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スバル次世代水平対向エンジンへの提言(1)横幅をもっとコンパクトに!

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スバルというブランドにとって水平対向エンジンは、存在意義のどれくらいを占めるだろうか。筆者がかつて話をしたGM(ゼネラル・モータース)のエンジニア諸氏は「アフォーダブル(買いやすい)な値段で極めて高性能」「AWD(オール・ホイール・ドライブ=全輪駆動)性能の高さと独特の緻密感」がスバルの価値だと語った。水平対向エンジンは「方法のひとつ」であり「必須ではない」と言う。一方、日本のファンは何よりもまず水平対向エンジンを挙げる。スバルを巡る議論には少なからず日米ギャップがある。とはいえ、スバルは水平対向エンジンを作り続けるだろう。だとすれば、次世代はどのようなエンジンになるのか——MFiの希望的観測をお届けしよう。スバルの水平対向エンジンは「こうあってほしい」という提案である。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

 スバルの水平対向エンジンは横幅が広くなりすぎた。次世代エンジンでは横幅を思い切り削るべきだ。できれば20cm、最低でも16cmは削りたい。左右バンクそれぞれ8〜10cmの寸法カット。横幅を削れば車両搭載性が改善され、車両パッケージングの自由度が高くなる。最大のマイナス面はコストだ。大幅な設計変更は製造設備を含めた新規の投資が必要になる。しかし必ず補えるはずだ。

 EJ型からFA/FB型への切り替えでは、まずストローク/ボア比がロングストローク寄りになったこと大きな変更点である。いま、レシプロエンジン全体がロングストローク化の傾向にある。燃費改善のためだ。燃焼室表面積をできるだけ小さくして燃焼室壁面からエンジン冷却水に奪われる熱量を減らすためには、ピストン冠面の直径(ボア)に対して上下動の行程(ストローク)を長めに取るほうが有利になる。

 燃焼室の表面積を減らすため燃焼室天井は平たくなった。向かい合った吸気/排気のバルブの「傘」の面が三角屋根(差掛け屋根、英語ではペントルーフ)を形成していたのが以前のクロスフロー型(吸気バルブと排気バルブが向かい合っている)エンジンだが、近年は燃焼室天井がだんだん平らになってきた。バルブ挟み角を狭くした結果だ。挟み角が小さくなりバルブが立ってきたからシリンダーヘッドの高さは高くなった。

 吸排気系は複雑になった。これはどんなエンジンにもあてはまることだ。バルブの開閉時期を変化させるVVT(バリアブル・バルブ・タイミング)システム。バルブのリフト(押し開き)量を変化させるVVL(バリアブル・バルブ・リフト)システム。特定の気筒だけ運転を休止させる気筒休止機構。これらは燃焼を積極的にコントロールするための仕掛けだ。燃料を吸気ポート内ではなくシリンダー内に噴射するDI(ダイレクト・インジェクション)の場合はその噴射装置がシリンダーヘッドに取り付けられる。DIは燃焼1回ごとの燃料供給量を厳密にコントロールする手段だ。

ピストンの上死点位置からシリンダーヘッドカバーの上端までは、赤線で示した幅がある。長いバルブと、バルブを閉める動作のための巻バネ(コイルスプリング)、2本のカムシャフト、その前端に取り付けられた「缶詰」のようなVVTユニット。直列エンジンや90°バンクのV型エンジンでは大きな問題にならないシリンダーヘッドの「高さ」が、水平対向エンジンでは「幅の拡大」につながる。

 スバルのFA/FB型は両バンクのカムシャフト合計4本にVVTを組み込んでいる。そのためシリンダーヘッドカバーに少し外側への出っ張りがある。水平対向エンジンはシリンダー横倒しの状態で車両に搭載されるから。この出っ張りの分はエンジンの横幅を少し広げることになる。また、 FA/FBともにDIである。燃料系統は横倒しにしたシリンダーブロックおよびクランクケースの上に乗る。燃料インジェクターはシリンダーブロックの横から筒内に差し込まれる方式であり、DI系統はエンジン横幅には関係していない。

