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新型コロナウイルス禍の先に未来あり「楽観はできないが、大げさに悲観する必要もない。収束の先に何をすべきか」【牧野茂雄の自動業界車鳥瞰図】

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日本は加工貿易で成り立っている。ものを作ることが得意だが、天然資源は乏しい。資源は輸入に頼っている。日本からの輸出品に占める自動車とその関連の比率は約2割であり、国内で生産される自動車1000万台のうち半数近くが輸出される。全世界での日系ブランド車生産は約2700万台。資源・生産材・部品・完成車の物流が作り出す兵站線は長い。長ければ長いほど寸断の危機が潜む。あらかじめこれに対応しておかねばならない。危機管理の視点をもう一度、日本の自動車産業全体で点検し、危機への想像力をアップデートする必要がある。

新型コロナウイルスが経済を蝕み始めた。世界経済はリーマンショック以上の損害を被ると見るべきだろう。流行が収束しても、すぐに景気が回復するとは思いにくい。人びとに景気好転の実感がなければ、高額耐久消費財である自動車の売れ行きは回復しない。だから楽観はできないが、大げさに悲観する必要もない。収束の先に何をすべきかを考えればいい。

 格付け会社ムーディーズ・インベスター・サービス(MIS)が2月27日に発表したことしの世界自動車市場見通しは、当初の予測である2.5%減から大きく後退し同14%減になった。直近の実績が9000万台だとすると、台数で1260万台の減少になる。EUの乗用車市場に匹敵する数が消えてしまう 。言うまでもなく、この影響は甚大であり、あちこちの国でGDPを引き下げる要因になる。

 地域別では、西ヨーロッパが前年比21%減、中国が同10%減、北米は同15%減である。欧州市場へのダメージがもっとも大きいという予測だが、これはアメリカが「世界最多感染者数」になる前の予測であり、米国市場も20%程度のマイナスになると見ておくべきだ。世界の自動車需要20%減。どのメーカーも一律均等に被害を受けると仮定すれば、日本車の世界生産台数年間2700万台は2160万台に減る。540万台の損失は日本の自動車市場全体が消失するのに等しい。経営計画を見直さねばならない。

 かつてリーマンショックのときは、需要減に見舞われた世界の自動車市場を中国が救った。中国政府はエンジン排気量1.6ℓ以下の乗用車を購入税半減とし、同時に農村部への自動車普及を促す「汽車下農」政策を展開した。日欧米の自動車メーカーは中国での生産を増やして地元市場の需要減を補った。2009年の中国自動車市場は前年比45%増の1364万台。2010年には1800万台に達し米国を抜いて世界最大の自動車市場になる。この勢いがリーマンショック後の世界自動車産業に活力を注入したのだった。

 しかし、現在の中国は2年近くにわたって自動車需要が伸び悩んでいるほか、中国政府の外貨準備高もリーマンショック当時に比べて激減している。もはや中国の牽引力には期待できない。新型コロナウイルス感染の流行収束に1年かかるとして、来年のいまごろにどのような商品をどのような体制で生産し、どう売るかをしっかりイメージしておくべきだ。
 世の中には「この際、思い切った改革を」という声がある。わかりやすい例はテレワークだ。テレワークなど不可能と考えていた企業が政府の要請で止むを得ずテレワークを実施した。試行錯誤が始まり、現場から問題点がつぎつぎと上がってくる。どう解決するかは企業によりけりだが、貴重な経験の機会を得た。平穏無事な世の中では、これほどテレワーク参加企業が一気に増えることはなかっただろう。同時に、人と人が顔を突き合わせながらチームを組んで仕事をすることのメリットも再認識された。

 医療現場では規制緩和が進み、インターネットとPCを使った遠隔診療が出来るようになった。医療崩壊を防ぐための火事場ニーズだが、これも有事だからこそ実現した。ウェアラブル端末を5G(第5世代)携帯電話サービスで使えば「出来ること」は増える。新しい医療サービスが見えてくる。半面、リモート化が進んでいないのは教育現場であり、ここには早急な手当てが必要だ。どうも文部科学省という省庁はすべてにおいて行動が遅く、視点もズレている。

 自動車産業ではサプライチェーン総点検が行なわれている。2011年の東日本大震災を機に実施されたサプライチェーン強靭化は、まだ完成していなかった。今回、グローバル生産体制のなかで発生したサプライチェーン寸断は、まず中国製部品の欠品が理由だったが、その情報収集
の段階で正確な部品生産および在庫状況を把握することができなかった。「モノ」とともに「情報」も欠如した結果の生産停止だった。

 そして、最終的には都市封鎖などでスタッフが工場へ行くことができず、「人」の欠如による生産停止に至った。欧州、北米、日本が揃ってこれほどの規模で生産停止に追い込まれたのは初めてのことだ。4月1日現在、日本国内の乗用車メーカー8社が生産の一部またはすべてを停止している。生産再開のめど立たず、である。
 世界レベルで見ると、特定の地域、特定の企業が生産停止に追い込まれたのではなく、ほぼ平等に、あらゆる自動車生産国が時間差を置きながら生産停止へと向かった。ウイルス震源地の中国国内は自動車生産を再開したようだが、ふたたびサプライチェーン寸断に見舞われないという保証はどこにもない。この国が発する情報は疑ってかかるべきだ。

 とはいえ、一斉の開店休業はいつか収束する。この間に何をするか。前代未聞の事態から学べることはたくさんあるだろう。ひとつ提案したいのはサプライチェーン情報の中央集権化をやめてブロックチェーン(分散型台帳)化することだ。東日本大震災での生産中断を教訓にBCP(ビジネス・コンティニュイティ・プランニング)の策定が進んだが、今回の感染症による生産停止は「モノ」「情報」「人」「金」のすべてが必要な場所に集まらないという究極の想定外であり、もはや打つ手はない。

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