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『テスラ>トヨタ』 テスラの価値は本当に「トヨタ超え」か? バブルかリアルか? 専門家はこう見ている。本質を見誤るな

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テスラの企業価値は日本の自動車メーカー9社の合計よりも高い……そんな報道が世界を駆け巡った。その裏にある事実を調べ、テスラ価値を読み解いてみる。
TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

「トヨタなんて目じゃない。これからはテスラだよ」

現在のテスラの主力モデル、モデル3

テスラのCEO、イーロン・マスク氏の熱狂的なファンが世界中にいる。
 お前ら、もうエンジンの付いたクルマなんて作っている場合じゃないぞ。テスラを見ろ。BEV(バッテリー電気自動車)しか作らない。完全自動運転もやると言ってる。コネクテッドなんか当たり前だ。トヨタなんか目じゃない。これからはテスラだよ、テスラ!

 かなりムカつく声がアメリカ方面から聞こえてきたような気がした。米・テスラの株価が上昇を続け、米国株式市場で時価総額が2105億ドル(約22兆6000億円)となった7月1日のことだった。同じ日、トヨタ自動車の時価総額は東証株価で21兆7185億円であり、世界中で「テスラがトヨタを抜いた」と報じられた。

 時価総額は「発行済み株式総数×株価」で計算する。つまり、テスラ株は短期間に急上昇したのだ。こうなると「Me too!」という輩が増える。テスラ株でひと儲けしようというひとが「だれかが買ってくれること」を期待してテスラ株を買う。同時に「オレにも売ってくれ!」と大金を積むひとが現れる。

 案の定、2週間後の7月13日にはテスラの時価総額が一時3329億ドル(約35兆6,800億円)を記録した。東部標準時間の午前11時ごろ、テスラの株価は1,794.99ドルになり、発行株式にこの数字を掛けると日本で上場する自動車メーカー9社の時価総額合計である34兆4705億円を上回った。

 かつてない出来事だ。アメリカの小さな自動車メーカーが、世界で年間2800万台を生産する日本の自動車産業を飲み込んだ瞬間だった。果たしてテスラという企業は、これほど高い価値を持つ企業なのか。それともこの数字は見せかけのものなのか。

プロたちは、テスラをこう見ている

 専門家がこの件をどう見ているのかを調べた。まず、筆者が日ごろから情報交換している金融・証券のプロフェッショナルのみなさんにこの件を尋ねた。

「ESG(環境・社会・企業統治)投資が米国の投資家の間では標準になった。環境保全、社会貢献、透明性の高い企業統治に配慮している企業に投資するという行動であり、ESG評価の高い企業が将来の勝ち組だと言われる。年金基金などを長期的に運用する機関投資家を中心に、気候変動や社会の行動様式の変化といった要素も含めて、長期的にその企業が成長を維持できるかどうかを判断する指標のひとつだ。しかし、この指標が本当に個々の企業の姿を反映しているかどうかには疑問が残る。個人的には、テスラの企業価値は現在の10分の1でも高すぎると思う。バブルだよ、これは」

 これは旧知の証券マンのコメントである。いわゆる高度プロフェッショナル職で、自動車セクターを8年ほど担当した経験がある人だ。

「テスラは経費削減のため販売店を廃止してネット注文に切り替えた。アフターサービスは委託だ。ショールームは持っているから、アップルストアと同じだ。COVID-19(新型コロナウィルスによる感染症)蔓延で都市がロックダウンされてもクルマを売っている数少ない企業だった。この件も株価に影響を与えたと思う。ただし、実際にテスラを買った人がテスラという企業を評価しているかどうかはわからない。クレームへの対応の悪さは一部で批判されている」

 これは米国のジャーナリストのコメント。彼はこうも付け加えた。

「ガソリン価格が一定以上になると米国人はトヨタやホンダのHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)に注目し、中古のシビックMT車が高値で取引されたりするが、喉元過ぎれば3.5ℓのV6にしか興味はない。カリフォルニア州は住宅にBEV充電設備を設置すると補助金が下りるから設備だけ入れた人も多い。しかし、BEVは全米新車販売の1%だ。西海岸と東海岸にはテスラのファンがいるが、内陸へ行ったら知名度はほとんどない。ロサンゼルスからラスベガスまで、テスラは充電ステーションを整備しているから、金持ちはテスラでカジノに出かけるんだ」

テスラは欧州でも充電設備の充実を図っている。

 筆者の葉巻仲間、血気盛んな若手日本人金融マンはこう言った。

「Greater fool theoryですよ。高値で買うのは本来アホだけど、オレが売りに出したらもっと高値で買うアホがいる、という心理です。ここまでの高値になると、最終的には上場投資信託(ETF=Exchange Trade Fund)などのパッシブマネーが買い上げてくれるだろうという期待でテスラ株を買っている投資家が多いんじゃないですか?」

 日本に住む中国系シンガポール人の金融マンはこう言う。

「テスラには熱狂的信者がいる。イーロン・マスクCEOの信者だ。彼が口にする皮肉が好きで、彼の一挙手一投足に関心を払う人たちだ。最近ではCOVID-19感染拡大を防ぐ外出制限に否定的な内容の本の電子配信に一時期アマゾンが難色を示したことを挙げて、イーロン・マスク氏はツイッターにアマゾンを解体するときが来たと書き込んだ。こういう彼の行動をカッコいいと思う若者層は多い。実際にテスラ株を買わなくても、買おうかどうか迷っている人たちの背中を押す役目を率先して演じている若者がテスラを支えているとも言える。」

