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  • 2017/09/30
  • Motor Fan illustrated編集部

【牧野茂雄の自動車業界鳥瞰図】EVシフトへ動くEU各国の思惑

本音は絶対に語らない

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業務提携と資本提携とでは雲泥の差がある。独・ZFは自動運転時代のコックピットインターフェース確立のために仏・フォーレシアと提携したが、単なる業務提携であり、いつでも解消できる。トヨタとマツダの業務提携は15年5月だった。2年少々で互いに株を持ち合う資本提携を決めた理由は、互いに相手を必要としたからだろう。トヨタはマツダ株5.05%、マツダはトヨタ株0.25%をそれぞれ保有する。マツダにとってこの比率は、決して小さくない。
昨年秋以降、メジャー自動車グループが「EVシフト」を相次いで公表している。これに呼応するかのように今年7月、フランスが内燃機関搭載車の販売を将来的に禁止すると発表し、イギリスがこれに続いた。8月に入るとドイツ国内でディーゼル排ガス問題収束への動きが活発化した。それぞれの本音はどこにあるのか。
(ジャーナリスト・牧野茂雄がレポートする)

Mein Auto Zerstören Deutsch Arbeitplatz.

マツダRX-7の三代目がドイツに輸入されたころ、こんなジョークが生まれた。単語のアタマをつなげればMAZDAであり、意味は「私のクルマはドイツ人から職を奪います」。ドイツ人のRX-7オーナーがポルシェのオーナーに向かってこう言う、とのことだった。たまたま知り合った当時のポルシェクラブ会長は私に「意味はふたつある。ここまで来やがったか、と、そうはさせない、だ」と語った。

完治しない鼻風邪のような景気が続いていた80年代半ばの欧州に、日本車がどっと雪崩れ込んだ。欧州は関税と輸入監視(モニタリング)で対抗し、いまだにEUは日本車に関税を課している。その点ではトランプ米大統領の保護主義を批判する資格などない。

と思っていたら、今年に入って日EU間のEPA(経済連携協定)が動いた。5年間の膠着状態から一気に事態は進展した。トランプ大統領の保護主義政策をけん制する意味があると言われるが、私はもっと前向きな判断の結果と考えている。保護主義は既得権者のウケがいいだけで産業の薬にはならない。EU側の大きな譲歩には、最終的にEUが利益を得られるという確信、あるいは決意が背景にあるはずだ。

もちろん背景は複雑であり、私がイギリス、フランス、ドイツ、チェコ、クロアチアといった国の産業人やジャーナリストと日々やりとりするメールのなかにも興味深いメッセージがあった。EUが、とくに農業大国フランスがチーズと自動車を天秤にかけて腹を括った背景にはさまざまな事情があるということを彼らは示唆してくれた。本音は人それぞれであり複雑だ。

私は、EPA進展のポイントはフランス自動車産業の再編だと考える。トランプ大統領が初めて参加するドイツ・ハンブルクでのG20を政治的アピールに利用しようとさまざまな動きがあったが、就任したばかりのマクロン仏大統領は「2040年までに内燃機関搭載車のフランス国内での販売を禁止する」とブチあげた。根回しがどこまで進んでいたかについては旧知のフランス人ジャーナリストも「ほとんど突然だ」と言う。このマクロン発言にイギリスも賛同した。ここでフランスが主導権を握り、翌日の米独首脳会談は霞んでしまった。日本車への関税撤廃も、この流れのなかにあると思う。

今年の夏は、冷戦終結後でもっとも暑い。熱源はEUでありハンブルクでのG20だった。欧州の政治経済を語れるほどの知見を私は持ち合わせていないが、自動車を中心に物事を整理すると、そこには「対独戦」的な構図が透けて見える。案外と物事は単純かもしれない。

ルノーとPSA(プジョー/シトロエン)は5年以内に合併すると私は見る。その布石は14年2月のPSAと中国・東風汽車の資本提携である。このとき仏政府はPSAに出資した。東風汽車は日産と包括提携を結んでおり、日産の親会社は仏政府子飼いのルノーだ。仏政府がPSAに出資すれば自動車産業をコントロールできる。乗用車部門では「地味なルノーと個性的なPSA」の組み合わせだが、小型商用車でルノー、PSA、日産が連携すると文句無しに欧州最大の勢力になる。それとGMからのオペル/ボグソール買収。すべての事象が「大フランス自動車会社」の誕生を予感させる。さらに言えば、数は少ないがPSAは三菱からEVとPHEVのOEM供給を受けている。その三菱が日産のものになった。

フランスは「ドイツの軍門にだけは下りたくない」と思っているだろう。前オランド政権時代のフランスは、産業分野ではドイツの属国になりかけていた。マクロン政権はここを軌道修正するに違いない。そのために必要なパラダイムシフトを産業界に求めていくと考える。重工業系では航空機のダッソー・アビアシオンとエアバス、石油系ではトタル、化学系ではミシュラン、食品ではダノン、自動車部品ではフォーレシアなど有力企業は各業種に存在する。そのなかで自動車は、ルノーが日産と三菱を傘下に収めていることから、ドイツに対抗できるポテンシャルを持っている。目立つ商品であもり、白羽の矢が立つのは当然である。

ただし、フランスの相手は国家総動員体制で自動車産業を盛り上げているドイツであり、その産学官協力体制は恐ろしいほどに効果を挙げている。アーヘン、ミュンヘン、ベルリンの各工科大学。そこからスピンアウトしたエンジニアリング会社。就職を餌に学生をタダで使い、複雑な計算をさせ、優秀な学生の国外流出を防ぐために政府も国家予算を投じている。日本はマンパワーで絶対にかなわない。
(続きは次ページへ)

中国に急接近するドイツ

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