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  • 2017/08/14
  • Motor Fan illustrated編集部 萬澤 龍太

レクサスLC500の10速AT

多段化トランスミッションの、ある“頂点”

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5リッターV8に10速オートマですよ、化け物です
トランスミッションの話題です。これまでの「変速機にモーターを加える」から「モーターありきから変速機を仕立てる」
という技術トレンドが変わりつつある昨今、トランスミッションはこれからどのような姿になるのか。
メーカーからサプライヤー、エンジニアリング会社からリサーチ会社までひっくるめて考察しました。
──といいながらちゃんと、コンベンショナルな最新ATも取材してきました。
そのうちの一機がレクサスLC500が搭載する10速ATです。

10速ATかよ、というのが最初に耳にしたときの偽らざる感想。「〜かよ」という言い回しからご想像のようにハナからバカにしていたというのが本音であり、お金持ちの道楽グルマに載せるためのスペック追求10の数字ありきの高額変速機。そんなふうにとらえていました。

ところが驚いたのなんの。この変速機、とんでもなくよろしい。非常に頭がいいのです。

# 市街地を走っているときに自転車が走っていて、対向車が来ているからアクセルを抜いて──だけどブレーキを踏むほどの減速度は必要がないようなシチュエーションにおいて、見事に段数キープでエンジンブレーキ。

# 高速道路で追い越しをかけて走行車線に戻り、そうしたら前方に再びクルマが現れたから再加速──というようなシチュエーションにおいて、アクセルペダルの抜きのみで適度な減速度をあっという間に生成。

# 旋回続きの道路において、S字のひとつ目を抜けたあとにさあもうひとつ!ってときに、すでにダウンシフトを速やかに完了、即座に加速を得られる状態でスタンバイ。

などなど。

要するにダウンシフトがとても上手。アップシフトなんて誰でもできる機能、当たり前です。それよりもステップATに必要なのはギヤをいかに早く落としておくか、それによるちょうどいい減速度を作り出しておくか。

それにつきると個人的には考えていて、気持ちよく走れるユニットというのはなかなか巡り合えないでおりました。ちなみにこれまでに「巡り合えた」ユニットは、BMW制御のZF-8HP45、PSA制御のアイシン・エィ・ダブリュAWF6F25、そしてマツダSKYACTIV-DRIVE(大容量)です。

アイシン・エィ・ダブリュが用意してくれたカットモデル。後方は8AT。

LC500で舌を巻きながらレクサス(トヨタ)とアイシン・エィ・ダブリュのそれぞれにお話をうかがって聞き出せたのは、10速を目標としたユニット企画ではなかったということ。なんと。段数ありきの目的ではないというのです。それどころか「最初は8速でスタートしていました」などとおっしゃる。なんと。

リズムのいい加速感を目指していたLCについて、でも手持ちの8ATではどうもしっくりこなかった。ステップ比がクルマの性格に合っていなかったんですね。ステップ比というのは、隣り合うギヤ比同士の比率のこと。たとえば先述のZF-8HPのクロス型であれば、1速ギヤ比が4.714で2速ギヤ比が3.143ですから、ステップ比は4.714÷3.143で約1.50。続けてみていくと、1.49、1.26、1.30、1.29、1.19、1.26という具合です。

ではその8ATのステップ比はというと、1.69、1.46、1.27、1.19、1.23、1.21、1.20。加速感追求という視点でいくと、1〜2速の1.69、2〜3速の1.46という数字がどうしても気になってくる。ステップ比をもう少し細かく、連続したものにしたい。そこでゼロから作ろうということになったそうです。このあたり、最近「燃費が」とか「効率が」とかいう話ばかり聞いていたこちらからすると胸のすくような決断。もちろんレクサスのハイエンドスポーツという事情はあるにせよ、このような方向性で新しいユニットを仕立てようとしたレクサス/アイシン・エィ・ダブリュに大好感です。

レクサス(トヨタ)のカットモデル。入力側に2列の遊星歯車を、出力側にラビニヨ型遊星歯車を置く。

コンピュータ計算による43京(430000000000000000)通りものギヤ比組み合わせから4つを抽出、理想のステップ比にもっとも近いものを選定しました。

1.57、1.34、1.25、1.28、1.22、1.19、1.26、1.24、1.07。

そうして得られたステップ比が上記の数字群です。クロスにしすぎるとシフトビジーになり、1UR-GSEの高出力大トルク特性を生かしきれない。ワイドだと間延び感がありスポーティにならない。両社のエンジニア氏がおっしゃっていたとおりの心地よさ@加速時が得られているのはもちろんのこと、先述のダウンシフト時のちょうどいい減速感にもつながっているなと感じた次第です。

さて、多段化となるとよく言われるのが「使わないよこんな段数」。具体的な名称を出すのは少々申し訳なく思いますが、たとえばZF-9HPを搭載する車両群やダイムラー9G-TRONIC採用車などは、日本の最高速度100km/hではなかなか9速に入りません。まして10速ともなると──と想像するのは極めて自然。ところがこのAWR10L65、100km/hでもちゃんと最高段にエンゲージするのです。変速比幅は8.23、直結段(ギヤ比1.00)が7速と少々高めなことからもうなずける特性です。

ホンダの10AT。北米オデッセイやアコードに搭載が始まっています。(PHOTO: HONDA)

10ATといえば先行するホンダのユニットがあります。こちらを調べてみると──
1.60、1.50、1.37、1.22、1.30、1.28、1.20、1.12、1.12のステップ比。
変速比幅は10.15(!)で、直結段は6速。オーバドライブ型で燃費追求でしょうか。

ついでにダイムラー9G-TRONIC。
1.65、1.44、1.39、1.37、1.21、1.16、1.21、1.19のステップ比。
変速比幅は9.16、こちらも広いですねえ。直結段は6速。

またまたついでにNSXの積む9DCT。
1.58、1.37、1.25、1.18、1.17、1.18、1.18、1.18のステップ比。おおおお!
コレは間違いなくスーパースポーツのための数字ですね。AWR10L65と同じ香り。
変速比幅が6.06と広くないのも納得。直結段(相当)は6速、ギヤ比1.038です。

皆さんも「このクルマの加速!」と感じたときに、調べてみると何かつかめるかもしれません。これまでの取材では得られなかった感想を与えてくれた今回のAWR10L65に感謝です。

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