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  • 2018/06/10
  • Motor Fan illustrated編集部

バルブを開きっぱなしにしてせっかく吸った空気を戻してしまう?──ミラーサイクル

よくわかる自動車技術:第2号 ミラーサイクルのリ・ク・ツ

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マツダはSKYACTIVテクノロジーにおいてもミラーサイクルを盛んに採用、高効率運転を図っている。
「アトキンソン」なのか「ミラー」なのかという名前にまつわるカンカンガクガクは、メーカーにお任せするとして、ここでは「ミラーサイクル(パイオニアであるマツダに敬意を表して)」とは何なのか、どうやって動くのかについて解説してみようと思う。
TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji)

 リクツは簡単である。圧縮行程より膨張行程を大きく(長く)採って、同じガソリンの熱量からより多く運動エネルギーを得ようということ。それを「真性」アトキンソンでは機械的に行い、ミラーではバルブタイミング制御で行う、という違いがあるだけだ。
 とはいえ、実際のカラクリはかなり違う。アトキンソンでは「圧縮」行程と「膨張」行程が異なるのに対し、ミラーでは「吸気」行程と「膨張」行程が異なる。端的に言えば膨張量は同じでも吸入空気量を減らしているのだ。アトキンソンでは吸入空気量は変わらない。


ミラーサイクルは吸気バルブを閉じるタイミングをコントロールすることで、相対的な高膨張比サイクルを創出する。(ILLUSTRATION:熊谷敏直)

 読者諸兄がバルブタイミングの基本を御存知という前提でハナシを進めよう。
 細かい事を無視すれば、4ストロークエンジンの吸気バルブはピストンが上死点に至り吸気行程が始まると開き始め、ピストンが下がりきると閉じる。するとピストンは圧縮行程に入って上昇し、上死点で点火、熱エネルギーで膨張して再び下降し、下死点に至ると排気バルブが開いてまた上昇、排気行程に移る。
 ミラーサイクルでは吸気行程が終わって圧縮行程に入ってもまだ、吸気バルブは開いたままだ。吸気には慣性があるので、吸入効率を高めるため普通のエンジンでも下死点でいきなり閉じることはないのだが、ミラーはそんなものではない。圧縮行程が半分過ぎてもまだ開けっ放し。エンジンによって異なるけれど、クランク角で110度あたりまで吸気バルブが開いている。
 これが何を意味するか、と言うと、要は実質的な圧縮行程を短くしているということ。圧縮行程後の膨張行程はバルブが必ず閉じているし、機械的なストローク量は変わらないから一定。つまり圧縮行程<膨張行程なのだ。


「真性」アトキンソンサイクルの構造。ジェームス・アトキンソン氏の特許図版より。

 おさらいすると、アトキンソンもミラーも圧縮行程<膨張行程であることは同じだけれど、アトキンソンではそれを膨張行程の絶対量を増やしてやっているのに対し、ミラーでは圧縮行程の絶対量を減らして成立させているということになる。
 圧縮行程<膨張行程によって熱効率は上がるとは言え、両者には決定的な差がある。ミラーは吸気バルブを圧縮行程でも長く開いているので、吸気行程で取り入れた空気を押し戻してしまい、吸入空気量が通常のエンジンより少ない。つまり排気量が少ない事と同義となり、熱効率は上がるけれど出力は減ってしまうのだ。比数と実数のマジックである。

 じゃあ、なぜこんなことをするのか。
 実を言うと、ミラーサイクルエンジンといえど、常時こんな運転をするわけではない。例えば高速道路を法定速度内で巡航している時、最高出力が数百馬力あっても使うのはせいぜい50馬力だから、別に出力が多少足りなくても問題ない。そこでミラーサイクルを使い熱効率=燃費を稼ぐ。発進加速時に出力が必要な時には、吸気バルブをもっと早く閉めて吸入空気量を稼ぐ。
 自動車のエンジンは負荷変動がやたらと大きい使われ方なので、負荷に合わせてエンジンの運転方法を変えましょう、その方が結果的に燃費が良くなります―――それがミラーサイクルの実態なのだ。

プリウスのTHS IIシステム。


 トヨタがTHSハイブリッドシステムでミラーサイクルを採用したのは、高負荷時にモーターを使うという前提条件があったから。馬力が要るときはモーターに加担させて総出力を稼ぎ、エンジンにはなるべく無理をさせず効率優先で使うからこそ、ミラーサイクルの利点が目立つということなのである。
 出力を出さなければならない状況で、モーターではなく過給機を使うという手もある。VW・アウディお得意のミラー過給というヤツだ。ミラー過給の場合には吸気バルブを長い時間開く「遅閉じ」ではなく「早閉じ」にするのが通例(詳細は機会があれば解説します)。吸入空気量が少なくてよいのならば、排気量も気筒数も減らしてしまって、イザという時にはターボでバキューン!……というのがダウンサイジング・ターボ。モーターは高回転・高出力が弱点だから、ドイツをはじめとする欧州勢はモーターよりターボで何とかしようとした理由の一部が、これで少しは理解できると思う。

 次回はモーターもターボも使わず、自然吸気ミラーサイクル一本で何とかしようとしたマツダのSKYACTIV-Gエンジンについてお話しします。

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