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  • 2017/09/09
  • MotorFan編集部

【プロトタイプ試乗】マツダ・スカイアクティブXに清水和夫が切り込む!

モータージャーナリスト 清水和夫が革新の真髄に触れる。

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MAZDA SKYACTIV-X
現在のマツダ躍進の原動力とも言えるSKYACTIV。その第2章が始まった。
今回ドイツで発表されたスカイアクティブXはパワートレインだけではなく、
プラットフォームにも新しい技術が盛り込まれている。
ドイツで実際にプロトタイプに試乗した清水和夫がリポートする。

REPORT◎清水和夫(Kazuo SHIMIZU)

スカイアクティブXはガソリンとディーゼルの良いところ取り。

英国では18〜24歳の若者のうち、2人に1人は異性愛(異性を愛する人)だそうだ。言い換えると、若い人の半分は「ゲイかレズビアンかバイセクシャルかトランスジェンダー」である。今世界はLGBT(レズ・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)が増えているというがそれは本当だった。この現象は「ダイバーシティ」(多様化)と呼べるが、そこには色々な価値観が生まれている。LGBTと関係しているかどうか分からないが、色々な価値感を持つことが、社会のイノベーションに繋がりそうだ。

冒頭からクルマの話から離れてしまったが、実は自動車のパワートレインも多様化している。大きく分けるとエンジンと電気(バッテリーとモーター)駆動となるが、今やエンジンとモーターのコンビネーションで走るハイブリッドが時代のトレンドだ。しかしハイブリッドも1モーター、2モーターと色々なタイプがあるし、電気自動車も純粋にバッテリーだけのEVと、水素で発電して走るFCEVも存在する。

もう何がなんだかわかりにくいが、エンジンの場合は大きく分けるとガソリンとディーゼルに分類できる。いや“できた”と言うべきだろうか。両者の違いは燃料の違いとプラグの有無で差別化できていたが、マツダが新しく開発した「SKYACTIV X(スカイアクティブX)」というエンジンは、その中間的(バイセクシャル的?)なキャラクターを持っているという。このスカイアクティブXは従来の技術の延長線にあるが、技術的な難易度のレベルは非常に高い。さしずめスカイアクティブのシーズン2が始まろうとしているのだ。

まずは”スカイアクティブ”シーズン1のおさらい。

ここでマツダのスカイアクティブG(ガソリン)とスカイアクティブD(ディーゼル)をおさらいしてみよう。マツダは2010年に革新的なスカイアクティブGとスカイアクティブDを発表し、2011年に実用化した。このふたつのエンジンはそれまでの常識を打ち破った。ガソリンは圧縮比14を実現。このスペックはレースエンジン並の高圧縮である。圧縮比を高めると出力は高まり、燃費も向上するが、ノッキングというガソリンエンジンの大敵が待ち受けている。マツダは自前の技術でこのノッキングの問題を解決した。それがスカイアクティブGの凄いところだ。

一方のスカイアクティブDと呼ばれるディーゼルは、常識では考えられない低い圧縮比14を達成。この低圧縮によりNOx(窒素酸化物)の生成を抑えることに成功している。その結果、日本の排ガス規制ではNOx触媒が必要なくなっている。

スカイアクティブGの特徴は排ガス性能とパワー(エンジンの伸び感)だが、トルクと燃費ではディーゼルに敵わない。今回登場したスカイアクティブXは、スカイアクティブDとスカイアクティブGのそれぞれ良いところを併せ持つ特徴を持っている。トルキーで回転の伸びはシャープ。燃費と排ガス性能に優れている。そんな理想的なエンジンが誕生したのだ。

ガソリンエンジン車が誕生したのは1886年、ゴットリープダイムラーとカール・ベンツによって考案されたが、それから130年後の現代に、日本メーカーのマツダが究極のエンジンに向けた大きな進化を遂げたのである。

では、どうやって“スカイアクティブX”が作動するのか?

