内燃機関超基礎講座 | LPガスのメインユーザー、タクシーは「365km×365日」
- 2021/01/03
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牧野 茂雄

タクシーに法規で許された1日当たり走行距離上限は365kmである。80l入りLPGタンクを積む車両なら、10%のマージンを見て燃費5.07km/ℓをつねに上回らないとならない。
TEXT&PHOTO:牧野茂雄(MAKINO Shigeo) COOPERATION:練馬交通株式会社
*本記事は2015年5月に執筆したものです
日本のタクシーは、ガソリン車をLPG仕様に改造する方法で燃料を切り替えて行なった。LPG全盛の時代は、個人タクシーの一部だけがガソリン車を使っていた。ところが、いまLPG仕様のタクシー専用車は絶滅が危惧されている。日産はセドリックの生産を終了し、トヨタはクラウン・コンフォートの生産を2018年2月で終了すると発表している。
「セドリック・タクシーの後継がNVなのですが、乗務員が嫌がりました。お客さんに特殊なタクシーだと思われ、手を挙げて止めてくれないのですよ。実車率(乗客を乗せて走行する距離の比率)が低いのです。HEV(ハイブリッド車)は私自身が好きではありません。タクシー会社は車両の整備を自前で行ないます。ウチにも工場があります。しかしHEVは、販売会社に修理を依頼しないとどうにもならないのです。それと、都内のような平均車速の低い道路を走っていれば燃費はいいのですが、駅やホテルへの『付け待ち』をすると、燃費が一気に悪くなります。この点はLPG車と同じですが、燃料はガソリンですから割高になります」

永山和正社長はこう語る。タクシーの走行距離は、1日365kmが上限という法規上の制限がある。走行距離を稼げないとなると時間当たりの売り上げ額を増やすしかないのだが、そこに直結するのが実車率だ。ミニバン型のタクシーはまだ認知度が低く、練馬交通での導入試験時にはクラウンコンフォートより実車率が低かったと言う。

「それと燃料価格です。LPG価格は13年の冬場にピークを迎え、サウジアラビアCP(コントラクト・プライス=一方的に通知される売買契約価格)が1200ドルになりました。直近は480ドルなので我われもひと息付いていますが、その背景には米国のシェールガスがあります。一度シェールガスを産出したら2年間は継続して供給しなさいというのが米国のルールですから、2年程度は高騰しないだろうと我われは見ています。しかし、その先はわかりません。CP=600ドル近辺という予想もあります。燃料価格と車両価格がタクシー会社を経営するうえでの大きな要素です」

かつて90年代後半まで、タクシーはミキサー方式と呼ばれるキャブレターに似た燃料供給方式だった。液体のLPGを「噴射」することはガス製造行為と見なされていたためだ。この規制が撤廃され、現在はガソリンエンジンと同等のインジェクションになったが、燃料タンクは高圧ガス保安法の縛りを受けたままであり、車両とは別の検査が義務付けられている。規制が多いという点も、経営上の問題である。

セドリック・セダンはすでに生産が打ち切られた。「最後はクルマの奪い合いだった」とは、あちこちのタクシー会社で聞く話だ。クラウン・コンフォートは18年2月まで生産されたが、このクルマを愛している乗務員さんは多い。プリウス・タクシーに乗るたびに評判を聞いてみるが、少なからず「会社の都合で燃料費を節約したいからプリウスなんでしょ」と言うお客さんがいるという。トヨタはLPG仕様のHEVタクシーを開発するというが、車両価格の上昇をタクシー事業者はどう受け止めるだろうか。
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