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内燃機関超基礎講座 | プラグイン・ハイブリッドの正体——純電動ではなく、なぜプラグインなのか

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今後5〜6年でPHEV(プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)の販売台数は急拡大すると言われている。その最大の背景は各地域での燃費規制、つまりCO2排出規制の強化である。「EV(電気自動車)よりもPHEVのほうが現実的な解」と、多くの自動車メーカーが考えている。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
*本記事は2016年3月に執筆したものです

PHEVの燃費を計算する方法は日本の法規ではかなり複雑だが、基本は冪演算(exponent)であり、カッコ内の計算はプラグインレンジ(外部充電で走行できる最大航続距離)をベースにした指数関数である。JC08モードの走行パターンにできるだけ合わせる意図であり、その意味では通常の内燃機関および従来型のHEVと公平にあつかっている。ただし、この計算式であるがゆえに「PHEVとはどんな乗り物で、どうやって燃費を計算するのか」という素朴な問いに対しては即答できない。定義そのものが難解だと言える。

まず、上の計算式をご覧いただきたい。EVとPHEVの燃費(電費)をどう計算するか、日本の国土交通省が定めた計算式である。EVでは発電に必要な熱量をガソリンの熱量に置き換えて「燃料消費」のイメージを出している。PHEVの計算は冪(べき)演算を使ってなるべく世の中での実走行に沿うように式を組み立てている。

ところが、欧州ではあきれるほど簡素に扱っている。下にECE(国連欧州経済委員会)規定の式を示したが、単純な割り算である。式の分母は25であり、分子の25にEV航続距離を足し算し、それを25で割るだけだ。この式で出た数でPHEVのベースになった車両のCO2排出量を割り算する。EV走行距離が25kmあれば、25+25=50。これを25で割って「2」という数字が出てくる。この「2」が「リダクションファクター」と呼ばれる数字であり、言い換えればPHEV係数である。「2」は「CO2排出が2分の1」という意味だ。

かりにベース車の走行1km当たりCO2排出量が200グラムだとすると、このクルマを25kmのEV走行が可能なバッテリーを積んだPHEVにすれば「2」というリダクションファクターをもらえるから、カタログに記載するCO2排出量の表示は200÷2=100グラムになる。半減である。

メルセデスAMG SL63はCO2排出229~234g/kmだが、この5461ccエンジンのまま排気量ダウンサイジングせずにPHEV化し、EV走行距離を25kmに設定した場合、上の計算式でリダクションファクターは2になる。この数値で234を割ると117であり、これがPHEVとしてのCO2排出量になる。

つまり、25km以上のEV後続距離があればEUの計算式ではリダクションファクターが1より大きくなり、ベース車のCO2排出量を割り算すればCO2排出は確実に減る。もちろん25kmという数字には意味がある。ACEA(欧州自動車工業会)によれば、1日の移動距離50km以下という自動車ユーザーは過半数を占め、勤務先など出先で充電すれば帰路もEV走行で帰宅することができ、走行段階でのCO2排出はゼロになるという意味だと言う。

EU政府は、この優遇的とも言えるCO2削減バーゲンセール効果をねらい、世の中をEVへと誘導しようとしている。わざわざPHEVにしてEV走行距離を25km以下にしないでください。25km以上なら恩典がもらえますよ、という意思を計算式で示したと考えればいいだろう。EU政府はいま、あきらかに電動車を志向している。EVかPHEVかではなく、化石燃料の消費を抑える方向である。

上のロードマップはボッシュが描く車両電動化への対応を示したもの。95g/kmというCO2規制、さらにその先で議論されている70g/km台の規制をも見据えた対応策だが、車両電源の48V化とEVおよびPHEVに与えられる恩典の継続が前提でもある。右の計算式のようにPHEVはCO2削減の近道であり、この需要にボッシュのようなメガ・サプライヤーがさまざまな提案を行なっている。とは言え、現状では「PHEVが最適解」という考え方は多くなった。

