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内燃機関超基礎講座 | 中国車の実力を試乗で確かめる:吉利「帝豪」/奇瑞「風雲2」/長安「悦翔」

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サーキットを出て郊外の広大なホテルの敷地内で撮影中の悦翔(左)と風雲2。日本でも中国でも自動車媒体がやることは同じだ。若手編集部員がカメラマンの指示でクルマを動かしボディの汚れを素早く拭く。

中国の独立系メーカーは、09年に大きく販売実績を伸ばした。地方都市では安価なクルマが好まれ、独立系の商品はちょうどその市場にミートした。果たして、最新の独立系ブランド車は、どのような仕上がりなのだろうか――今回、筆者が連載コラムを寄稿する中国の自動車雑誌『汽車之友』の全面的な協力を得て、サーキットおよび研究施設などの私有地内での試乗を行なうことが出来たので、その印象を報告する。
TEXT&PHOTO:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
*本記事は2009年12月に執筆したものです

過去に筆者は、中国生産のVWサンタナや一汽轎車のアウディ(紅旗明仕)、一汽トヨタのヴィオス(ヴィッツの3ボックス版)やローカルブランドのクルマなどを何度か運転したことがある。助手席と後席での同乗では、タクシーを除いても20車種以上に乗った。しかし、今回のようにまとまった台数を比較しながら試乗したのは初めてだ。中国は旅行者の運転を認めていないから、私有地内で乗るしか手がない。今回、筆者は『汽車之友』が選ぶカー・オブ・ザ・イヤーの選考試乗会に招かれ、誌面づくりに協力するという前提で好き勝手に試乗をさせてもらった。謝謝である。

カー・オブ・ザ・イヤーだから、試乗車はすべて08年11月1日から09年10月30日までに発売された新型車だ。筆者が乗りたかったのは、独立系自動車メーカーの手によるローカルブランド車の最新モデルであり、その意味では希望が叶った。

吉利汽車「帝豪」

吉利「帝豪」はフォーマルなセダン。「何かに似ている」と見るのではなく、純粋にCセグメントの4ドア・セダンとして見れば「もうここまで来たのか」という思いを強くする。夕日に映えるシルエットもなかなか美しい。

まず吉利汽車の新型セダン「帝豪」。キャディラックに似たエンブレムをまとう新ブランドであり、今後は吉利の上級フォーマル部門を担うようだ。全長4635×全幅1789×全高1470mm。ホイールベース2650mm。エンジンは三菱自動車の4G18であり、最高出力102kW/6000rpm、最大トルク172Nm/4200rpm。変速機は5MT。ボディ設計は韓国・大宇自動車で経験を積んだエンジニアが中心となって行なった。

内外装デザインが吉利オリジナルであるかどうかはわからないが、過去の吉利は海外のデザイナーにスタイリングを依頼していたから、今回もそうかもしれない。ボディラインはなかなか美しく、キャラクターライン下の凹面とハイデッキ処理のリヤエンドに特徴がある。

帝豪のエンジンは三菱自動車の中国エンジン合弁製。エンジンは慣性主軸マウント。ボンネットを開けて観察すると、やや設計が古いという印象を受ける。

走り出すと、NVH性能は格段に進歩したと感じる。01年に当時の「豪情」を試乗した際には、5年落ちの軽の中古に思えたが、帝豪はそれほどボディがガタピシすることはなく、エンジンルームやフロアから侵入する音も、以前ほど耳障りではない。しかし、走っているとガサゴソと音が出る。5MTは4→5速が少々引っ掛かる。アクセルペダルは短いストロークの中で最初の20mmほどが勝負だが、日本のAT車に多く見られるような、踏み始めのピックアップが過剰というスロットルの開け方ではないから走りやすい。ブレーキはストロークの奥のほうまでしっかりと踏力に反応する感触はなく、高速でのブレーキングにはやや不安がつきまとう。

ステアリングはテレスコピック調節がなくチルトのみ。運転席は電動調節シートだが、座面前端を固定し後方だけが上下するタイプなので、ドライビングポジションのスイートスポットは狭い。後席はフォーマルなセダンらしく背もたれが起きていて、着座姿勢は悪くない。ただしシートバックが背中に妙に当たる部分があり気になった。サポート位置は要再考である。

全体の印象は「3年乗った中古車」だが、ボディの雑振動と運転席まわりの騒音さえ低減すれば、もっと印象は良くなるだろう。価格は7万9800~11万1800元(1元13円換算で約103~145万円)。試乗した仕様はほぼ最上級グレードでカーナビが標準装備されている。ほぼ同じボディサイズのVWパサートは18~30万元(約234~390万円)だから、その半額以下で帝豪を買うことが出来る。性能に四の五の言わなければ、たしかにこれで充分だ。

