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畑村耕一博士の「2020年の年頭に当たって」①博士はSKYACTIV-Xをどう見たか? エンジン博士畑村耕一「過給リーンバーンの技術競争が始まった」:自動車用パワートレーンの将来:マツダSKYACTIV-Xの評価は?

  • 2020/01/01
  • Motor Fan illustrated編集部
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③レースの世界では副室リーンバーンエンジンが主流になってきた

 話をレースの世界に移すと、2014年から量産車につながる技術開発を目指して、空気流量規制から燃料流量規制に大きく舵が切られた。その結果、過給リーンバーンの世界に突入していくことになった。そのため各チームは発電用天然ガスエンジンに採用されている副室燃焼方式を導入した。現在ではすべてのF1チームが副室燃焼を採用するまでになった。トヨタのWECのエンジンも副室を採用している。

図7

 副室燃焼とは、図7のように燃焼室内に容積比で5%程度の副燃焼室を設けて、その中に設置した点火プラグで燃焼を開始、小さな連通口から吹き出すジェット噴流に乗せて火炎核を主燃焼室中にばらまくと同時に、強い乱れを作って多点急速燃焼を実現する技術だ。燃焼室全体はリーン燃焼であるが、副室内は点火が可能な空燃比に設定する。副室内にインジェクターを設定するかしないかによって図7左のアクティブ方式、図7右のパッシブ方式と区別して呼んでいる。高年齢の読者には1970年代に実用化されたホンダのCVCCエンジンを現代の直噴技術を使って復活させるというとわかりやすいかもしれない。前者がホンダのCVCC、後者がトヨタのTGPに当たる(図8)。

図8

 ここから先は専門的になるので、興味の薄い読者は読み飛ばして次の話題に進んでもらいたい。SIPほかの研究で、NOxが生成されないA/F≒30の混合気でも火炎核が形成されて、高温高圧の条件になると火炎伝播が始まることがわかってきた。これまでA/F≒30リーンでは着火しないと信じられてきたのは、実は火炎核はできるが燃え広がらない、燃え広がっても燃焼速度が遅すぎて安定しないというのが正しいのだろう。燃焼速度を実用範囲まで早くするのが、

A: SIPの強タンブル+強力多重点火、
B: SKYACTIV-XのHCCI、
C: レースエンジンの副室燃焼

 というわけだ。Aの技術は強タンブルと多重点化に依存するところが大きく、ばらつきを考えると制御が難しい面がある。Bは自着火に依存するので不安定な急速すぎる燃焼を抑えることが難しい。Cについては、制御が難しい自着火がなく、比較的調整パラメーターがたくさん(副室容積、噴口面積、副室空燃比)あることが特長だ。ただし副室内がNOxが出ないA/F>30で着火する技術はまだ開発されていない。どの技術もA/F≒30で安定燃焼するには高温高圧が得られる高容積比が必須であり、高容積比によるWOT(wide-open throttle=スロットル全開)のノック抑制技術が必要だ。

図9

 図9に示すようにCの副室燃焼を量産エンジンに適用する開発も行なわれており、スーパーリーンバーンを実用化するためのひとつの方法だ。ホンダでは熱効率47%が実現できるとしている。副室燃焼スーパーリーンバーンを実現してNOxの後処理が不要の高効率エンジンが量産エンジンで実用化されるのも遠くないだろう。

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