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貴金属成分に自己再生機能を持たせたダイハツ独自のインテリジェント触媒 ダイハツのインテリジェント触媒とは、何が「インテリジェント」なのか

  • 2019/12/07
  • Motor Fan illustrated編集部
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三元触媒の最大の欠点は、つかっているうちに性能劣化することだ。長期間にわたって機能を維持するためには貴金属を増量する必要がある。この欠点にメスを入れたダイハツは貴金属使用量の大幅削減に成功した。

TEXT●牧野茂雄(MAKINO Shigeo) PHOTO & ILLUSTRATION●DAIHATSU
*本記事は2007年11月に執筆、掲載されたものです。現在の状況とは異なる場合があります。

貴金属原子をまったく新しい構造体に取り込んだ「遺伝子組み換え」の妙

 三元触媒は優秀な「排ガス浄化装置」である。だからこそ世界中に普及した。しかし欠点もある。なかでも貴金属を利用していることに起因する「金属劣化」をどう抑えるかがポイントであり、これについては長年のあいだ研究されてきた。

 触媒としてつかわれる貴金属は、その「触媒」の名前のとおり、それ自体は化学変化を起こさない。しかし、仕事を続けているうちに「疲れ」が出る。貴金属の「疲れ」は、規格にある貴金属同士が合体して結晶構造が大きくなり、それによって表面積が減少してしまうことだ。ちょうど水銀の小粒が合体して大きくなるような現象だという。

 触媒の能力は、つかわれている貴金属分子の表面積に左右される。広い面積であればあるほど、有害物質を捕らえて化学反応を起こさせる機会が増え、浄化率は高くなる。触媒担体が細かい格子状になっているのは表面積をかせぐためだ。しかし、製造段階で貴金属をまんべんなく配置して表面積を稼いでも、「疲れ」が出て隣同士が合体し、それが繰り返されて表面積が減ると、その分だけ「酸化」「還元」の能力が落ちる。

 従来は、長期間にわたって触媒の能力を維持するために貴金属そのものの量を増やしていた。これはコストアップにつながるが、各国で決められた「触媒耐久試験」を好成績でパスするためには貴金属の増量が必要だった。

 ところが、この常識をダイハツが破った。独自に開発したインテリジェント触媒を発表したのは02年10月。田中裕久氏を中心とした研究陣は「疲れてもくっつかない」構造を考案したのである。その構造は下図にあるようなもので、自己再生できる結晶を形成したことが特徴だ。

それぞれの貴金属のペロブスカイト結晶構造。特徴的なのは、まったく関係のない材料を結晶構造内に持つことだ。言って見ればナノ金属レベルでの「遺伝子組み換え」である。まずパラジウムで実現し、その後にロジウムとプラチナでも実現させた。電池同様に材料の組み合わせを探ることが最大の難関だろう。
上のペロブスカイト構造をさらに詳しくしたモデル図。この構造にすることで、コート材の中に練り込まれて奥に入った貴金属でも浄化に参加していることが確認されたという。従来は、コーティング表面に貴金属を集めることが重要だったが、インテリジェント触媒はそこでも常識を覆したことになる。

 パラジウムの周囲を6個の酸素原子が取り囲み、通常はこの状態で安定している。そして、有害成分を酸化させるために、その6個の酸素原子をひとつずつ使う。すべてを使い果たすと、パラジウム原子そのものが「休み」に入る。それ以上、無理をさせない。休みながら周囲の酸素原子をふたたび取り込み、6個そろったら仕事に復帰する。じつに不思議な結晶構造を、ダイハツは考案した。

 ポイントは、分子構造の中にランタンと鉄を取り込むことだった。この組み合わせが重要であり、誤解を恐れず大雑把に言うと、ランタンと鉄が、パラジウム原子がもたれあってくっついてしまう行動を妨害している、ということだ。くっつき合って結晶が大きくならないため、「休み」明けのパラジウムはもとのままの表面積で仕事をこなす。

 この結晶構造をダイハツは「ペロブスカイト型酸化物」と名付けた。もともとペロブスカイトは灰チタン石と呼ばれる物質で、金属を中心に周囲を酸素原子6個が取り囲む構造を8面体の中に含有したものだ。ダイハツのペロブスカイト酸化物は、パラジウムイオンが8面体そのものの一角を形成し、その周囲を6個の酸素原子が取り囲んでいる。この構造により、パラジウムは「長く」仕事をすることができるようになった。結果としてパラジウム使用量が10分の1に減少したのだ。

 その後、ダイハツはロジウムのペロブスカイト化に成功する。従来のパラジウムに加えてロジウムも高耐久型にしたスーパーインテリジェント触媒が、05年12月に発表された。そして06年6月、最後まで残ったプラチナまでペロブスカイト化し、三元触媒につかわれる貴金属すべての使用量を減らすことに成功した。

このグラフは、縦軸が排ガス浄化率、横軸が排気温度900℃での高負荷連続運転の時間を示す。通常の触媒は、連続高負荷では一定の比率で浄化性能が落ちてしまう。貴金属が「くっつき合う」ためだ。パラジウムだけをペロブカイト構造化し、その使用量を10分の1に減らしてもインテリジェント触媒は高性能だ。

 これが何を意味するのか。まずはダイハツとしての貴金属使用量削減、つまりコストダウン効果を思い浮かべるが、本当の価値はほかにある。現在、地球上で流通しているプラチナは、年間わずか200トンしかない。そのうち130トンが自動車の触媒に利用されている。埋蔵量については採掘技術との兼ね合いなどから諸説あるところだが、いずれにしても貴重な資源なのである。

 1グラムの貴金属を1台のクルマの触媒で使うか、それともペロブスカイト構造化して10台で分け合うか。ますますニーズが高まるガソリン車およびディーゼル車用の触媒を、従来の性能を保ったまま、より少ない貴金属量で製造できるという価値こそ、インテリジェント触媒の社会的異議だと考えるべきだろう。田中裕久氏は「排ガス温度が高く、触媒作動条件が厳しい軽自動車で、触媒のコストを下げるための手段だった」と言うが、すでにトヨタ車向けも合わせて累計350万台の出荷実績に達したインテリジェント触媒は、社会に対して大きな仕事をしたことになる。

三元触媒が本当に有効に機能する範囲は、じつは非常に狭い。理論空燃比(ストイキオメトリー)の周辺でなければCO、HC、NOxの3つを浄化することが出来ない。まずはエンジン側の燃焼適正化が必要になる。
三元触媒につかわれる貴金属すべてをペロブシカイト化したダイハツのスーパーインテリジェント触媒。

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