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内燃機関超基礎講座 | トヨタの「省ネオジム耐熱磁石」の革新性を考察する

  • 2020/12/18
  • Motor Fan illustrated編集部
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右が本稿で紹介する省ネオジム耐熱磁石。中がディスプロシウムを含めた従来組成ネオジム磁石、左はフェライト磁石。硬球を常温で吸着させても、開発品と従来組成品の著しい性能差は認められない。

トヨタは2018年2月20日、モータ用の新型磁石を開発したと発表した。本技術で注目すべきは、ネオジム使用量を大幅に削減したということである。とはいえ、化学に明るくない門外漢には何が優れているのかがわかりにくい。意味と意義をあらためて考察してみた。

そもそもネオジム磁石とは何か。

現在、自動車の駆動用モーターとして用いられるのはほぼ交流電動機で、種類で分ければ誘導モーターと同期モーターの二種に分けられる。誘導モーターは採用例が極めて少なく、テスラの各車に用いられているほか目立った例はない。大半を占める同期モーターにもさまざまな方式があるなかで自動車の駆動用モーターに限ってみると、やはり大半を占めるのが永久磁石同期モーター(PMモーター)である。

PMモーターは永久磁石の磁力が強いほど高効率であり、そのために用いられるのが希土類磁石。サマリウムコバルト磁石、ならびに本稿のネオジム磁石が双璧だ。サマリウムコバルト磁石はネオジム磁石に比べて磁力が弱いものの、熱に強い性質がある。キュリー温度という「その温度に達すると磁性を失う」という指標に照らし合わせると、サマリウムコバルト磁石が700~800℃なのに対してネオジム磁石のそれは315℃。当然、キュリー温度に達するまでにだんだん磁力は弱まっていくわけで、フロントフード下に収まり駆動に用いることを考えると、その熱減磁という問題は駆動用モーターとして看過できない要因なのだ。

ならばサマリウムコバルト磁石を使えばいいではないかと思われるかもしれないが、機械的強度に乏しいという欠点がある。あちらを立てればこちらが立たず、現状の最適解はネオジム磁石を用いるPMモーターというわけなのだ。

熱減磁への対策

というわけで、ネオジム磁石を自動車の駆動用モーターとしてPMモーターに用いることに対しては、ふたつの課題が挙げられる。先述の熱対策と、それにともなうレアアース節約である。

ネオジム磁石の熱減磁対策には、さまざまな方策がとられてきた。主流なのが、ディスプロシウムやテルビウムの添加である。これらの元素を加えると、磁石主相の異方性磁界を高められることがわかっている。ところがこのふたつの元素はネオジムの1/10にも満たない量に過ぎず、しかも産出地が一定の地域に限られていることもあって安定供給に難がある。当然価格変動も大きく、今後電動モーターの存在感がますます高まっていくなかで上がることはありすれ、著しく下がることは期待できない。そこで、さまざまなディスプロシウム/テルビウムフリーの技術が考案され、これが従来のネオジム磁石における技術提案の数々だった。

ネオジムだってレアアースである

ところが、トヨタが今回試みたのはネオジムの省資源化技術だった。具体的な方法は、主相結晶の殻構造化と元素置換である。

ネオジム磁石の構造を詳細に眺めていくと、主相結晶と粒界層に分けられる。保磁力を高めるためには粒界層を厚くして主相のそれぞれを磁気的に孤立させること、あるいは主相結晶を微細化することが有用だと発表されている。いっぽうで、保磁力を高めるために主相結晶にネオジムが一律に分布している必要はない。そこで外側の濃度を濃く内側を薄くすることで、全体としてのネオジム使用量を抑える構造とした。

ネオジム磁石は粒(主相結晶)と仕切り(粒界層)という構造になっていて、粒が小さく仕切りが広いほど保磁力を高められる。一般的な製造方法である焼結法に対して、トヨタは液体急冷法を用いること主相結晶を微細化、これらを実現している。
外殻にネオジムリッチ、内部にセリウムとランタンを含める二層の殻構造によって、160℃以下の温度における保磁力が向上する。これは、芯部のCe2Fe14Bにより温度特性が向上し、外郭部のNd2Fe14Bにより磁化が反転しにくくなるためという。

具体的には、ネオジムの代替として量に不安のないセリウムとランタンを用いて合金とし、これらを殻構造の内側でリッチ分布にすることで、全体としてネオジムの使用量を削減している。とはいえ、セリウムとランタンを混ぜることはこれまで技術的に困難だった。トヨタはさまざまな試行錯誤のうえ、セリウム3:ランタン1の割合でうまく混合できることを発見、Nd14Fe2Bの組成を(Nd+Ce+La)14Fe2Bとすることに成功している。セリウムとランタンも、一応レアアースの一種ではあるのだが、ネオジムを掘れば掘るほどセリウムとランタンが出てきて、鉱山では余剰資源として扱われているという性質のものであり、その意味からもこの試みは成功を収めていると言えるだろう。

レアアースの中でも安価で量が豊富なランタンとセリウムは、単純に混ぜて合金を作っても耐熱性や磁力が低下してしまう。トヨタは研究開発を経て、これらをLa1:Ce3の比率で混ぜると特性悪化を抑制することを発見、今回の開発品につながった。

工法にも工夫がある。多くネオジム磁石に用いられる焼結法ではなく、液体急冷法によって主相結晶をナノメートル単位まで微細化、さらに先述の殻構造の実現にこぎ着けた。焼結法では結晶構造は2μm程度にとどまるのに対し、液体急冷法では結晶構造を一気にナノメートルの単位まで小さくすることができる。これを塑性加工することで異方性を高め、結果としてディスプロシウムおよびテルビウムを使わずに保持力を高めた。熱減磁への対策も実現できたわけである。

液体急冷法で作られた合金の急冷リボン。結晶構造を微細化させられる。

ディスプロシウムとテルビウムの使用量削減技術はこれまでもいくつかの試みが発表されてきたが、ネオジムもレアアースのひとつ。削減できるにこしたことはない。実はネオジム磁石にディスプロシウムを含有させると高温下における熱減磁対策にはなるが、いっぽうで磁化が低下しやすいという性質も現れてしまう。省ネオジム耐熱磁石は工法と構造の両面からこれらを解決する可能性がある。

トヨタは本技術の囲い込みは考えておらず、興味のあるメーカーと一緒に開発を進めたいという。省レアアースという目的で考案されただけに、願わくばオールジャパンで本技術を高め、世界に挑戦できるオリジナルテクノロジーとして昇華していってほしい。

グラフで示すようにディスプロシウム含有従来組成ネオジム磁石に対して、ネオジム20%減組成の開発品ではむしろ高温下で保磁力が逆転、良好な結果が得られた。ネオジム削減量で耐熱性能をコントロールできる見通し。140℃近傍で従来品と性質がクロスしたことについて、開発陣も「理由はまだ不明」と言及している。

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