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エンジン博士 畑村耕一「2019年パワートレーン開発への提言」① ①「エンジンはなくならない」が「エンジンはないほうがいい」畑村耕一「2019年パワートレーン開発への提言」

  • 2019/01/01
  • Motor Fan illustrated編集部
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研究車両として購入した日産ノートe-POWERと畑村耕一博士

マツダでミラーサイクル・エンジン開発を主導したエンジン博士の畑村耕一博士(エンジンコンサルタント、畑村エンジン開発事務所主宰)が、2019年のスタートにあたり、「2018年パワートレーン重大ニュース」を寄稿してくださった。昨年年頭にも、「2017年のパワートレーン重大ニュース」を掲載したが、再びパワートレーンの現在と未来について、プロの見方を聞いてみよう。7回シリーズの第1回をお届けする。まずは、畑村博士の経歴とエンジン哲学から。

TEXT◎畑村耕一(HATAMURA Koichi)

2018年のパワートレーンの注目技術動向

 2018年の年頭の記事では、90年代からの日欧の自動車用パワートレーンの技術動向から現在のEVフィーバーに至る経過とその本質を解説した上で、日本の最新技術であるハイブリッド(HEV/日産e-Power)とHCCI(マツダSKYACTIV-X)の技術を紹介した。さらに電気自動車(EV)のWell to WheelのCO2排出量の計算方法の問題を提起して、EVを普及させるよりHEVを普及させるほうがCO2排出量を削減できることを説明した。最後に2050年を見据えて、不安定な再生可能エネルギー発電にともなう余剰電力を利用するカーボンユートラル燃料(水素、メタン、液体)を利用するパワートレーンに注力すべきこと、2030年までのパワートレーンの進むべき道としてEVの普及を抑制すると同時に石炭火力発電を削減し、HEVを含むエンジン搭載車の燃費向上と天然ガス自動車(NGV)の普及促進を図ることが確実にCO2排出量を低減する道であることを述べた。

 このような状況で始まった2018年のモーターファン・イラストレーテッド誌の『博士のエンジン手帖』とパワートレーン関係の特集を読み返してみると、次のようなテーマを多く取り上げていることがわかる。

¬ 排ガス規制にともなうディーゼルエンジンの動向(排ガス対策、アップサイジング)@Vol.137、Vol.144
¬ 新しいエンジンの技術動向(可変容積比の実用化、直6の復権ほか)@Vol.136,Vol.140
¬ EVの走りとCO2排出問題(エンジン車とEVの走りの比較、Well to wheelのCO2)@Vol.136、138、141、143
¬ 将来のパワートレーン(シリーズハイブリッド、対向ピストンエンジン、カーボンニュートラル燃料)@Vol.142

 2019年の念頭に当たっては、これらのテーマをベースとして筆者が考える将来の自動車用パワートレーンのあるべき姿について、より具体的に論じてみたい。

*注)「圧縮比」には、「幾何学的圧縮比」と「有効圧縮比」のふたつの意味がある。ミラーサイクルでは値が異なるので、それぞれ区別するために、筆者は前者を「容積比」、後者を「圧縮比」と呼ぶことにしている。

EVとの出会いと私のエンジン哲学「エンジンはないほうがいい」

若かりし博士が開発していたCVS
マツダで開発した電気自動車(in1975)

 私はグライダーパイロットで学生時代から50年、自然の力を利用して飛ぶエンジンのない飛行を楽しんでいる。オーストラリアに行って5時間、300km以上をエンジンなしで飛んだこともある。エンジン付きのモーターグライダーでも飛んだが、エンジンをかけて離陸して上空でエンジンを止めるとほっとする。聞こえるのは風の音だけ。読者は想像しにくいと思うが、車のアイドルストップの感触をずっと大きくした感じなのだ。ここから「エンジンはないほうがいい」と思うようになった。エンジンは振動騒音を発生、燃料を消費、排気ガスを出す、重くスペースを喰う……車が走ることができればエンジンはないほうがいいのだ。

 ロボット工学を専攻していた学生グライダーパイロットは、1975年に東洋工業(現マツダ)に入社して新交通システムというエンジンのない自動運転の車の開発プロジェクトを担当することになる。そこで出会ったのが、荷台の下に鉛バッテリーをぎっしり積み込んだ、その頃の最新技術の軽トラックの電気自動車EVだ。当時、車はメカミッションが当たり前だった時代、筆者はEVの快適な走りに魅了されてしまった。絶対的な走りは貧弱なものの、アクセルを踏んだ時の素直な応答性、エンジン騒音のない静かな走り、変速不要でと切れのないスムーズな加速……理想のクルマの走りをそこに見出した。だが、当時の電池性能では実用化には程遠かった。オイルショックのあおりを受けて新交通システムのプロジェクトは3年で解散となり、筆者はエンジン設計に異動させられた。

畑村博士が開発を主導した世界初の過給ダウンサイジングエンジンKJ-ZEM型を搭載した、マツダ・ミレーニア(欧州名:Xedos-9)。1993年のことだ。

 ディーゼルエンジン開発に移った筆者は「エンジンはないほうがいい」(『自動車エンジン技術がわかる本』ナツメ社、2008)を確信していたが、エンジンをなくすわけにもいかず、とにかくエンジンを小さくしようと過給エンジンにのめり込んで40年もエンジン研究開発に取り組む結果となったわけである。

2.3ℓで3ℓ並のトルクを出したKJ-ZEM型エンジン。上部に見えるのがIHIと共同開発したリショルムコンプレッサー。

 私のエンジン哲学に基づいて1993年には世界初の過給ダウンサイジングガソリンエンジンのミラーサイクルエンジンを実用化した。その後「過給ダウンサイジング」を提唱し続けてきてやっと日本メーカーも過給ダウンサイジングが定着してきたが、排ガス計測モードの変更にともなってダウンサイジングの行き過ぎを元に戻すライトサイジンング/アップサイジングの方向に動き始めた。それとは別に各国の自動車産業保護政策と絡んで、電気自動車フィーバーが起こりエンジンはなくなるのではないかという風潮が生まれているので、筆者は「エンジンはなくならない」(『図解自動車エンジン技術』ナツメ社、2016)という主張を始めた。最近筆者が重要だと思うのは、具体的な手段は別として、「エンジンはなくならない」が「エンジンはないほうがいい」というエンジン哲学だ。この意味を次回以降に説明していく。




畑村耕一 経歴

1975年 東京工業大学修士課程修了、東洋工業(現マツダ)入社
2001年 マツダ株式会社を退職、自動車関連企業の技術指導(現在まで10社)
2002年 畑村エンジン研究事務所設立、技術士(機械)登録
2005年 有限会社畑村エンジン研究事務所設立
2007年 株式会社畑村エンジン研究事務所設立
2007年~ NEDOの委託研究、助成事業で千葉大学とHCCIの共同研究を実施
2011年 株式会社サステナブル・エンジン・リサーチセンター設立。2017年から広島大学客員教授として学生フォーミュラを指導。

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