奇瑞汽車「風雲2」

ノッチバックスタイルながらキャビンスルーのテールゲートを持つ風雲2。昔のダイハツ・アプローズを思い出す。このボディカラーは初代プリウスのイメージカラーにそっくりだが、それは偶然だろうか......。

つづいて奇瑞汽車の「風雲2」。上海奇瑞時代の主力モデルだった、セアト「トレド」に似た風雲の後継である。全長4269×全幅1686×全高1492mm。ホイールベース2527mm。エンジンは1.5ëで最高出力80kW/6000rpm。最大トルク140Nm/3000rpm。5MTである。タイヤサイズは195/55R15。

乗り込むと、多少、つーんと鼻にくる臭いが残っている。『汽車之友』編集部員2名は「何も気にならない」と言っていたが、「気になる」と言うスタッフもいた。香辛料のキツい料理を食べ慣れている中国人にとって、このくらいの臭いは許容範囲なのだろうが、筆者は気になった。

運転席のシートは、肩甲骨のあたりの支持が強すぎ、シートスライドは思い切り引っ張らないと動かない。モーターショー会場に展示してあったクルマもそうだったから、これは個体差ではなさそうだ。

風雲2のエンジンルーム。前後長が短く前方排気のため、レイアウトには苦労しただろう。エンジンマウントはどうやってもサイドメンバー上に置けなかったのだろうか、サスペンションメンバーに平置きゴム3点で留めている。

エンジンは2000rpmあたりでザワザワガサガサと雑音が大きくなる。底部の3点で重量を受けるマウントであり、激しい運動ではエンジンの揺れが気になる。低速トルクは、MTで乗るぶんには不足を感じないが、吉利の三菱製のほうが良かった。ステアリングは吉利「帝豪」よりギヤのフィールが良好。センターの「遊び」から切りはじめるとタイヤの手応えがきちんと増えてゆく。

ただし、3ボックスのスタイリングをしているにもかかわらずガラス部分から開くテールゲートを備えているためか、リヤまわりの剛性が足りないように感じる。後方から侵入してくる騒音も大きい。

スタイリングは奇瑞と縁の深いトリノデザインが担当した。内外装とも「クジラ」がモチーフだと言う。ダッシュボードはガラスに近い側の左右に細長いメーターがあるが、これはクジラの尾ビレのイメージ。フロントグリルはクジラが口を開けたような造形だと言う。全体にグッと引き締まった凝縮感があり、やはり欧州車をイメージさせる。走らせた印象は吉利と大差ないが、NVHのうちN(ノイズ)は風雲2のほうが大きい。

しかし、価格を聞いて驚いた。5万2800~6万1800元である。かつて5万元クラスのローカルブランド車は「お笑い」のレベルだったが、風雲2はあなどれない。あと1万元、販価をアップさせるような熟成を行っても、マツダが技術移転を行った海馬汽車(日本のメディアではパクリという報道があるが、マツダから正式にライセンス供与されている)の海馬3(最終型ファミリアがベース)より3万元も安い。この価格設定は脅威だ。

奇瑞の風雲2は09年広州モーターショー会場でも「値引きします」のカンバン付きだった。6万元(邦貨換算78万円)で買えるというのは、ある意味で恐ろしい。奇瑞は内陸部への販売店展開を急いでいる。

長安汽車「悦翔」

09広州ショーでデビューした悦翔ハッチバック。プロポーションは非常に良く、こういうクルマがもし日本で99万円で発売されたら......と思うとゾッとする。あともう少しで、大多数の日本人が気にならないレベルになるだろう。

3台めは長安汽車の「悦翔」。さきごろ行なわれた09年の広州ショーでハッチバック仕様が披露されたが、試乗車は3ボックスセダンだった。ボンネットを開けてみると、前後左右の十字マウントや骨格の組み方がマツダっぽい。長安汽車は長安フォードマツダという合弁会社を持っており、この悦翔もマツダからの技術移転があったという。

試乗車には諸元表がなかったのでウェブで確認した。こういうところが現在は便利だ。全長4360×全幅1710×全高1475mm、ホイールベース2515mmだった。エンジンは1.5ëで最高出力72kW/5500rpm、最大トルク137Nm/3500~4500rpm。ふた昔前のファミリアを思い出すようなクルマだ。

長安悦翔の運転席。空調ダクトは360度回転可の全閉タイプで、最近の中国車でよくつかわれている。スイッチ類は、お世辞にも「いい感触」とは呼べないが、シートは見た目ほど悪くない。

走らせた印象では、価格5万3900~6万900元というもっとも安価な悦翔が、帝豪と風雲2より好感が持てた。走り出した直後からうるさく、ザワザワガサガサが常に付きまとうが、素直なハンドリングでエンジンも低い回転からスロットルの開け方にトルクが付いてくる。このキャラクターのままブラッシュアップを行なえば気持ちの良いサブコンパクトカーになるだろう。

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