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次期ゴルフ8でも採用される48Vマイルドハイブリッド 国産車にも導入されるのか? 【テクノロジートレンド 】欧州で主流となるか? 48Vハイブリッドは国産車でも導入されるのか?

  • 2019/11/10
  • Motor Fan illustrated編集部
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〈メルセデス・ベンツS450 ハイブリッドシステム〉メルセデス・ベンツS450のM256型エンジンに組み合わされる、48Vハイブリッドシステム(三菱電機製)。ISG(Integrated Starter Generator)をATのトルクコンバーターの代わりに搭載し、P1配置(モーターをクランクシャフトに直結)のハイブリッドシステムを構成。最高出力/最大トルクは16kW/250Nm。ISG(モーター)はあくまでエンジンのアシストを行なう黒子役に徹するため、良い意味でハイブリッドらしくない仕上がりとなっている。

2011年にドイツの自動車メーカー5社によって策定された、システム電圧を48Vとする新たな車載電源規格「LV148」。これをハイブリッドに利用するという動きが欧州で始まっている。低電圧ゆえに、その効果は限定的と言われるが……

TEXT:髙橋一平(TAKAHASHI Ippey)  PHOTO:山上博也(Hiroya YAMAGAMI)\MFi

 近年、48Vのシステム電圧を用いるというハイブリッドシステムが注目を集めている。2018年に発売となったメルセデス・ベンツS450への採用を皮切りに、欧州メーカーを中心に広がりを見せており、これまで静観の構えを示してきた国産メーカーにも変化の兆しがあらわれている。

 48Vハイブリッドのメリットは、導入におけるハードルの低さだ。すでに国産メーカーで広く普及している、高電圧を用いるハイブリッドシステム(以後、本項ではフルハイブリッドと呼ぶ)では、数百Vという電圧を取り扱うための絶縁部品や、漏電を防ぐためのインターロックシステムなどといった、厳重な安全対策が必要不可欠であり、そこには技術的、コスト的に越えるべき要素が少なくない。48Vならばこの部分に対する要求は緩く、極端に言うなら、12V電装に近いかたちで扱うことができる。

 もちろん、これまで国産メーカー勢がフルハイブリッドにこだわってきたことにも、それなりの理由がある。基本的には電気は高圧で用いるほうが効率的だからという説明が一般的だが、48Vを比較対象とするなら、もっとわかりやすい要素が存在する。モーターの最高出力だ。フルハイブリッドでは一般的なもので数10kW、大きなものになると100kW級も珍しくないのだが、48Vハイブリッドに用いられるモーターの最高出力は、大きなものでも20kWに満たない。これは同じ電流量で比較すると、電圧の高いほうが電力(=出力)は大きくなるという、電気においてもっとも基本な性質によるものだ。

 モーターの中心となるコイルは電気の通り道となる銅線の集まり。そして、その銅線に流すことのできる電流量は、電圧にかかわらず断面積で決まってくる。つまり電流量を増やすためには、太い(=断面積が大きい)銅線が必要となるわけだが、銅線の線径が大きく(=太く)なれば、幾重にも巻き重ねられるコイルも大きくなり、モーターの体格は大きくなってしまう。もちろん、それが許されるほど、現代の自動車のパッケージングに余裕はない。これは48Vでも高電圧のフルハイブリッドでも、どちらにも等しく降りかかってくる条件であり、モーターに許容されるスペースも、そこに流せる電流量にも差はない。電圧の違いがほぼそのままに最高出力の差となっているのはこのためだ。

 こういうと、48Vに良いところがないようだが、ここにきてこの技術が注目を集めていることには当然ながら理由がある。厳格化が進む環境規制と、パワーエレクトロニクス(パワー半導体)の進歩だ。規制厳格化の背景となっている環境問題は、地球規模での対応が必要とされており、いまや先進国だけでなく新興国も含めて対応が必須といわれる。低コストで導入が可能な48Vならば、新興国市場における普及はもとより、先進国においてもハイブリッド技術のさらなる拡大が期待できる。もちろん、エネルギー効率の向上が見込めなければ本末転倒だが、近年のパワー半導体技術の進歩で、48Vという電圧でも効率的な運用が可能となってきたのだ。