ガソリンは空気と燃料を混ぜて混合気を圧縮してからプラグ点火で燃焼するが、ディーゼルは空気を圧縮して燃料を噴射し、自己着火する。燃焼メカニズムが根本的に異なるが、スカイアクティブXはこのふたつの原理を応用している。燃料はガソリンを使うので、ガソリンエンジンの進化型だと理解できる。まず過給器(スーパーチャージャー)を使って空気を大量に押し込む。スカイアクティブGの2倍くらいの空気がシリンダーに入る。空気と燃料の比率を表すエアバイフューエルレシオ(AF比)は30以上あるはずだ。圧縮比はスカイアクティブGの14よりも高い15〜16前後だと思われる(細かいスペックは未発表)。

空気を大量に吸い込んだのでリーンバーンとなるが、このままではうまく燃焼できない。そこでプラグの周辺に濃い領域を作って、リーンな状態と濃い混合気を作る。リーンな状態が自己着火する手前の圧力を維持し、プラグで点火した燃焼圧で自己着火を誘発する。つまり、プラグ点火→自己着火を誘発する完全にコントロール可能な自己着火が実現した。理論的にオットーサイクルの熱効率は、圧縮比と比熱比を高めることで向上することが理論と実験で明らかにされている。

高圧縮はスカイアクティブGの技術、比熱比を高める技術はスカイアクティブXで実現している。リーンバーンで空気を大量に使うことで、比熱比が高まり、シリンダーの壁から熱が奪われにくくなる。また空気を大量に押し込むために、スロットルを大きく開けるので、ポンプ損失が低減できる。スカイアクティブXは論理的なエンジンだが、高度に緻密な制御が必要となるので、開発はまだ完全に終わっていない。

実際に走ってみる!

このエンジンは過給器で空気をたくさん押し込み、リーンバーンを実現しているが、スーパーチャージャーは出力を高めるためではなく、あくまでもリーンバーンにするために使われている。ゆえにこの仕組をSPCCI(スパーク・コントロール・コンプレッション・イグニッション)と呼んでいる。ディーゼルの自己着火とガソリンのプラグ点火を併せ持つハイブリッド点火方式なのだ。圧縮着火の圧力で強くピストンを押し下げるので、2リッターで230Nmの最大トルクと190psの出力を絞り出す。

実際に走ってみると2ℓ自然吸気とは思えないトルキーな走りが楽しめる。気になる燃費はアウトバーンを150km/h前後で、街中を30〜60km/hでそれぞれ約25km走って14.3km/ℓだった。また、ディーゼルとは異なり三元触媒が使えるから、テールパイプエミッションはとてもクリーンだ。ATとMTの両方で走ってみたが、意外なことにあまり差がなかった。燃費と走りと排ガスが3つ揃って向上したことは驚きだ。

先進的なのはエンジンだけでない。アクセラのボディが一新された。いわゆる新プラットフォームが登場したのだが、これが実に具合がいい。音や振動が静かで、ワンランク上のクルマに乗っている感じだった。乗り心地もよく、タイヤと路面の接地感がすばらしい。すでにシャシー技術として実用化されているGベクタリングは当然のように備わっているが、もはや左脳で考えなくても、新プラットフォームの走りは直感的に人馬一体を感じることができたのだ。

スカイアクティブはプラットフォームとエンジンが同時に革新的に進化している。言葉で書くと簡単だが、すべて刷新する開発は想像を絶するものがある。ボディがあってエンジンだけ開発するケース。あるいはエンジンはそのままでプラットフォームだけを新設計するケース。いずれにしても、性能目標は立てやすい。だがプラットフォームとパワートレインが一気に刷新する場合、開発の性能目標は立てにくい。

しかも複雑かつ多様化する性能を実験ベースで行っていては時間とコストが足りない。そこでマツダが実戦したのはMBD(モデルベース開発)という手法だ。机上で性能をたてシュミレーションしながら開発を進める手法だ。このMBDがあったからこそ、スカイアクティブG・D・Xが生まれたと言っても過言ではないだろう。

ところでマツダはもうひとつ戦わなければならないことがあった。フォルクスワーゲンが提案したダウンサイジングターボは正しくないとかねてより主張していたので、理論的かつ実践的にマツダの考えが正しいことを証明する必要があったのだ。間違った技術で規制を制度化されては社会は正しい方向に進まない。ハイブリッドも持たないし、ダウンサイジングターボにも異論を唱える原理主義者は「スカイアクティブG」で自身の考えの正当性を実証したのである。

 来年から施行される新モード方式WLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)とRDE(Real Driving Emission)を考えると、新しいコンセプトのエンジンが必要だ。だたしWLTPであっても、シャシーダイナモを使ったインドアの試験モードなので、所詮は台上試験の話だ。欧州ではRDEという実際の路上を走らせる試験も実施されるが、色々な走り方でも、燃費の影響が少ないロバスト性を高めることに「理」があるのだ。スカイアクティブXの真髄である多様な走りに対応できることは素晴らしい。

MAZDA SKYACTIV-X

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