントにいいのですか?——路線バスについていえば、技術的にはYesである。問題はコストだ。中国では北京政府の号令のもとに新興LiBメーカーが一斉に立ち上がり、地方政府はそこに低利融資を行ない、電池生産の国家総動員体制に持っていった。性能の低い電池は中国ローカルのBEVメーカーが購入し、リン酸鉄系は路線バス向けの販路が確立され、3元系の高級電池は外資自動車メーカーが買うという構図が出来上がった。

LiBを作れば、とりあえず売れるという環境を中国は2018年末までには整えた。VW(フォルクスワーゲン)がCATLからLiBを購入する契約を2018年夏に結び、ダイムラーはBYDからの電池購入を決めた。2018年末時点で筆者は、「今後4〜5年で中国国内のLiB生産がどのレベルになるか」を、各社が発表していた生産目標値を合算する方法で計算したところ、1200GWh(ギガワットアワー)になった。1台平均の搭載量を30kWh(キロワットアワー)と仮定すると4000万台分である。

その後、電池メーカーの吸収合併が進み、数は淘汰された。同時に中国政府は「中国政府が指定する企業から2次電池を購入しなければNEVとして優遇しない」という、およそWTO違反の勝手なルールを取り下げた。しかし、電池価格では中国企業と外資とでは勝負にならない。筆者が調べたところ、日本のパナソニックがトヨタに販売している3元系LiB価格の半分以下で、中国国内ではCATLが外資自動車メーカー向けのLiB価格交渉を行なっていた。

IEA発電シェア 2016年時点での各国発電方法別シェア。それぞれの国の事情がここには反映されており、これについてとやかく言うことは内政干渉に等しい。しかし近年、ファンドビジネスはあからさまにそれを行なうようになった。再生可能エネルギーに投資を誘導することが彼らの利益になる。

もうひとつは電力である。2016年時点でのIEA(国際エネルギー機関)データでは、中国は石炭火力発電の比率が76%だった。これを減らすために2016年11月、原子力発電の利用を国家戦略として打ち出し、2011年の東日本大震災での原発事故を受けて停止していた新規の建設認可審査は2018年末から再開された。現地報道で確認すると、2019年中には30基以上の建設認可が下りたようだ。

運賃収入に対して投資が見合うのであれば、路線バスの電動化は難しい話ではない。中国で路線BEVバスに乗ると、運転士たちは電動モーターの特性をよく知っていて、信号グランプリではぶっちぎりの速さなのだ。当然、電池の減りは速いが、どのくらいぶっ飛ばすと電欠になるかも知っているから無理はしない。これがもし日本の路線バスだったら、すぐにクレームが来るだろうな、と思う。

上海汽車集団の電動バス 路線バスのBEV化は大型商用車メーカーに新しいビジネスをもたらした。すでに北京と上海だけで1万台近いBEVバスが走っているという。輸出も行なわれている。

路線バスのBEV化は「あり」だ。しかし、きちんとLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)計算をしなければならない。LiB生産ではリチウムの乾燥工程で大量の電力を消費する。この部分も含めてCO2(二酸化炭素)排出を計算しなければならない。Cセグメント乗用車をBEV化する場合、搭載LiB10kWhにつき製造段階で「ガソリン仕様車を1万km以上走らせた程度のCO2排出に相当する」という報告がある。350kWhのLiBを積む路線バスだとどうなるだろうか。

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