また逢う日まで!? 3代目ホンダ・フィットのスポーティグレード「RS」に最後のお別れを……
- 2020/04/20
- 大音安弘
2020年2月、第4世代へと進化を果たしたホンダの主幹モデル、フィット。大幅刷新を図った新型の評価は、上々だが、その影で、失われたものもあった。フィット伝統となっていたスポーティグレード「RS」の廃止である。フィットRSの歴史を振り返りつつ、最後の最後にタイミングで共に過ごして感じたフィット RSの存在意義とは。
REPORT&PHOTO 大音安弘(Yasuhiro Ohto)
2代目登場と共に現れた初のスポーティグレード
フィットに、スポーティモデルが投入されたのは、2007年登場の2代目モデルから。初代シビックのスポーティグレード「RS」の名を譲り受けたもので、実に30年以上ぶりの復活となった。
1.5Lエンジン車をベースに、専用サスペンション、大径タイヤとブレーキなどで性能を強化。さらにエアロパーツを纏うことで、スポーティなモデルへと発展させたものだった。
しかし、そこで終わらないのが、ホンダ。3年後の改良では、このRSを単なるスポーティモデルではなく、スポーツハッチへと仕立てるべく、エンジンレスポンスの向上やハンドリング性能を強化。さらにボディ剛性を高めるため、フロントには、パフォーマンスロッドまでが追加していた。
その情熱は色味にも表れており、初代シビックRSのイメージカラー「サンセットオレンジ」をモチーフとした「サンセットオレンジII」として復活。専用色に採用した。しかし、エンジニアたちの情熱は、留まるところを知らず、なんと2代目より投入された「フィット・ハイブリッド」にも、RSを投入してしまう。驚くべきことに、専用の1.5Lハイブリッドシステムを採用し、6速MTとCVTの選択が可能という、なんともマニアックなハイブリッドカーであった。
シリーズ全体で走りの良さに拘った3代目
2013年登場の3代目フィットは、モデル全体で走りの質感を追求。ハイブリッド仕様も1.5LエンジンとDCTにモーターを内蔵したハイブリッドシステム「i-MMD」に進化した。ガソリン車は、1.3Lをメインとし、上級グレード向けの1.5Lを設定。この1.5L車をベースに、RSが開発された。
基本性能の底上げを図ったことは、フィット全体には良い効果をもたらしたが、RSの特別感が薄れたことは否めない。RSも、ベース車の素性の良さを活かし、メカニカルな分野の専用パーツを基本的に廃止。ビジュアルパーツと専用セッティングで、再び”RS”の世界観を描くことになる。因みにハイブリッド仕様のスポーティグレードは、「Sパッケージ」と名称を改め、異なる道を歩んだ。
最後の大幅改良となった2017年のマイナーチェンジでは、モノコックボディに、各部へのスティフナーの追加や足回り取り付け部の板厚アップなどの改良を加えることで、ベース車の基本性能の底上げを実行。結果として、RSの性能も向上した。またエクステリアも見直され、よりアグレッシブなスタイルに仕上がられた。
後期型RSは、ここが違う!
