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サスペンション・ウォッチング | トヨタ・iQ:世にも珍しいセンターテイクオフ式ハイマウント操舵装置

  • 2020/10/08
  • Motor Fan illustrated編集部
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登録車で、超短軸距/超小型。非常に意欲的だったトヨタiQは、その姿と同様に懸架装置にもユニークな試みが数々盛り込まれている。
STORY:國政久郎(KUNIMASA Hisao) TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji)

全長3mを切るサイズの中に、大人3人プラスアルファを無理なく収める。トヨタiQは、そんな無謀とも思えるコンセプトをかかげて開発されたクルマだ。

なぜ、そのような発想に至ったのか? 開発者へのインタビュー記事では、「乗用車にとって永遠のテーマである、パッケージ効率向上への挑戦」といったコメントが提示されている。360cc時代の軽自動車規格は全長3m以下だったが、現在の厳しい衝突安全基準を満たした上でその中に2列シートを作りこむのは、相当な困難があることなど、むろん承知の上でのチャレンジだったことは想像に難くない。

むしろ、iQの開発における真の成果物は、常識的な手法では実現不可能な課題をクリアするための試行錯誤と、その過程で得られたノウハウそのものではないかとすら思える。実際には、次世代コンパクト車のための技術プラットフォーム先行開発といった意味合いも含まれているだろうから、そのような視点でiQの構成を観察してみたい。

エンジンコンパートメントは、前後長を徹底的に切り詰めるため、内部の部品レイアウトが従来車から大きく変更されている。代表的なのは、エンジンの前方にデフを配置したことと、ステアリングラックをクロスメンバー付近ではなく、ステアリングコラム下の高い位置に置き、しかもタイロッドをセンターアウトプット(トヨタの呼称ではセンターテイクオフ)式としたことだろう。いずれも量産車ではあまり採用例がない方式だ。

デフ配置については、特に問題は生じないと考える。エンジン前方のクラッシャブルストラクチャー確保の上で都合がいいだけではなく、重量配分の面でも好影響が期待できそうだ。

ステアリング機構については、少々難しい問題が出てくる。ラックの上方マウントは先代のアウディA4も採用しているが、これはセンターアウトプットではないし、ダブルウィッシュボーンなのでアッパーアームがある分、強度・剛性が確保しやすい。しかし、ストラットにこの方式、さらにセンターアウトプット式を使うとなると、話は別だ。

直近では、EU系ホンダ・シビック/DC系インテグラが同様の構成を採用していた。これらは1G状態でタイロッドに下半角が付く設定で、そのために問題が生じていた。このような配置では、上下に高さがある分、路面からの入力が増幅して操舵系に伝わることになる。具体的には、サスがストロークするたびにストラットの曲げ方向、ラックにとっては上下の首振り方向に入力が来ることになる。

その点、iQはよく考えられている。ラックケースの取り付け高さを可能な範囲で低めに設定するように配慮しているようだ。こうすることで、ラックを首振り方向へ動かそうとする力をある程度軽減できる。マウント部は目視できなかったが、図面から判断するに、ダッシュインナーの一部でラックを挟み、上下方向の動きを制限するような構造でもあるようだ。そして、センターから伸びるタイロッドは、正面から見て1G状態で路面とほぼ平行に配置されている。ナックルアームはスプリングシートの直下だ。ストロークによる操舵系への影響が最小限に抑えられる構成である。

サスペンションはフロントがストラット、リヤはカップルドリンク型トーションビームアクスルという、コンパクトFFの定石ともいえる方式を採用している。構成もいたってシンプルで、リフトアップして下側から観察すると、凝縮されたパッケージのはずなのに、なにやら部品点数が少ない印象さえ受けてしまう。部品の集約化はトヨタの得意分野だが、iQではそのレベルがさらに向上しているようだ。

構成はシンプルでも、構造は細部までよく考えられている。なかでも感心したのはリヤサスの構成部品だ。特にトーションビームは矢尻型断面の中空構造で、凹みの加減が中央部では深く、ハブ側間際で急激に浅くなるという、凝った形状だ。
トーションビームはロール剛性が高く保てるメリットから、小型FF車のリヤでは定番となっているが、iQほど軽量なクルマでは、状況に応じてうまくねじれてくれることも、走りのしなやかさを確保する上で重要な課題となる。この構造なら剛性と靭性のバランスがとりやすいし、重量面でも有利だろう。
 ダンパーの取り付け位置も、やや後方にオフセットしてはいるが、レバー比にほとんど悪影響を及ぼさない程度。全体的に「こなれてきた」印象が強い。

