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内燃機関超基礎講座 | ヴァレオの電動スーパーチャージャーの実力をパリで試す

  • 2020/12/28
  • Motor Fan illustrated編集部
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パリ郊外のセルジーにあるヴァレオのパワートレーン・ビジネスグループのR&Dセンターを訪ねた。取材の目的は「電動スーパーチャージャー」と「48Vハイブリッド」。どちらもいま注目のテクノロジーだ。
*本記事は2014年11月に執筆したものです

パリから北西に40kmほど行ったセルジー(Cergy)にヴァレオのパワートレーンのR&Dセンターがある。今回、パリ・モーターショーに先立って、ヴァレオの取材を行なった。取材相手のミシェル・フォリシエ博士に会うのは今回で3回目である。目的は、電動スーパーチャージャー(以下、電動SC)と48Vマイルド・ハイブリッド・システムである。

電動SCは文字通り12Vあるいは48Vで駆動するモーターを使った過給機だ。従来の機械式SCと違ってクランクから動力を取り出すこともないし、エンジン回転数にも依存しない。しかもレスポンスが非常に優れている。ターボのラグが1〜2秒あるのに対して電動SCは250〜350ミリ秒で作動する。だから、ダウンサイジング過給エンジンのラグ解消に効果的だ。......と思っていた。つまりターボにプラスしないと威力が発揮できないデバイスなのだ......と。

それについて博士に聞くと笑顔で答えた。

ミシェル・フォリシエ博士:ヴァレオのパワートレーンビジネスグループのR&D責任者
「電動SCの用途はとても多いのです。まず、ひとつ目はあなたが言うとおりダウンサイジング過給向けです。燃費・レスポンス両方に効果があります。ふたつ目はダウンスピーディングです。同じ性能を保ちながらギヤ比を長くでき、燃費を改善できます。これはターボは必要ありません。3つ目がミラーサイクルで電動SCを使うことです。現在のミラーサイクル・エンジンより進んだことができます。4つ目がディーゼル・エンジンに使ってNOxを下げるのに使います。電動SCを使えばSCRシステムなしで規制にミートできます。これには特にアジアのメーカーが興味を持ってくれています。5つ目は、パフォーマンスです。ハイパフォーマンスカーにターボに電動SCを加えてさらに性能を上げられます。ドイツのメーカーはパフォーマンスのための電動SCを考えています。最後は、ハイブリッド・ブースターとしての組み合わせで48VマイルドHEVと組み合わせるというのがあります」

構造はシンプルだ。排気を利用するターボチャージャーと違って内部の温度が200°C以下なので、特別な素材を使用する必要がない。モーターも、レアアースを使わないごく普通のリラクタンスモーターでいい。筐体はアルミ製。現在はインペラーもアルミ製だが将来的には樹脂製の可能性もある。つまり低コストで作れるということだ。重量は約4kg。
クランク軸からプーリーを介して動力をとる機械式スーパーチャージャー(左)と違って電動スーパーチャージャーの駆動はモーター。したがって、機械損失も少なく搭載位置の自由度も高い。またエンジン回転数とは関係なく制御できるのもメリットだ。

なるほど。博士に促されてテスト車に乗る。ダウンスピーディングのための電動SCの使い方の例だ。想像以上の効果を体感できた。高温の排ガスに対応する必要があるターボチャージャーと違って電動SCは、素材も構造もシンプル。ターボと比べてコストも低いという。

ダチア・ダスター(1.6ℓNA)に電動SCを装着したテスト車は、運転席から電動SCのON/OFFができる。この電動SCは2kW、12Vで駆動していた。OFFだとシフトダウンする必要がある場合(たとえば4→3速へ)でも、ONにするとストレスなく加速を開始する。その効果は明らかだ。電動SCはエンジン回転が2500rpm以下で使う。エンジンがそれ以上回ると、バイパスバルブが開いて吸気の流れは電動SCをバイパスする。テストでは、25%のダウンスピーディングと約8%の燃費改善という結果が出ている。
ルノーの1.6ℓ直4自然吸気エンジン(78kW/140Nm)を搭載するダスターに電動SCを装着したエンジンルーム。ターボと違ってエキゾーストからの排ガスエネルギーを必要としない電動SCの配置の自由度は高い。高温のエキゾーストから離れた場所に装着できるのもメリットのひとつ。電動SCの作動音は、機械式SCと似ているが、さほど気にならなかった。市販化されるときはほぼ聞こえなくなるのではないだろうか。
上の写真は、4速60km/hでコーストした後にアクセルを踏み込んだ瞬間。エンジン回転は931rpm、電動SCは62000rpm、過給圧は1317hPa、バイパス率は10.8%だ。電動SCのアイドリング回転数は4000rpm。そこから最大回転数の70000rpmまで350ミリ秒で達するレスポンスが電動SCの最大のメリットだ。バイパス率の意味するところは、吸気の90%が電動SCで圧縮される、ということだ。

試乗後に質問を投げかけた。電動SCというアイデア自体は決して新しいものではない。それがいま、注目を集め実際に採用されようとしている。なぜなのですか?と。

「電動SCについては、自動車メーカーも長い間研究してきました。しかし、当時は高度な自動車の電気システムがまだなかったし、エネルギー回収システムもありませんでした。新しいバッテリーも電子制御システムもありませんでした。電動SCの実現には、きっかけがあります。ひとつがアイドルストップ機構の標準化。これでクルマの電気系システムのキャパシティが上がりました。それからバッテリーとエネルギー回収システムの進化。そしてダウンサイジングが本当にトレンドになってきたことです。ダウンサイジング過給の最大の問題はターボラグでした。ダウンサイジング、ダウンスピーディングというニーズが高まったことで、電動SCの可能性は大きく広がりました。130g/kmというCO2規制は従来技術を組み合わせればよかったのですが、今後はそれだけでは間に合いません。フルハイブリッドを使うことももちろん良いのですが、我々ヴァレオはそれ以外の代替案を提案したいのです」

グラフで見るターボエンジンの性能曲線は「2秒後」のもの。ターボチャージャーのラグは約2秒もあるが、電動SCは250〜350ミリ秒で過給を開始できる。ダウンサイジング過給エンジンに電動スーパーチャージャーを組み合わせた場合、レスポンスの良さが生きてくる。
リカルドによるエクストリームダウンサイジング、Hyboostのデータ。1.6ℓターボを1.0ℓターボ+電動SCに載せ替えたHyboostでは、ベースの92kW/170Nm/114g/kmが105kW/240Nm/90g/kmと、パフォーマンスも燃費も向上している。

ヴァレオの電動SC。市販化は間もなくだ。最初はドイツから。これはハイパフォーマンスカー向け(注:アウディSQ7で採用)。次はアジアから。これは燃費志向の使い方。これ以外にも日米中欧で19ものプログラムが進んでいるという。電動SCに今後も注目していく必要がありそうだ。

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