東京から滋賀まで、A4オールロードクワトロで琵琶湖と近江八幡を目指す1100㎞の旅〈ステーションワゴン長距離試乗記〉
- 2020/01/03
- ニューモデル速報
まるで地中海沿岸? 岸にへばりつくようにひっそりと佇む村
翌日は街を抜け出し、琵琶湖の北側にある奥琵琶湖パークウェイを走ってみることにした。彦根ICから名神高速、北陸自動車道を北上し、木之本ICから琵琶湖の北岸沿いに西へ走る。
立派な名称とは裏腹に、奥琵琶湖パークウェイは交通量も少なく、かなり物寂しい道である。とくに東側の山岳セクションはなかなかタイトかつツイスティで、酷道険道の空気も漂う。東側からアプローチすると、途中で突然、逆向きの一方通行となって進めなくなってしまい、しかたなく引き返して西側からアプローチし直す。
このあたりも実に酷道険道っぽい。そこまでしてこの道にこだわったのは、なによりクルマで琵琶湖に最接近できるから。右の写真の通り、柵もガードレールもなく、琵琶湖の雄大な景色を存分に堪能できるのだ。そしてそこからさらに南下すると、菅浦という、まるで外界から隔絶されたかのようにひっそりと佇む隠れ里に行き着く。
イタリアやギリシャなどには、急峻な海岸にへばりつくように位置し、陸路よりも水路で行くほうが簡単だったりする集落があるが、この菅浦もまさにそんな雰囲気である。あまりにも物静かで、昼間だというのに思わず声をひそめてしまったほどである。
ストロボの「バシッ」という音にもびくびくしつつ撮影をこなし、しばし散策した後、再び奥琵琶湖パークウェイで北上する。A4オールロードクワトロはセダンやアバントよりも3㎝ほど車高が高められているせいか、ハンドリングには僅かに鷹揚さがある。セダンやアバントは、一度きっかけを与えるとそこからグイグイとまるでクルマが意志を持って曲がっていくような感覚だが、A4オールロードクワトロは常にドライバーの半歩、いや、0.2歩くらい後ろをついてくるような従順さを持つ。この「間」が絶妙で、ハイペースでコーナーを駆け抜けるような場合にはセダンやアバントにアドバンテージがあるが、長い距離、長い時間を走り続けたり、ゆったりと景色を長めながら走りたい場合は俄然A4オールロードクワトロのキャラクターが光ってくる。
とはいえけっして旋回性能がマイルドだというわけではなく、依然として身のこなしは軽快だ。参考までに、ドライブセレクトは常にコンフォートを選択していた。もしもワインディングでのパフォーマンスに物足りなさを感じていたら、ダイナミックもしくはノーマルを選んでいただろう。
底知れぬ実力を秘めたシート
奥琵琶湖パークウェイを走り抜け、国道303号に出れば、あとは東京を目指して帰るのみだ。木之本ICから北陸自動車道に乗り、名神高速、東名高速、新東名高速、そして再び東名と、往路と同じルートを逆向きになぞる。
ここで長距離ツアラーとしての資質を大きく決定づけるシートについて触れておこう。
今回の旅の伴侶であるA4オールロードクワトロは、オーソドックスな標準シートにブラックレザーの組み合わせだったが、これが座ってみると、おそろしく存在感がない。良くできたシートというと、座った瞬間にタイトなホールド性が感じられるレカロなどのスポーツシート、アタリが柔らかくていかにも疲れなさそうなフランス車などのシート、見るからにゆったり大振りでゴージャス感に溢れる1000万円以上するようなハイエンドサルーンのシートなどが思い浮かぶが、A4の標準シートは、そのどれにも当てはまらない。座った瞬間にシートのことなど忘れ、運転や車内の会話などに気が行ってしまう。
ところが、こうして1000㎞以上もの距離を走ってようやく、うっすら気づき始める。「なんか、身体ぜんぜん疲れてなくね?」と。
椎間板ヘルニアを患って手術した経験のあるHカメラマンと、高校大学時代のアメフトの後遺症で頸椎ヘルニアを抱えている筆者。ふたりのヘルニアン(?)がまったく疲れや痛みを感じないどころか、シートがどうのこうのという議論にすらならない。前述の「座った瞬間に良さがわかる」シートと違い、A4のシートの底力はディーラーでのチョイ試乗では絶対にわからないだろう。だからこそここで強調しておく。このシートのためにA4を買うのもアリだ、と。
二日間、総走行距離1070㎞に及ぶ旅を終え、東京に帰着する。トータルの燃費は14.7㎞/ℓだった。大人二名乗車で荷物を満載し、撮影のためにちょっと動かしては停め、を繰り返したり、走行シーンの撮影のために低めのギヤで速度を一定に保ったり、初日の夕方に大渋滞に巻き込まれたり、といったことを考えれば不満のない数字である。
「旅に出たくなるクルマ」は、「実際に旅に出るべきクルマ」だった。A4オールロードクワトロに妄想を抱いたみなさん、今度はその妄想を実行に移すときですよ。
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