Tech|テクノロジーがわかるとクルマはもっと面白い。未来を予見する自動車技術情報サイト

  • Motor-Fan[モーターファン]
  • モーターファンバイクス[Bikes]
  1. TOP
  2. ニュース・トピック
  3. コラム・連載記事
  4. 全固体電池

【海外技術情報】VW:未来の輸送をけん引する固体リチウムバッテリー[全固体電池]

  • 2020/10/12
  • 川島礼二郎
このエントリーをはてなブックマークに追加

自動車の電化の根幹を支えているバッテリーについて、VWがリリースを配信した。EV開発史を簡潔に説明しつつ、現在VWグループが開発している固体リチウムバッテリーのメリットを説明した同リリースを翻訳・編集してお届けしよう。
TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro) FIGURE:VOLKSWAGEN

現在、私達の多くは、少なくとも2つのリチウムイオン電池を身体に着けている可能性が高い。1つは手首に、もう1つはシャツの胸ポケットに。クルマのキーを持っていたり、ペースメーカーやその他電子機器を持っていれば、その数はさらに増えるはずだ。ところで、それらバッテリーが実際にどのように機能するかご存知だろうか?

バッテリーは現代生活の中心にある技術ではあるが、未だに謎のままである。人間は過去何百年にも渡ってバッテリーを使用してきたが、バッテリーの科学がVW『ID.4』のような長距離走行が可能なEVを可能にするほど進歩したのは過去10年以内のことである。本分野の研究者は、あらゆる選択肢の中でもバッテリー駆動の個人所有車両が増えることで、気候変動を防ぐだけの炭素排出を削減できる、としている。そしてVWでは、バッテリーの次の進化が数年以内に果たされることを願っている。

バッテリーは1799年にアレッサンドロ・ボルタ氏が最初に特定した式である基本的な化学的性質に依存している。基本的に、すべてのバッテリーには二つの電極がある。一つが陽極(カソード)、一つが陰極(アノード)であり、その両者を埋めているのが電解質だ。電気回路に接続すると電子は電解質を介してアノードからカソードに移動して、イオンはその反対方向に移動して電流を生成する。充電式電池では、このプロセスを逆進する。

初期のバッテリーが発明されるとすぐ、人々は電気自動車の実験を開始した。20世紀初頭の自動車産業の黎明期においてEVは、静かな操作、運転のしやすさ、メンテナンスの必要性が少ないこと、などの理由により、特に新しく舗装されはじめた都市周辺においてはベストセラーの一つですらあった。その後、道路は改善され、エンジン搭載車の価格は、より手頃になった。そして同時にガソリンスタンドが普及したのだが、バッテリーの方は相変わらず充電手段が欠如したままで、そのうえ航続距離は短いままだった。こうして最初のEV時代は、あっけなく終焉を迎えた。

近年のEVの復権は、1970年代に最初に発明されたリチウムイオン電池が可能にしたと言えるだろう。VWのEVの歴史は、電池がどこまで進化したかを示している。1970年代初頭、VWは鉛蓄電池を使用して、数台のマイクロバスバンを製造した。床に搭載したバッテリーが提供した航続距離は25マイルであり、重量は1,847ポンド(837kg)も増加した。今日、ヨーロッパで最大のリチウムイオンバッテリーパックを搭載する『ID.3 EV』は、重量はその3分の1であるが、4倍のエネルギー(82 kWh)を保持することが可能だ。

専門家は気候変動に対峙するにあたって、EVが最良の選択の一つであると考えている。液体燃料車両が車両を動かすために使っているのは、燃料に含まれているエネルギーの約3分の1でしかない。残りは熱と摩擦として逃げてしまううえ二酸化炭素を生成する。二酸化炭素は代替燃料を用いても発生する。しかしEPA(U.S. Environmental Protection Agency)によると、EVは一般的にエネルギーの75%以上を運動に変換することが可能であるだけでなく、再生可能エネルギーで充電された場合は使用中の直接排出はゼロとなる。

ほとんどのEV所有者は、自分の車に電力を供給するバッテリーを実際に目にすることはない。VWのMEB EVプラットフォームでは、最適な重量配分を実現するため、バッテリーはフロアに組み込まれている。『ID.4』が搭載するようなEVバッテリーは、一つの巨大なセルではない。それはモジュラーパッケージである。平らな個別のバッテリーが24個のモジュールに積み重ねられ、最大12個のモジュールが単一のユニットに接続される。

このモジュール方法でEV用バッテリーを構築するのには、複数の理由がある。セルが小さいほど単位重量あたりのエネルギーが多くなる。また、バッテリーを簡単に追加または削除することで、さまざまな航続距離と価格帯のEVを提供できる。最も重要なのは、個々のバッテリーをソフトウェアで制御できるので、電力の流れとバッテリーの寿命を最大限に延ばし、エネルギーの安定供給が可能である、ということである。

このモジュラーシステムは、膨大な量の電力を貯蔵し展開できる。典型的な携帯電話用バッテリーは3.7ボルトで動作する。VWのMEB EVプラットフォームのバッテリーパックは、最大408ボルトで動作する。これにより『ID.4 EV』はモーターに十分なエネルギーを供給するだけでなく、暖房や空調を含むすべての内部アクセサリーに電力を供給することができる。

一方でバッテリー電源にはいくつかの欠点が存在している。EVは液体燃料車両ほど多くのエネルギーは貯蔵できない。そのため航続距離が短くなってしまう。これを家庭用電源で再充電するには、数時間は掛かってしまう。オプションとして急速充電器を利用することは可能だが、毎日急速充電を繰り返すとセルを劣化させてしまう。またバッテリーはEVの中で最も高価なコンポーネントでもある。

そこでVWグループでは、固体リチウムバッテリーのコンセプトでバッテリー技術をイノベーションするスタートアップ企業であるQuantumScape社と共に、これらの課題解決に向けた取組みを開始している。今日、ほとんどのリチウムイオン電池は、電解質に液体またはゲルのどちらかを使用している。固体電解質は理論的には、通常使用下における充電時間が短く、単位重量あたりのエネルギーをより多く保持でき、低コストで製造できる。VWは2012年以来、このQuantumScapeに約3億ドルを投資している。今後数年間で、その成果として得られたテクノロジーを市場に投入することを目標としている。

おすすめのバックナンバー

これが本当の実燃費だ!ステージごとにみっちり計測してみました。

これが本当の実燃費だ!ステージごとにみっちり計測してみました。 一覧へ

会員必読記事|MotorFan Tech 厳選コンテンツ

会員必読記事|MotorFan Tech 厳選コンテンツ 一覧へ

3分でわかる! クルマとバイクのテクノロジー超簡単解説

3分でわかる! クルマとバイクのテクノロジー超簡単解説 一覧へ