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  • 2018/12/22
  • Motor Fan illustrated編集部

レクサスESのスウィングバルブ──安藤眞の『テクノロジーのすべて』第6弾

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レクサスESの用いるスウィングバルブショックアブソーバー(FIGURE:TOYOTA)
デジタルアウターミラーと並んで、新型レクサスESに採用された新技術が、「スウィングバルブショックアブソーバー」だ。「スウィング」と書いているのは、トヨタの公式リリースがそうなっているからで、本稿でもそれを尊重したいと思う。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)

「スウィングバルブ」は通常のピストンバルブの下側に配置されており、オイルの流れとしては直列になる。一見すると、通常のディスクバルブと同じようだが、一般的なディスクバルブがピストンの片側に蓋をした一方通行であるのに対し、スウィングバルブは円筒形ピストンの内側にあり、伸び/圧の両方向に開くようになっている。これが「スウィング」と呼ばれる由縁である。

スウィングバルブ(図中では非着座バルブ)の収まる拡張バルブの構造(出展:安井 剛:極微低速域高減衰バルブの開発、KYB技報第57号、以下同)
拡張バルブ部の作動イメージ

 このバルブを設けた理由は、従来よりピストン速度が一桁遅い領域での減衰力コントロールだ。

 一般にダンパーの減衰力は、ピストン速度0.1m/s以下が操縦安定性に影響する領域、それ以上が乗り心地に影響する領域とされている。操縦安定性を高めるためには、ピストン速度が0.05m/s前後の減衰力を高めたいところだが、粘性抵抗は流速の2乗に比例するため、操安性優先でオリフィス(油路)の面積を小さく設定すると、高ピストン速度域の減衰力が高くなりすぎて、乗り心地が悪化してしまう。
 そこで、皿ばね式のバルブで塞いだ油路を、オリフィスと並列に用意しておき、ピストン速度が0.1m/s弱になった段階でディスクバルブが開くように設定。これによって減衰力の立ち上がりを抑えているのが、現在のサスペンションダンパーの基本構造だ。

 ところが実際には、ピストン速度0.1m/s以下の領域でも、乗り心地には影響がある。だからディスクバルブがあるからと言って、オリフィスの面積を極端に絞るわけにはいかない。となると、極めてピストン速度が遅い領域では、オイルの流速に対してオリフィス面積が大きすぎ、減衰力はほとんど発生しなくなる。そうなると、ゆっくり発進する際や、駐車場内を移動するような低速走行時の姿勢変化では減衰力が発生せず、微妙なゆらゆら感を生じることになる。そこをカバーするのが、「スウィングバルブ」の役目である。

新開発バルブの目標特性イメージ

 ピストンとスウィングバルブの間には、全周に10µmの隙間が開いている。平均的日本人の髪の毛の太さが約80µmだから、その8分の1程度のわずかな隙間だ。これだけ狭いと、ピストンが動いても作動油はほとんど流れることができず、スウィングバルブが即座に開いて流路を確保する。その隙間を流れる際の粘性抵抗が、極微低速域の減衰力となる。

 スウィングバルブがコントロールしている減衰力は、ピストン速度でいうと0.002m/sの領域。ここまで低い速度域での減衰力が車両特性として感じられるようになったのは、ボディ剛性やシャシー剛性の向上に加え、燃費重視でタイヤの空気圧が高まったことなどが影響している。従来ならば、撓んで逃げていた部分が動かなくなったため、ダンパーのやるべき仕事が増えた、というわけだ。

レクサスESのボディ(PHOTO:TOYOTA)

 実はこのアイデアそのものは、数年前から考えられていたのだが、10µmの隙間を量産レベルで安定させることができずに、実現に至っていなかった。

 ピストンもバルブもロッドに挿入されているから、まず3者のセンターを設計値の1%(0.1µm)以下の精度で合わせる必要がある。ロッドは旋盤で引くから良いとしても、ピストンは鍛造か焼結だろうから、機械加工を追加しなければ、その精度は出せないはずだ。スウィングバルブにしても、内径と外径のセンターを0.1µmレベルで合わせなければならない。組み上げた後も、隙間が設計公差に治まっているかどうか確認する必要があるから、10µmの寸法を量産のタクトタイムで測る方法も考えなければならないだろう。

 これらをどう克服したのかについては、トヨタのエンジニアからは聞き出すことができなかったが、サプライヤーに話を聞く機会があれば、ここに報告したいと思う。

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