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  • 2018/09/30
  • Motor Fan illustrated編集部

逆境のなかディーゼルエンジンは生き残れるか(下)

よくわかる自動車技術:第21号 ドイツ御三家の新型ディーゼルエンジン(2/2)

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Volkswagen EA288 evo
2015年に発覚したVWグループの排ガス不正操作、いわゆる「ディーゼル・ゲート」は欧州でのディーゼル車の販売に直接的なダメージを与えた。同時にWLTP~RDEという排ガス規制そのものの厳格化によって、乗用車用ディーゼルエンジン(DE)の命運は尽きたに見えた。実際、日本のDE車は次々に欧州での販売を中止したし、あるエンジニアリング企業は「ディーゼルゲートがニュースになった直後に、進行していたDEの開発プロジェクトはすべてストップがかかった」という。1990年代から欧州を席巻していたDEブームは終焉、新型エンジンは三元触媒で排ガスの抑制が容易なガソリンターボエンジンとハイブリッドにシフトを始める。そこに英仏政府の内燃機関使用自動車の禁止政策発表である。最早DEに将来性はない……と思われていた矢先、2018年の「インターナショナル・ウィーン・モーター・シンポジウム」に於いて、VW、ダイムラー、BMWのドイツ御三家が揃って新型DEの概要を発表した。
TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji)

Volkswagen EA288 evo

 従来のVW製直列DEは鋳鉄ブロックのEA189系3種(1.2ℓ直3/1.6ℓ直4/2.0ℓ直4)と、そこから派生しGEのEA211系とボアピッチを共用するアルミ合金ブロックのEA288系が存在した。EA288は直4のみであるが、1.4、1.6、2.0という3種の排気量があったものを、この度発表された「EVO」仕様では2.0ℓに集約する。前記したように排ガスデバイスをパッケージング化して、エンジンの一部とし、コストを削減を図るためだ。搭載車種によるバリエーションは2種の出力違い仕様で差別化することになるのだが、よくある過給圧変更で違いを出す安易ともいえる手法を新エンジンは採っていない。発生出力によってエンジンの回転系部品を変えるという、抜本的なソリューションを用いているのが特徴だ。

LK1(左)とLK2(右)のコンロッド長の違い。ピストン材の違いによるピンハイトの違いを活用している。

「LK1」と呼ばれる低出力仕様(120kW/3250-4200rpm)は鋳鉄ピストンを使う。耐熱・耐燃焼圧力の観点から欧州製DEは鋳鉄ピストンを使うケースが多いが、同等の強度・剛性を確保するならアルミ合金製よりコンパクトにできる。特に熱容量の大きさを活かしてピストンピンから冠面までの長さ(ピストンハイト)を短くできることから、その分をコンロッド長の延長に充ててきた。同じストロークでコンロッドを長くすると、運転時にコンロッドの傾きが減ってピストンをシリンダー壁面に押しつけるサイドスラストが減るため、フリクションが減少する。普通はその余裕をエンジンの高回転化に充てるものだが、本機では回転数も出力も少なくしてクランクのピン径とメインジャーナル径の縮小に割り当てる、というドラスティックな手法を採る。

「LK2」高出力仕様は、トルク増加分は僅か(+20Nm)なものの、出力は15%・30kW増しで発生回転域も高くなることから、ピストンは高ハイトのアルミ合金製とし、コンロッド長はLK1より12㎜短い144㎜としている(連棹比はLK1の3.267に対し3.016)。その代わりにピン径は0.2㎜増の48㎜、メインジャーナル径は6㎜増の54㎜として、燃焼圧力の増加に対応する。

 折角排気量を1種にまとめて生産合理化を図ったのに、わざわざ部品点数を増やすのは現在の工業界の常識では考えられないが、あえてカネのかかるやり方で商品特性を合わせ込んできたところに、ディーゼルゲートの汚名を晴らそうと機械設計の根幹に踏み入ったVW技術陣の意地を見る気がする。昨今はシミュレーション技術とデジタル&AI技術を駆使した合理的な「最適化」が花盛りだが、それを言うなら本機の設計手法こそ最適化の見本であろう。

EA288 evoは、鋳鉄製シリンダーライナーを鋳込む構造に戻している。

 凝った回転系を支えるシリンダーは、ローターキャスト(回転成型重力鋳造)によるAlSi(8)Cu(3)のアルミ合金に鋳鉄ライナーを仕込んだもの。VWといえばターボエンジンのシリンダー内壁をプラズマ溶射を使ってライナーレスにする先駆であったが、ライナー付きに戻したのにはコスト面を考慮したのだろうか。

 シリンダーヘッドはVW得意の組立カムでカムキャリアをヘッド一体化とする「インテグレーテッド・バルブ・モジュール」式。高圧EGRの中間冷却器をエキマニ一体に成形。DEの通例でバルブが直立しているが、ふたつの吸気ポートは一方をスパイラル型、一方を接線型と捻り方を変えてスワールを生成するように工夫している。バルブステムはin/Exとも径を5㎜縮小し、同時にバルブスプリングの張力を低減した。
 インジェクターは燃圧2200barのボッシュ製ピエゾ式。燃料高圧ポンプはカムシャフトからのベルトで駆動され、1サイクルあたり3回のパイロット噴射とメイン噴射を挟んでアフター1回、DPF再生には最大8回の燃料を噴射する。

エキマニ直下のターボチャージャーを経て、本装置へ排ガスを導入する。EA288 evoはまずアウディブランドの縦置きから搭載開始、本画像も縦置きレイアウトで示されている。

 排ガス処理装置は、酸化触媒と一体筐体内にSCRコーティングされた統合型のDPFを装備し前後でAdBlueを噴射する。反応を高めるために密閉式としつつアンモニアの均一噴霧化と沈着防止を図る。ふたつのEGRを含めて排ガスのフローが長くなって間に多くのデバイスが挟まるため、圧力損失の防止には特に留意され、従来型より背圧を最大50&低減したとされる。
 
 マイルドHEV対応のベルテッド・スターター/ジェネレーター(BSG)が標準装備とされるのは、今後への備えといえる。5kWのアシスト力を発生し、20㎞/h以上でコースティングも可能。ジェネレーターに相反するトルクがかかるので、プーリーの減力結合器と捻り振動ダンパーを備えている。

48VのBSGシステム。グレーアウトする画像から、カムトレインはベルト駆動+シングルプーリ式であることもわかる。
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