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【難波 治のカーデザイナー的視点:連載コラム 4回目】パッケージング・レイアウトのお話

  • 2019/07/07
  • MotorFan編集部
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パッケージング・レイアウトの妙

クルマは大きくしたくない。しかし乗員の空間は可能な限り大きくしたい。限られたスペースの中でいかに最大効率を追求するかがパッケージング・レイアウトにおけるデザイナーの腕の見せ所である。運転席と助手席ばかりに目が向きがちだが、4名や5名乗車の車両なら後部座席の居住性も確保しなければならない。ご覧のような3ドア小型車は難しい案件だ。

 人をどういうポジションで座らせるかも検討します。股関節あたりの位置をヒップポイントと呼びますがその高さも重要です。スポーツタイプなのか、ミニバンなのか、セダンなのか、求められる目的により最適値を検討してゆきます。例えば人も年を重ねてくると筋力が落ち、低いシートへの乗り降りが辛くなります。1990年初頭に軽ワゴン車のヒップポイントを地上から600ミリ前後に設定することで腰を上下せずに車に乗り込むことができるように設計したところ、女性や年配のユーザーを始め結局は大勢の人に受け入れられて、その後の軽自動車の典型にまでなりました。これは同時に目の高さ(アイポイント)も上がるようになったために、それまで軽自動車に乗って見下ろされていた気分の悪さまで解消してしまったのです。

 輪切りの断面セクションもキャビンのタンブルを強めるためにはかなり綿密に工夫を重ねます。ただ単純にサイドガラスを倒せば座っている人の側頭部との距離が近付きますので、室内が狭く感じ始めます。しかし、スタイリング上ではキャビンとボディのスタンスを考えるとキャビンはタンブルがきいて小さな方がバランスが良いのでサイドガラスを倒したくなります。また空気抵抗を減らすためには前面投影面積も小さくしたいのでキャビンは低く、小さくしたい方向ではあります。一方で車内のいたるところに増え始めたエアバッグもどこに配置するか検討をしなければなりません。このあたりこそその車のコンセプトとの関わりで判断しなければならなくなるポイントになりますが、車が肥大してゆく原因には安全を確保しなければならない側面もあるのです。実際にはサイドガラスのタンブルがついてくると、窓を少し開けただけでも雨が入ってきたり、ルーフから流れた水滴がそのまま頭上に落ちてきたり、意図してなかったことも起こってくることがあるので、様々に気配りをしながら決めてゆかねばなりません。またこのセクションではサイドガラスがちゃんと降りるか、ドア内のビームとぶつからないか、ドアハンドルと干渉してしまわないかなどユーザーには絶対に見えない部分も検討を進めます。乗員同士の距離(カップルディスタンス)なども検討します。できる限りカップルディスタンスは広げたいのですが、しかしこれらもステアリングポストの位置や、ペダル類との関係で自由になるものではなかったりします。

 プランビューも気になります。リヤシートのどの位置に人を座らせるか。定員が5名だとリヤシートには3人が乗ることになるのですが、5人目をどのように考えるかで両サイドに座る人の位置が変わります。これもスタイリング上では気になるところ。リヤドアのガラスのセッティングに関わります。車の後半をスムーズに絞ってゆきたいのですが、キャビンを後ろに向けて徐々にすぼまらせてゆくにはガラスも同じようにセットしたいわけですが、これも中に乗る人との距離をどう考えねばいけないか、車のコンセプトで判断をしなければなりません。生真面目にリヤシートの3人を座らせればリヤドアのガラスはほとんど絞ることができず、キャビンも絞れません。でも後ろに座る人にとってはその方が広々と気持ちよくなります。しかし、実際に後席には3人がフルに着座することなどまれなのですから、どんな商品にしたいのか、どんな商品を望まれているかで様々に決断を進めます。

 このように車のパッケージング・レイアウトはその車の求められる性格に沿って、達成しなければならない商品性を作り出しますし、同時に外観のスタイリングにも大きく関係してきますから、非常に大事なプロセスになります。パッケージング・レイアウトは開発の初期に行いますから、この出来栄えでその車の素性が決まってしまうのです。この段階が終わってようやくデザイナーもスケッチに取りかかれるわけです。

 ところで、自動車の基本的なパッケージング・レイアウトには長年革新的な変化はなかったわけですが、将来車の動力がEVになるとそこが自由になる可能性が高くなる可能性があります。すでにテスラなど見ているとエンジンがありませんからボンネットの下にも荷物スペースが確保されていたりするわけです。現時点ではまだ衝突安全についてはなんら変わりがないので、クラッシャブルゾーンについては無くすことはできないでしょうが。これも「ぶつからない車」の世界になってくれば、ぶつからないのですからクラッシャブルゾーンも必要なくなる? エアバッグもいらない日がくる?のかもしれません。新幹線も300km/hで走っていますがぶつからない前提で作られていますからエアバッグもシートベルトもありませんよね。まあ、これは極端ではあるかもしれませんが、しかし技術の革新は形を変えます。今後車のパッケージング・レイアウトの自由度が高くなるのは間違いない方向ではないでしょうか。それにより将来は「カッコイイ」車の定義が変化するのかもしれませんね。30年後の子供達が車の絵を描いた時にどんな絵を書くのでしょうか。まさか凸シルエットではないのだと思うのですが。

 今回は車のスタイリングと人との密接な関係について書いてみました。デザイナーは人と機能の関係にも知識を持たなければなりませんし、人の大きさにも関心を持っていなければなりません。例えばイタリアで服を買うと我々とそんなに違わない身長なのですが、袖丈も股下も短くしなければ私たち日本人には合わないということなども経験しておくと良いのではないでしょうか。

 突然ですが、皆さんご自分の肘から手首のところにあるグリグリまでの長さが、自分の足の大きさだってご存知ですか?

シトロエン C4ピカソ

モノスペースデザインのCセグメント車で、広大なキャビンがセールスポイント。フロントフードへなだらかに続くような、はるか前方に届くAピラーは、フロントドアとのサッシュのピラーとは別構造。間には三角窓を配し、前方視界確保の助けとしている。

テスラ・モデルS

電気自動車のパッケージング・レイアウトはここまでできるという好例。後輪駆動のためのパワートレーンはリヤアクスルモーターとしたため、駆動装置の大きさは極少。キャビンも広大である。電池は床に敷き詰めたことで、キャビン空間の犠牲も少ない。よって、フロントフード下はすべて荷室としている。

難波 治 (なんば・おさむ)
1956年生まれ。筑波大学芸術学群生産デザイン専攻卒業後、鈴木自動車(現スズキ自動車)入社。カロッツェリア ミケッロッティでランニングプロト車の研究、SEAT中央技術センターでVW世界戦略車としての小型車開発の手法研究プロジェクトにスズキ代表デザイナーとして参画。94年には個人事務所を設立して、国内外の自動車メーカーとのデザイン開発研究&コンサルタント業務を開始。08年に富士重工業のデザイン部長に就任。13年同CED(Chief ExcutiveDesigner)就任。15年10月からは首都大学東京トランスポーテーションデザイン准教授。

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