CO2排出量は、イコール燃費だ。内燃機関エンジンでCO2排出を半分にしようと思ったら、エンジン排気量を小さくしたり、それこそ大変なことになる。もちろん、これまでにも自動車メーカーはさまざまな努力をしてきた。たとえば、いまやVVTは必須でアイドリングストップも急速に普及しつつある。CVTが燃費に効くかどうかは議論すべきだが、エンジンとその周辺には、大きなジャンプを望めなくなってきたのは事実である。だから電動化が叫ばれている。

CO2規制はみるみる厳しくなった。しかもCAFE方式であり、販売されたモデルごとにCO2排出量と台数を掛け算し、それを総合計するという総量規制へと統一されつつある。中国でもメーカーごとのカーボンクレジット制度の導入を政府が検討している。数モデルの燃費チャンピオンを投入するだけでは対応できなくなった。電動化が必須と言われる背景はここにある。

日本でもEUでも米国でも、燃費規制(つまりCO2排出規制)はどんどん厳しくなってきた。この傾向が将来、がらりと変わることは考えにくい。中国ですらEVとPHEVを「新エネルギー車」と位置付け、2020年までに累計500万台の普及を政府が推進している。このなかで、自動車メーカーごとのCO2排出量を監視し、罰則規定も設けているのは欧州と米国である。いわゆるCAFE(コーポレート・アベレージ・フューエル・エフィシェンシー)規制である。

米国は、カリフォルニア州のZEV(ゼロ・エミッション・ビークル=無排出車)規制は、自動車メーカーごとに一定量のEVおよび超低公害車を販売しなければならないが、EVだけでは普及は難しいためPZEV(パーシャルZEV)というカテゴリーも認定しており、この中にPHEVが入る。また、連邦規制ではCAFEがあり、1モデルごとの燃費に販売台数を掛け合わせ、その合計が規制値を上回ると罰金を支払わなければならない。

欧州は米国のように燃費(米国の場合はマイル/ガロン)ではなくCO2換算で規制している。モデルごとのCO2排出量に販売台数を掛け合わせて年間の平均を算出し、規制値を超えると罰金を支払わなければならない。21年には95g/kmという厳しい規制が待っており、ここに向けて各社がPHEVの開発を急いでいる。

日本は1997年末のトヨタ・プリウス発売によってHEVの時代に突入した。世界でもっともHEV普及率が高い国であり、HEVでの燃料消費量削減効果がガソリン消費量の減少に反映されている。しかし欧州と中国はHEVへの恩典が極めて薄い。一方日本は道路が狭く、小型のEVやHEVの運用には向いている。同時に総務省が進める国土強靭化という音頭取りに自動車も手を上げ、自動車から家庭への給電(V2H)というニーズが出てきた。

日本には経済産業省が定める「燃費目標」があり、じつはこれもCAFE方式である。一般には知られていないが罰則規定もある。ただし日本の場合は全自動車メーカーが規制値をクリアしている。それと、もしオーバーしたとしても即罰金ではない。このあたりの運用が日本的である。その一方では、国土強靭化という旗振りのもと、
やっと自動車燃料の多様化に理解が及んできた。

しかし、財務省はクルマの電動化には否定的である。ガソリン税という国税の収入が減る施策は昔から嫌っている。地方税である軽油は需要が減っても構わないがガソリン代替は許さないというスタンスである。もうひとつ、電動化の補助金制度が実態にそぐわないという面もある。集合住宅への充電設備設置支援は平成27年度にようやく始まった。

EVおよびPHEVの普及には充電設備が不可欠であり、政府は最終的に2万基の設置を目標にしている。しかし、東日本大震災のあとに給付された1000億円の充電設備補助金は半額が消費されず返納された。集合住宅への支援はほぼ皆無である。

日本はすでにHEVが普及している。欧州は普通のクルマにシステムを追加してPHEVを作りはじめた。HEVというベースがあるとないとでは、PHEVに対するイメージも違ってくるだろう。世界共通なのはCO2規制の強化という背景であり、これが車両電動化の牽引力である。日本の政府は2030年に電動化車両の比率を30%にするという目標を立てているが、その一方で電力政策がいまひとつはっきりしない。発電方法によっては、電動化が必ずしも環境負荷が小さいとは言えなくなる。

自動車メーカー内にもPHEVに対して否定的な見方はある。しかし、制度という追い風がPHEVを空高く舞いあげた。果たしてその真意はどこにあるのだろうか。

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