走りそのものは、フロントのロールを抑えることで、クルマの姿勢そのものをあまり変化させない方向で組み立てられている。おそらくピッチングとのトレードオフなのだと推測するし、いろいろな意味で安定性方向に振らざるをえないのも当然ではあるのだが、この点でも「新しさ」に向かって一歩踏み出してほしいところではある。

フロントサスペンション:マクファーソン・ストラット

スクエアな形状のクロスメンバーを強固に作っておき、そこを中心に構成パーツを配置していくという、セオリー通りの作り。たとえばロワーアームのマウント部は、アーム先端をクロスメンバーが上下から挟み込むような配置としてストレスを軽減するなど、最近のトレンドがしっかり盛り込まれている。操舵系はラックケース高さと、タイロッドの取り付け角度に注目。サスの動きによる影響を最小限に抑えられる配置としている。実際に距離を重ねてみなければ判断できないが、この方式を採用した背景には、軽量車ゆえに耐久性の面で有利なことも織り込まれているだろう。

ロワーアームはスチール製のプレス構造。最近の国産車では珍しく、Γ字型ではなくA字型のアームを採用。構成上、Γ字型にする必要がなかったともいえる。成形はほとんどプレス一発で、リヤ側ピボット部のみ溶接という簡便な構造。ハブキャリアはスチール製。肉抜き努力の痕跡が確認できる構造である。

アンチロールバーはこのクラスにしてはかなりの太さ。ロールの抑制を徹底していると推測できる。アンチロールバーリンクはストラット直付けでレバー比は1:1。

先述のとおり、ステアリングラックはセンターテイクオフ方式。EPSはコラムアシスト式。タイロッドはこのサスペンションシステムにおいて、ある意味で要となっている部分。1G状態で路面とほぼ平行に配置されており、前傾角も最小限に留められている。強度・剛性の面のハンディを少しでも補うために知恵を使った構成といえる。スプリングシート直下に、操舵機構用のピボットを設けている。

クロスメンバーはスチール製。プレス部品を溶接で組み立てるコンベンショナルな構造。形状はやや複雑だが、部品形状の検討などによって、形成難易度に配慮した痕跡が見える。ロワーアームピボット部をメンバー内に包み込むような構造としているなど、剛性面への配慮もうかがえる。

リヤサスペンション:トーションビームアクスル

なんの変哲もないTBAに見えるが、細部には知恵が盛り込まれている。ビームは、パイプ内部に液体を封入することで座屈やシワ寄りを防ぎながらプレス成形する「液封成形」によって、中空構造ながらやや複雑な形状を実現している。トヨタは最近、この液封成形を多用している。成形自由度がある程度高いので、剛性分布の調整がしやすいことに加え、工数が低減できることがその理由と推測できる。トレーリング部も同様の工法を用いているようで、形状に無理がなく、また溶接箇所削減のために熟考を重ねた末に決められた形状であるように見える。よく考えてまとめられたTBAの代表と評価できる。

ダンパーのロワーマウントは、ハブセンターよりやや後ろ側にオフセットした位置。ダンパー自体も若干後傾してマウントしている。この位置は荷室スペースになるので、高さ方向の制限は考慮しなくて済む。コイルスプリングの上端部はボディに直留め。下端部はトーションビーム部分とハブキャリア部分にまたがるような配置で溶接された受け皿でマウントしている。

トーションビーム部はスチール製で、パイプの内部に液体を満たした状態でプレスを行なう「液封成型」技術を用い、中空構造かつ複雑な3D形状に仕上げている。剛性とねじれ量のバランスの最適化を追求したフシが見て取れる。トレーリングリンク部もスチール製でハブキャリア一体式。部分ごとに必要な強度・剛性を確保しながら使用部材が削減できるような、複雑な3D形状に仕上げられている。表面の仕上げもきれいで、トーションビーム部と同様、液封成型などの加工法で成形されたものと考えられる。ピボットは進行方向に対して後退角を付けてマウントしている。ロールにともなうキャンバー変化とトー変化を最適化する意図と推測できる。

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