まず後期型フィットの特徴を見ていこう。RSを含む上級グレードのエクステリアは、前後バンパーが専用品となり、スポーティかつボリューム感のあるフォルムに進化した。新アイテムのブラックドアミラーは、後期型上級グレードの専用アイテムのひとつだ。
外観上のRSの識別ポイントは、最も分かりやすいのは前後に備わる”RS”バッチだが、それ以外にも、フロントバンパーのオレンジラインによるアクセントやダーククロームメッキなどが挙げられる。意外にも前期仕様では、専用色だった「サンセットオレンジII」は、ハイブリッドのスポーティグレード「ハイブリッドS」やガソリン車のスポーティグレード「13G S」でも選択可能となり、RSの象徴ではなく、スポーティ仕様の共有アイテムとなっている。
よりRSらしさが感じられるのはインテリア
実のところ、RSの世界観は、インテリアの方が強い。ブラックを基調に、オレンジのトリムやライン、ステッチを加えた仕様は、RS専用のもの。もちろん、本革巻きが奢られるステアリングやシフトノブにも、オレンジステッチが施される。室内に、しっかりとした差別化があるのは、オーナーとして嬉しくなるポイントだ。
シート形状自体は、スポーティタイプだが、こちらもオレンジラインとステッチを加えたことで、立体感を強調。シートのサポートの良さを、期待させる。足元の3ペダルは、ステンレス製スポーツペダルとなるのもポイントだ。
CVTの設定もあったが、RSに拘る人が気になるのは、MT仕様だろう。MT仕様自体は、1.3Lエンジン車にも設定されるが、こちらは5速仕様。RSには、専用品の6速MTが奢られている。
過度な期待は禁物だが、ホンダらしさはある
パワートレインは、特に紹介するほどのものではないが、1.5L直噴4気筒DOHCのi-VTECを搭載する。昔ならば、「俺のクルマ、VTECなんだぜ」と語りたくなる飛び道具であったが、こちらはそういう類いのものではない。
最高出力132ps/6600rpm、最大トルク155Nm/4600rpmと平凡。スペックだけでいえば、モーターの活躍の分だけ、ハイブリッドの方が上となる。しかし、RSには、6速MTという武器があることをお忘れなく。
RSとはいえ、その走りに、過度な期待は厳禁だ。普通に流していれば、「CVTの方が、楽チンだよな」なんて、罰当りな考えも浮かんでくるのも事実。しかし、これは優秀なコンパクトカーであるフィットの素顔でしかない。それならば、ドライバーがRSの顔を引っ張り出してあげれば良いだけのこと。
その儀式には、やはり6速MTの存在が欠かせない。燃費のことは、少し棚に上げ、低めのギアで引っ張り、エンジン回転数を上げていく必要があるからだ。
限られたパワーを引き出して駆け抜ける。これは、ライトウェイトスポーツの基本である。それをRSにも、当てはめれば良いだけだ。そうすると、普段は大人しいエンジンも、回転数を上げていくことで、元気さが顔を出す。心なしか、そのエキゾーストもホンダサウンドらしさが感じられるようになる。
とはいえ、133psのエンジンだ。でも旨く活用すれば、日常領域でも運転とコース次第で、スポーティなドライビングが楽しめる。それこそフィットRS、ホンダエントリースポーツの大切な役割なのではないだろうか。
正直、走りの良さは、新型フィットの方が数段上だ。それだけ基本性能には、大きな差がある。だからこそ、フィットIIIのRSをわざわざ探して、買うならば、MTは外せない。それが厳しいならば、1.3Gの5速MTにするのも、手かもしれない。その理由は、MTの運転を覚えるのは、非力なエンジンとの組み合わせが良い勉強となるからだ。
フィットIIIは、RSとはいえ、速さや切れ味のあるコーナリングなどの分かりやすいスポーツ性とは、無縁だ。ただし、しっかりと作られているため、クルマを楽しむ土壌はある。何よりも初めてのスポーツ・ホンダが、シビック・ハッチバックでは、高性能すぎ、リスキーだと思う。「いろは」を覚えるのには、良い相棒ではないのだろうか。しかし、若い頃は、誰でも、少し背伸びがしたいもの。その欲求を埋めるのが、RSというネームでもあっただろうに。
そんなエントリースポーツというべき、RSが失われてしまったことは、少々寂しく思える。個人的には、新型フィットこそRSを面白くしてくれる存在だと信じているのだが。今は、走りの良さが感じられるようになったホンダの将来に、期待を込めて見守るしかないようだ。
【Specifications】
<ホンダ・フィットRSホンダセンシング(FF・6速MT)>
全長×全幅×全高:4045×1695×1525mm ホイールベース:2530mm 車両重量:1070kg エンジン形式:直列4気筒DOHC 排気量:1496cc ボア×ストローク:73.0×89.4mm 圧縮比:11.5 最高出力:97kW(132ps)/6600rpm 最大トルク:155Nm(15.8kgm)/4600rpm JC08モード燃費:19.2km/L 車両価格:208万8900円(2019年10月の価格)
モデル末期のホンダ・フィットRSは“買い”か“待ち”か?…三代目後期にしてようやく辿り着いた完成形。新型での継続設定は期待薄、今すぐ“買い”だ!
【*2019年9月5日、本文末尾にタイプ別販売比率のデータを追加しました。】 どれほど技術が進化しても、法規や市場環境の...
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