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【牧野茂雄の自動業界車鳥瞰図】 中国におけるコピー車敗訴の、本当の理由:米国という虎の尾を踏んでしまった中国

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2015年のオート上海に出品された陸風X7には驚いた。JLRが提訴したのは無理もない。見方を変えれば、中国の金型技術はここまで進歩したのである。愛馳汽車が陸風の工場活用を開始すれば、その技術はAIWAYSブランドのBEVに生かされる。4月3日現在、陸風汽車のホームページにはまだX7が堂々と掲載されているが、消滅するのはいつだろう。北京の中央政府は、BEV普及という名目で中小自動車メーカーの再編を画策している。

中国の司法当局が初めて自動車デザインの盗用を認めた。陸風汽車のSUV「X7」を提訴していたジャガー・ランドローバーの主張が認められ、同社は製造販売の停止を命じられた。中国企業によるデザイン盗用問題では過去、海外の自動車メーカーの主張がことごとく退けられてきた。知的財産権などないに等しかった中国になにが起きたのだろうか。

TEXT@牧野茂雄(Shigeo MAKINO)

「これは私も恥ずかしいです」と、旧知の中国メディア記者は陸風X7を見ながら私にこう言った。「最近、こういうあからさまな模倣はめっきり減ったのですが……」と彼。2015年4月、オート上海(上海モーターショー)会場での出来事だった。陸風汽車がX7を披露したのは14年11月の広州モーターショーであり、上海へやって来たのはそのときが初めてだった。どこから見ても姿形はレンジローバー・イヴォークである。発表された小売価格はイヴォークの約3分の1だった。

 15年の中国はSUVブームの真っ只中だった。この年、中国ではわずか1年間で622万台のSUVが売れた。SUVが売れ始めたのは12年であり、初めて年間200万台の大台乗った。それからの勢いは凄まじく、2年後には400万台、さらに2年後には年間900万台となり、米国を抜き世界最大のSUV需要国になった。この間にモデル数は増え続け、非国営ではSUVを得意とする長城汽車と、国営では吉普(ジープ)名称の中国での使用権を持つ北京汽車を先頭に、SUVの新型車は年間50モデルを数えるようになった。

 ジャガー・ランドローバー(以下JLR)が中国の奇瑞汽車との間で合弁生産について契約したのは12年。江蘇省の工場は14年に完成した。インドのタタ財閥が支配するJLRと、中国政府が「自動車産業再編の中核企業」と認めた優良私企業による合弁工場は、最初の生産車であるレンジローバー・イヴォークの出荷を14年中に開始した。しかし、同じ年に陸風汽車はイヴォークのフルコピー車X7を発売したため、JLRはすぐさま陸風汽車を提訴する準備を開始した。中国では「12年に奇瑞とJLRの合弁契約が結ばれたあとにイヴォークの設計データが流出した」と言われているが、真偽のほどは定かではない。

 そもそも中国の自動車産業は、旧ソ連の自動車メーカーだったジルの支援で1953年にまず国営第一汽車が立ち上がり、58年に上海汽車、69年には第二汽車(現在の東風汽車)が誕生した。やがて旧ソ連の影響を色濃く残すのは第一汽車の「紅旗」ブランドだけになり、上海汽車がVW(フォルクスワーゲン)と合弁会社を84年に設立して以降は日米欧の自動車メーカーが中国企業との合弁設立または技術支援を行なうようになった。自動車技術のすべてが海外からの輸入であり、先達の模倣も当然の手段だったといえる。

 そんな中国の自動車産業に変化が訪れたのは2002年ごろだった。中国企業が海外モデルのリバースエンジニアリングデータを販売するようになり、これをもとにコピーが流行した。ボディ外観を精密な計測機で寸法測定し、ボディを中心線で切断して分解し、内部のパネルも採寸し、場合によっては鋼板の強度測定や接合方法の検証も行なうという精密コピー作業によって得られたデータは、そのままCADデータとして設計に利用された。

 もともと精密リバースエンジニアリングは日欧米で発展した。ライバル社の実力を知るための戦力分析手法である。中国のエンジニアリング会社はそれを真似たに過ぎない。同時に欧米系エンジニアリング会社も中国で設計データの販売を始めた。21世紀に入ってからの中国製コピー車は、それまでのアナログ的コピーとは別次元の精巧なデジタルコピーであり、素材の選択と接合方法さえ間違えなければボディ性能もほぼまるごとコピーできる。

 もっとも、中国の自動車メーカーは精巧なデジタルコピーが可能になる前から、あの手この手で模倣を行なっていた。いわば伝統である。当然、真似された側の海外自動車メーカーは提訴という手段に出る。しかし、中国では勝訴できなかった。いくつかの例を紹介しよう。

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