 ちなみに、このパワー半導体においても、48Vハイブリッドとフルハイブリッドの間には、大きな違いがある。フルハイブリッドでは、数百Vの電圧を扱うためにIGBTと呼ばれる高電圧対応のパワー半導体が必要とされるのだが、48Vという電圧であればMOSFETという、ごく一般的なものが使える。このMOSFETもやはりパワー半導体なのだが、すでに家電製品などで広く普及しているもので、一般にIGBTのほうが高価だと思って間違いない。そして耐電圧という面でIGBTに一歩譲るMOSFETには、(IGBTよりも)低損失で、より高速の制御が可能というメリットもある。じつは、次世代のフルハイブリッド用として登場が期待されるSiCパワー半導体も、正確にはSiC-MOSFETと呼ばれるMOSFETで、その目的も、やはり損失の小ささと、制御性の高さである。つまり、48Vにはフルハイブリッドよりも先を行くという一面もあるのだ。

 もちろん、48Vのモーターが、前述のとおりエンジンのアシストに有効な出力を持っていたとしても、回生した電力を交流から直流へと変換して、バッテリーに蓄え、そしてバッテリーの直流からモーター駆動に必要な交流というカタチで再び変換するという、二回の変換で発生する損失が大きくては、ハイブリッドシステムは成立しない。近年、MOSFETをはじめ、さまざまな電力素子で低損失化が進んでおり、これにハイブリッド、EV向けとして磨き上げられてきたバッテリー技術(電気的特性だけでなく低コスト化も)が加わり、48Vを取り巻く状況は大きく変わってきている。試作レベルとはいえ、かつては考えられなかった48VのPHEVやEVなどというものまで現れていることからも、低損失化がかなりのレベルまで進んでいることがわかる。

 48Vハイブリッドは、高電圧を用いるフルハイブリッドに代わるものではない。しかし、電源確保のために大がかりな専用装備を必要とするフルハイブリッドに対し、車載電源の48V化をベースとする48Vハイブリッドは、内燃エンジンの標準技術にもなり得る可能性がある。一台あたりの効果が大きなフルハイブリッドに対し、48Vハイブリッドはそのハードルの低さを生かし、効果はそこそこながら多くの車種、台数をカバーすることで、自動車社会全体で低排出化の下支えとなっていく…… 内燃エンジンの時代はまだまだ続きそうだ。

ヴァレオによる未来予想

ヴァレオ による、2025年、2030年の全世界におけるパワートレーン分布予想。2030年では、全体の66%になにかしらの電動技術が用いられているが、BEV(純EV)その半数以下にとどまり、それ以外はエンジンに電動技術を付与したハイブリッドとなっている。そしてハイブリッドのなかで一番大きな勢力となっているのが、48Vマイルドハイブリッドだ。欧州では多くのメーカーが、ICEV、HEV、BEVの比率を30:40:30程度になると予測している。

ヴァレオがパリモーターショーで発表した48V BEV

ヴァレオ が2018年のパリモーターショーで披露した、システム電圧48VのBEV。仏AIXAM社の2気筒500ccエンジンを搭載する2座のマイクロカーがベースで、15kWのモーターに2段変速機を組み合わせることで、48Vでありながら100km/hという最高時速を実現。バッテリー容量は13.5kWhで、航続距離はなんと150km。48VのBEVというだけでも異例といえるところにこの性能、技術の進歩により時代が変わっていることを示す一台だ。

ヴァレオ iBSG

ヴァレオ による48V仕様のベルト式スタータージェネレーター。オルタネーターと置き換えることで、エンジンをほぼそのままにマイルドハイブリッド化が可能となる(インバーターやバッテリーなどは別途必要)。48Vとしては世界初の空冷で、最高出力は12kW。ヴァレオ は12V時代から、こうしたオルタネーター置き換え型のマイルドハイブリッド(当時はマイクロハイブリッドと呼称)を手がけている。

シェフラー P2ハイブリッドモジュール

シェフラーによる横置きパワートレーン向け48Vハイブリッドシステム。エンジンとトランスミッションの間に挟み込むかたちで取り付けられ(取り付け部の厚さは80mm)、P2配置ということでエンジン切断用のクラッチを備える。トランスミッション用も含め、クラッチはすべてモーターのローター内側に置く。最高出力は15kW。

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