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内燃機関超基礎講座 | “ハチロク”と4A-G、神話の正体を探る[トヨタ・カローラレビン/スプリンタートレノ:AE86]

  • 2020/10/04
  • Motor Fan illustrated編集部
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40年近くも前の車にもかかわらず、いまなお高い人気を誇る“ハチロク”ことAE86レビン/トレノ。驚くべきは、そのいずれもが単なる懐古主義による、愛でるべき対象にとどまらず、現代の車とも拮抗するような性質を発揮し活躍していることだ。

TEXT:髙橋一平(TAKAHASHI Ippey)

TE27カローラレビン/スプリンタートレノと2T-G型エンジンの組み合わせに始まった、“テンロク”エンジンを搭載するFRライトウェイトスポーツの流れは、1983年のAE86の登場によって、4A-G型へとエンジンの世代交代が行なわれると同時に、最後のFRボディとなったことで、誰も予想しなかったほどのクライマックスを迎えることになった。もはやレビン/トレノの名が忘れ去られたかのように、“ハチロク”の愛称が一人歩きを始め、世間ではカローラレビン/スプリンタートレノとしてのAE86ではなく、あくまで“ハチロク”という名のもとで神話が形成されるに至っている。
いずれにしても、登場から30年近い年月が経っているにもかかわらず、いまだに衰えることのないAE86の人気が、驚きに値することだけは確かだ。

それではAE86の魅力とは何だろう。FRというパッケージングについては言うまでもないが、DOHC4バルブという現代的な要素を押さえながら、ソツなくまとめあげられた4A-Gというエンジンと、現代からすれば、絶望的なまでに何の変哲もないシャシーによるチューニングの幅の広さかもしれない。

4A-G型エンジン

極端な例かもしれないが、筑波サーキットで行なわれる走行会や、サンデーレースなどを見ると、同コースを1分ヒト桁台前半で周回するAE86が珍しくないことに驚かされる。そこで見られるのはサスペンションの変更はもちろんのこと、フロアまで“切り貼り”加工されたAE86の多さだ。

サスペンションマウントを作り直して、コントロールリンクの位置を大幅に変更するなど、もはやAE86の素性など、どうでも良かったのではと思えるほどの大幅な改造には、こだわるほど優れた要素がノーマルに存在しないが故の思い切りの良さが感じられるわけだが、中途半端に価値(良いところ)があってイジれないよりは、こちらのほうが自由で楽しいのかもしれない。ともあれ、走っている姿はAE86には違いなく、最新鋭のGT-Rでもなかなか出せないようなタイムで走るのだから痛快といえば痛快ではある。

もちろん、このような例はAE86ファンのなかでもごく一部の限られたエリアでの話であることは間違いないが、こういった事実の存在もAE86の人気を支える要因であることは事実だろう。実際、似たような例はAE86以前の2T-G型エンジン搭載モデルの時代にもあった。

2T-G型エンジン

例えば、2T-G型エンジンのチューニングメニューに、1750cc仕様というものが存在していたのだが、これはブロックにボーリング加工を施して、ボアを3.5mm拡大することで、18R系エンジン(カリーナやマークIIに搭載)の88.5mm径ピストンを組み込むというもの。3.5mmという乱暴なまでのボーリングもさることながら、エンジンを降ろして分解という手間を考えると、前述のサーキットを走るAE86と同様、実践していたユーザーはごく一部であったことは間違いない。

ところが、このチューニング手法には“イナゴマル”という愛称もあったほどにポピュラーで、2T-G型エンジンの魅力といえば、「容易にチューニングが可能」というフレーズが定着していた。つまり、重要なのは実際に“手を染める”ということではなく、そこに(チューニングの)可能性があるということが重要なポイントなのだ。

昭和58年8月号『モーターファン』ロードテストより、駆動輪出力。シャシーダイナモメーターにより測定した駆動輪出力および排気量1lあたりの駆動輪出力。1lあたりの駆動輪出力は、DOHCガソリンエンジン、マニュアルトランスミッション車のロードテストデータも併記してある。供試車両の駆動輪出力は97.6ps/7000rpmで、動力性能試験時のパワーウェイトレシオは11.7kg/psであった。

ちなみに2T-G型でこれだけのボアの拡大が可能であった背景には、純正オーバーサイズのピストンを使った補修が現在よりも頻繁に行なわれていたことから、ブロックの肉厚が余裕を持った設計になっていたという事実がある。これが後の世代の4A-G型では81mmのボア径に対し、ボアピッチは87.5mmでシリンダー間の肉厚は6.5mmしかなく、仮に3.5mmもボアを拡大すると、3mmの肉厚しか残らないことになってしまう。

そんなこともあって、4A-G型のデビュー直後は“チューニングの余地なし”と失望する声も多かったのだが、AE86に続く後継モデルが4A-G型エンジンを使い続け、バージョンアップを繰り返したことで、4A-G型にはこれらのモデルのパーツ、場合によってはエンジンを組み合わせることでチューニングを図るという、新たな可能性が生まれた。何しろ最終型となるAE111に搭載の4A-GZEは、1気筒あたり5バルブと可変バルブタイミング機構を採用し165ps/7800rpmというパワーで、さらには4連スロットルまで装備。これをAE86に搭載すれば立派なチューニングカーが出来上がる。

同系列とはいえ異なるモデル間、しかもそこにFFとFRという違いが存在する場合のエンジンスワップでは、補機類の位置変更などといった手間や、問題が現れるものだが、インターネット時代での情報交換が盛んということに加えて、エンジンスワップにまつわるアダプター類のようなパーツも豊富に揃っているので、手間と費用さえ惜しまなければ実現は可能だ。実際に、かつてと比べると現在は車検制度が緩和されているということもあって、こういった改造が施される例も珍しくなくなっている。

昭和58年8月号『モーターファン』ロードテストより、加速性能試験結果を示す。発進加速0→400m、1kmの所要時間はそれぞれ16.01秒および29.82秒であり、0→100km/hの所要時間は8.44秒であった。

とはいえ、やはり大事なのは“可能性”の存在だ。そういう意味では4A-G型エンジンには、バリエーションの数だけ可能性が存在しているということで、これらがAE86の魅力を形成するうえで、重要な一角を担っていることは間違いない。実際のチューニングも楽しいことだが、実はあれこれ考えている段階が一番楽しいということもある。そもそも、40年近く前のモデルであるAE86に乗るということ自体、現在となっては“手が届きそうで届かない”現実になりつつある。

実はこれこそが現在の“ハチロク”人気の正体かもしれない。

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