 EJ型の後継であるFA/FB型は、いまどきのエンジンらしい性能バランスで設計されている。燃費(つまりCO2排出)を悪化さずに出力/トルクおよび瞬発力を確保している。燃料をできるだけ効率よく使うには、そのときの運転状態に応じて、できるかぎり最適に近い燃焼をさせる必要がある。そのための仕掛けがだんだん大掛かりになり、ピストンが往復運動する方向の寸法が少しずつ長くなった。直列エンジンなら、高さ方向に寸法が伸びたらエンジンを斜めに搭載すればよい。しかし水平対向エンジンではそれができないから、もろに横幅拡大になってしまう。

 MFiはOHV化を提案する。カムシャフトをシリンダーヘッドには置かずクランクシャフトの上下に置く。上側は吸気バルブ用で下側は排気バルブ用。カムシャフトからバルブ駆動メカまではプッシュロッドを使う。通常のOHVは吸気/排気バルブを1本のカムシャフトで行なうが、吸気/排気ともVVTを使う位相可変にしたいから、2本に分ける。

 バルブが「戻り」動作を行なうときの動力には板ばねの戻り力を使う。通常は巻きばね(コイルスプリング)だが、巻きばねの場合はバルブリフト量に対してばね自由長がずいぶん長くなる。ここを削りたいから板ばねを使う。

 プッシュロッドの上下動をふたつのバルブに伝え、同時に板ばねの「押さえ」の役目も果たすロッカーアームは1気筒当たり吸気側/排気側ともにひとつ。4気筒なら両バンクで合計8つ。ロッカーアームのガイドとなるシャフトは1気筒当たり吸気側/排気側ともに1本。両バンクでは合計4本。

 簡単なポンチ絵を手書きで描いてみた。細かな検証は行なっていないが、ピストンストロークを5mm伸ばしても(そのぶんクランクシャフトの回転円は大きくなる)片バンク40mm、両バンクで合計80mmは縮められると思う。バルブ駆動を板ばねにすれば通常の巻きばねを使う場合よりも短くできるだろう。ロッカーアームのぶんだけシリンダーヘッドは左右に張り出すが、バルブ直動式DOHC(ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフト)とほぼ変わらないはずだ。ヘッド部分が横に広がっても水平対向エンジンの車両搭載時には上下方向の寸法になる。

旧陸海軍向けに優秀な軍用機とエンジンを数多く産んだ中島飛行機が戦後は富士重工業となり、連合軍によって禁止された航空機産業ではなく自動車を作ることになった。その動力源は水平対向エンジンに決まり、試作が行なわれた。最初の量産エンジンであるEA52型(零式戦闘機52型を連想してしまう)はボア72×ストローク60mm、気筒当たり約244cc、4気筒で977ccだった。圧縮比9.0で最高出力(当時のエンジン単体計測、いわゆるグロス値)55ps/6600rom、最大トルク7.8kgf・m/3200rpm。
斜め前方から見るとエンジン下部にオイルパンが見える。トランスミッションから横に飛び出している前輪駆動軸の中心とエンジン前部にあるプーリー軸の中心との段差はそれほど大きくなはい。この時代の水平対向エンジンは本当に低重心だった。「スバル1000」「スバルff-1」に搭載された。

 1966年に富士重工業(現在はスバルに社名変更)が最初の市販車搭載用水平対向4気筒エンジンであるEA52型を世に送り出したときはOHV(オーバーヘッドバルブ)方式だった。排気量977cc、1気筒当たり吸気1/排気1の2バルブであり、バルブ開閉はプッシュロッドを介して行なった。

 当時のエンジンは凝ったバルブ駆動機構はなく燃料供給はキャブレターだった。負圧を使って燃料を霧状の小さな粒にし、それをピストンの下降運動によってエンジンが自然に吸い込むという仕組みだ。吸気系はシンプルだった。排気系はただの管だけ。エンジンの底にある排気マニフォールドから出た細い排気管は当時の直列4気筒エンジンと似たような形状だった。

 現在のFA/FB型は、EA型の時代とは比較にならないほど複雑化している。しかしVVTもDIも効率追求のための最適燃焼には必須のアイテムだ。ならばバルブトレーンを現在のDOHCではなくOHVに戻すのも手ではないか?

 次回はOHV化提案についてもう少し詳しくお伝えする。

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