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フェラーリF50再生:カビとベタつき著しいインテリアのクリーニングプロセス(内装清掃編)

  • 2021/04/03
  • Motor Fan illustrated編集部
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納車後まったく動かさない状態で発見されたフェラーリF50。コーンズ・ 東雲サービスセンターによる再生プロジェクトを追う。第三弾は内装のクリーニング工程をレポートする。
(PHOTO:コーンズ・モータース)

 そもそもの話からで恐縮。

 自動車内装をクリーニングする目的の多くは「使ったことによる各部の汚れ」の除去にある。平たく言えば表面に付着する皮脂の堆積を取り除くことであり、そのために用いるのがご存じ洗剤である。洗剤は、汚れの水素イオン指数——小難しく書いているがpH、いわゆるアルカリ性/酸性——と逆の性質を用いることが効果的である。皮脂汚れは概して酸性だから、つまりアルカリ性の洗剤を使うといいわけだ。

 しかし、酸性洗剤でもアルカリ性洗剤でも、汚れ落としの性能が高いということは、素材や使用者に与える影響も大。換気扇の油汚れ(=酸性)を落とすために用いるアルカリ性洗剤類の注意書きに、手袋使用が推奨されていることからもご想像いただけるだろう。そこで、汚れを落とす性能は最低限確保しつつ、素材へのダメージを最小限に抑えるための中性洗剤というものが存在するわけだ。

 さて、件のF50である。未使用なのだから皮脂汚れの堆積はない。ゼロである。ということで、アルカリ性/酸性に振った洗浄力の強い洗剤を使う必要はない。「そもそも未使用なのにクリーニングする必要があるのか」と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、本車の場合は内装にカビが多く発生していた。長期間の放置→埃の堆積→空気中の水分が埃に滞留→カビ発生というプロセスである。

 カビは拡散しやすく、浮遊しやすく、再発する。確実に、根絶やしにしなければならない。

 F50の内装の多くはスエード(人工素材か天然素材かは判明しなかった)なので、表面に長い毛足がある。幸い、今回発生しているカビはその上に載っているだけの状況だったので、舞い上がらないようにていねいに拭っていけばまずは除去できる格好だ。

「まずはマイクロファイバーウェスで絡め取ります。ウェスは裏表で繊維の長さが違っていて、カビを除くためには長いほうを使います」

 ていねいに拭ったあとはブラシをかけて毛足をそろえる。やりすぎると傷んでしまうので、必要最小限に抑えるのがポイントだ。そして除菌のためのコーティングを施し、カビ再発とする。

「アルカンターラはクリーニングする側としてはいちばん難しい素材なので、あまり強い洗剤を付けすぎてしまうと質感が、ぜんぶ毛がまとまって硬くなっちゃうので、なるべく毛の風合いを落とさないようにしていくかというのがいちばん気をつけているポイントです」

 ヨーロッパのクルマで散見される、樹脂パーツのベタつきも本車では生じていた。先述のカビ発生の仕組みになぞらえれば、樹脂パーツ表面に埃が堆積→湿気がたまる→加水分解が起こる。下手にウェスなどで拭けば毛羽立ちが付着してしまうのは避けられないし、ラベルやマーキングが取れてしまう恐れもある。

 今回のF50については、表面のベタベタを加工によって剥離し、再度同じ素材で塗装。さらにレーザーでマーキング類を印字するという手段が採られた。

シート表皮はスムースレザー。未使用状態のため革に余計な癖がついていなく、上に載っているカビを拭き取るだけで美しい表面が現れた。
ステアリングホイールは、クリーニングの要望が高い部位。スポーク部がパンチングレザーのため、穴の中まで洗剤が入り込むようにていねいにブラッシングする。

 シートとステアリングホイールは乗員が直接触れている部位でもあることから、皮脂堆積という点からはクリーニングしがいのあるところである。汚れ方によって洗剤の性質を使い分け、どうしても落ちない汚れにはメラミンスポンジを用いる場合もあるという。ただし、ご存じのようにメラミンスポンジとは細かいヤスリと同等のため、使ったあとの表面劣化は避けられない。注文者と細かく打ち合わせ、どうしても取ってほしいという際の最終手段だという。

 未使用状態の奇跡のような個体ではあるが、やはり経年劣化は避けられないという。しかし「使っていない」ということに勝るものなし、作業者の方も「これだけコンディションがいいのは初めて見ました。どれだけ手入れしていても、やっぱり座る箇所っていうのはすれちゃうし、レザーにはどうしてもツヤが出ちゃう。こんなにシボ目のないレザーは見たことないです」と、驚きをあらわにしていた。

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