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本格的なオフロード走行を可能にするマツダのオフロードトラクションアシストとは? 三輪状態になっても走り続けられる? マツダの新世代i-ACTIV AWDの威力

  • 2019/12/23
  • Motor Fan illustrated編集部
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MAZDA3から始まった新世代車両構造技術「SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE(スカイアクティブ ビークル アーキテクチャー)」を採用する新世代モデル第二弾として登場したCX-30、そのAWDシステムにはオフロードトラクションアシストと呼ばれる新機能が実装されていた。
TEXT:髙橋一平(TAKAHASHI Ippey) PHOTO:MFi

 普段、一般公道でしか試乗を行わない我々は、気にかけていなかったというのが正直なところだったのだが、この新機能は商品改良を受けたCX-8(2019年11月28日より発売)、CX-5(2020年1月17日より発売)にも新たに採用。主たる目的は悪路走破性の向上だ。
 マツダではこうした我々の状況を知ってか、2019年12月に報道関係者向けのオフロード試乗会を開催。会場に並んでいたのは前述したCX-8、CX-5、そしてCX-30の3モデル。試乗の舞台となったコースは山梨県の富士ヶ嶺オフロード、かなり本格的なオフロードコースだ。
 これらのモデルはいずれもシティーユースを主軸においたアーバンSUV、見れば試乗に供された車両はタイヤまでノーマルのロードタイヤ(いわゆる夏タイヤ)だ。試乗当日は直前まで雨が降っていたということもあり、最初はとてもコースを走れるとは思えなかったのだが、そんな印象とはうらはらに走り出してみると、どのモデルも難なく走りきる。

ご覧のとおり、OEの夏タイヤでラフロードを走る試乗会である。

 現在、マツダの4WDにはi-ACTIV AWDと呼ばれる独自のシステムが採用されており、そこにはAWDならではのトラクション性能を、走行安定性の確保のみならず、燃費効率の向上にも生かすという思想が盛り込まれている。ハードウェア的には横置き配置のFFパワートレーンをベースに、PTO(パワーテイクオフ)と呼ばれるベベルギア機構を用いて取り出した後輪用の出力を、ドライブシャフトでリヤデフに伝達するカタチで、リヤデフ入力部に設けられたボールカム(またはテーパーローラーカム)機構付きの電磁クラッチにより、後輪に振り分けられるトルク割合の制御が可能だ。

CX-30のi-ACTIV AWDシャシー(PHOTO:MAZDA)

 前後輪のトルク配分を100:0から50:50まで、状況に応じてアクティブに電子制御することで、雪道や未舗装路などの滑りやすい路面でも AWDらしい走行性能が確保されているのだが、基本的には前輪のスリップの検出をトリガーに後輪へのトルク伝達を開始するということ(これを高精度、かつ高応答で行うことで燃費向上効果を引き出していると思って間違いない)、また舗装路での使い勝手や燃費性能確保のため、前後ともにLSDなどの差動制限機構やデフロック機構を持っていないオープンデフを用いることから、本格的なクロスカントリー車などと比べてしまうと、悪路走破性において届かない部分があったのも事実だった。

え、ここを走るの、というコース設定である。

 CXシリーズを本格的なクロスカントリー車と比べるとは、ナンセンスなようにも思えるが、これらのモデルの主戦場ともいえる北米市場では、AWDという括りにより同じ土俵で比較され、また実際に荒野のような土地でのレジャーに活用されることが一般的という背景があり、かなりシビアなコンディションからでも脱出することができ立ち往生することなく走り続けることが求められるのだという。

 オフロードトラクションアシストはこの部分の能力を補完するもので、注目すべきはi-ACTIV AWDのハードウェア構成(制御ECUまでを含む)はほぼそのままに、そこに実装されるソフトウェアの変更と、切り替えスイッチの追加のみで、悪路走破性の大幅な向上に成功している点だ(ただし、商品改良でこの機能が追加されたCX-8/CX-5とは異なり、CX-30では最初から搭載されており、電子制御カップリングや制御ECUなども最新世代のものとなっている)。

 スイッチ切り替え式のオフロードトラクションアシストをONにすると、スリップのないイニシャルの状態から後輪へのトルク配分が増やされた状態となり、30度を超えるヒルクライムも難なくこなす。雨後のマディコンディションのなかでも、リヤタイヤが“掻いている”ことがしっかりと伝わってくるほど、その効果は絶大だ。

 そしてなかでも印象的だったのが、空転輪にトルクが集中してしまうというオープンデフゆえの弱点を、ブレーキを用いて空転輪を止めることで、空転していない反対側の車輪に駆動力を廻すという機能。これはいわば“ブレーキによるLSD”ともいえるもので、すでにスズキ・ジムニーにも同様のシステムが搭載されているのだが、クロカンイメージの強いジムニーに対し、アーバン色の濃いCXシリーズとの組み合わせはインパクト大だ。
とくにCX-8が左右互い違いの凹凸を乗り越えていくモーグルコースで片輪を大きく振り上げながら、空中高くに浮かぶ車輪の空転をブレーキで押さえつけ(これがかなり強いブレーキで、荒々しい作動音を伴う)、反対側の接地輪にトルクを集中させ力強く前進していくさまは豪快そのもので、同車が普段見せる表情とは大きく異なる。これが制御ソフトウェアの変更のみで実現(細かく言えば切り替えスイッチの追加はあるが)しているというのだから興味深い。

普通はタイヤが宙に浮いて空転するとトルクはすべてそちらへ流れて駆動力がゼロになるが……
即座に空転検知、ブレーキをかけて残りの3輪へトルクを流す制御とする。ブレーキLSDと呼ばれる所以だ。

 センターデフを持たない、電子制御式のAWD、なかでもFFパワートレーンをベースとするそれは、これまで街乗りプラスアルファ程度のものとして扱われてきたが、その常識もこれからは大きく変わりそうだ。その変化の背景にあるのは電子制御技術の進歩である。

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