テスラがパナソニックとともに2014年に操業開始したバッテリー工場「Gigafactory」

 経験と理論とのバランスで冷静にテスラを分析している方は多い。アナリストであり株式会社マネネCEOの森永康平氏はITmediaの記事の中でこう言っている。

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2007/15/news045.html

「表面的な数字だけで物事を語ってしまう傾向に強い違和感を覚える。株価は投資家の期待値が反映されるものであり、必ずしもその企業の実態を反映するものではない。テスラの時価総額がトヨタやホンダを抜いたからといって、同社が自動車業界で世界一になったと考えるのは早計だろう。電気自動車という今後伸びていく可能性が高い業界において、頭角を現したテスラに投資家の期待が集まり、その結果として株価が上昇していることは理解できる。テスラは実績も挙げている。しかし、あくまで投資家はテスラの将来性に期待をしているから株価が上昇し続けているだけであって、それをもって現時点での企業評価とはすべきではない」

 これが結論だと筆者は思う。株価は「現在」の価値であり、ESG投資だとかなんだとか理由を並べても、結局「将来への期待」は自分の投資へのリターンという期待だ。多くの人が右へ倣えの投資を行なえば、それは「みんなの期待」になり、株価を引き下げそうな要素を積極的に排除する一致団結が始まる。

 興味深いのは、テスラ株高騰の翌日、7月14日にドイツ・ベルリン地方裁判所が下した判断である。同裁判所は「テスラがオートパイロットの名称を使ったり自動運転が潜在的に可能という表現を広告で使ったりすることを禁止する」との判断を下した。この時点では拘束力のない判断だが、ドイツの業界団体による訴えに対する裁判所の回答である。この件は日本でも報道されたが、米国の株式市場は「重要」とは見なさなかった。イケイケの流れには逆らえない。

 もちろん、金融界はテスラを慎重に値踏みしている。値上がりを続けるテスラ株について、米・モルガンスタンレーのアナリストであるアダム・ジョーンズ氏が「テスラ株は過大評価されており、今後大幅な下落になる危険性がある。自動車メーカーとしてのリスクと経営の難しさを軽視している投資家が多すぎる」とメディアのインタビューに答えたのは6月23日だった。モルガンスタンレーはテスラの適正株価を650ドルとした。

 この650ドルに対し、前出の証券マンはこう言った。

「プロ野球の全米一を決める試合をワールドシリーズと呼ぶのが彼らのメンタリティだ。ウォールストリートの連中は、自分たちが世界の中心だと思っている。アメリカでは650ドルかもしれないが、世界の自動車産業の中で見れば400ドルでも高い。アメリカ人はアメリカに自動車の名門企業を作りたいんだよ。自動車メーカーとしての資質を問えば、新興国に安価で良質な実用車を提供しているトヨタのほうがはるかに立派だ」

 テスラという企業の実績を振り返ると、四半期(3カ月)ごとの決算で4期連続して黒字になったことがない。現在はカリフォルニア州と中国・上海に工場を持ち、世界販売台数は2018年が24万5000台、2019年が36万7500台。廉価版セダン「モデル3」を投入して以降、販売台数は伸びている。

テスラと中国は一蓮托生

 BEVをはじめとするNEV=新エネルギー車の販売が落ち込んでいる中国でもテスラは大健闘しており、3月には「モデル3」がNEVモデル別販売台数でトップに立った。国産化することで「モデル3」の中国国内販売価格は以前の約42万RMB(人民元)から34万RMBまで8万RMB(1RMB=15.3円として約122万円)引き下げられたことも影響しているだろうが、中国でも「イーロン・マスクCEOのファンは多い」と、中国メディアの筆者の友人は言う。現地では「マスク氏は習近平国家主席の電動車普及政策に賛同している」と報じられている。

 もっとも、テスラと中国政府は一蓮托生の仲だと言っていい。補助金大幅削減でNEV販売不振に陥った中国で、ある意味テスラは市場のけん引役を担っていた。富裕層が買うプレミアムBEVであり、格好の宣伝材料である。そのため中国政府は、テスラの上海工場が完成し量産が始まる2019年12月以前からテスラを「国産車」として優遇した。そしてテスラは、上海工場の建設費のうち35億RMB(当時のレートで560億円)を中国工商銀行などの銀行団から調達し、ことし5月には生産規模拡大のため追加で最大40億RMB(現在のレートで約612億円)の融資契約を結んだ。こうした融資がスムースに行なわれた背景には、中国政府とテスラの信頼関係というか、習近平政権との信頼関係があると筆者は予想する。

 ことし第1四半期の決算リモート会見でマスクCEOは「米国と中国の生産拠点の能力アップとドイツ工場の2021年稼働をめざす」と語っている。来年には車両生産能力を年間100万台に引き上げるという。欧州市場でもテスラは売れてきたし、EUはBEV普及に躍起だ。中国同様、EU政府とテスラの利害は一致する。

 果たしてテスラの株価はさらに値上がりするだろうか。7月22日に予定されている第2四半期決算発表の内容によっては、もう一段の上昇もあり得る。初めて四半期連続の最終黒字を確保できれば、念願のS&P500(スタンダード・アンド・プアーズ500ストック・インデックス=代表的な米国企業500銘柄の株価をもとに算出される平均株価指数)の採用条件を満たす。そうなればテスラ株を買う投資家の期待はさらに高くなる。

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