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中国の「若手自動車技術者」像を追う。 時代はもう「たがが中国」ではない。「されど中国」だ。

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いま、吉利ホールディングスはボルボ、ロータス・カーズ、ロンドンタクシーキャブを傘下に持ち、ダイムラーの筆頭株主である。ダイムラーとの間ではエンジンの共同開発が始まった。ハイブリッド車用のガソリンエンジンを開発し、共同で量産を行なうと言う。このエンジンはメルセデス・ベンツ、吉利、ボルボの各ブランドで共用することも正式に発表されている。

長城汽車も、少なくとも筆者が取材した範囲では評判がいい。同社と取り引きする中国資本サプライヤーは
「我われに対してはつねに上から目線であり、コスト要求も厳しい。日系サプライヤーに試作を依頼した部品を、厳しいコストで我われに製造させる」
と言う。ここは何となく日本に似ている。よく言われるように「中国人は中国人を信用しない」というムードを取材していて筆者が感じることはけして少なくない。

「相手がどの自動車メーカーであっても、技術を教えてくれるところに対しては敬意を払う」「どうしても必要な海外サプライヤーの技術にお金を払うぶん、同じ中国企業に対しては冷たい」とは、よく聞く話だ。また、筆者の印象では長城、吉利、奇瑞など非国営自動車メーカーでも工学部出身者より金融工学を学んだ幹部が研究開発部門を仕切っているように思う。ただし、吉利ブループの李書福社長のようにトップの一声は絶大であり、社長が交代したらどうなるかはわからない。R&D組織の確立という点ではまだまだ弱いように感じる。

20111年上海モーターショー 長城汽車はSUVメーカーとしての地位を築いていた。その動きに海外メディアも注目していた。プラグインハイブリッド車のための電動技術開発には複数のエンジニアリング会社が協力したが、「日本には負けない」と意気込みを語っていた。

組織固めへの布石だろうか、最近は日本人幹部を招聘する例が中国の自動車産業のなかに増えてきた。生産現場で熱処理を教えたり金型修正のコツを教えたり、あるいは生産管理全般を指導したりという日本人技術者は、すでに20世紀末の時点で中国にかなりの数がいた。しかし、中国企業の経営陣となると日本人は皆無だった。専門分野のある日本人技術者をスポットで雇っても、経営陣には米国でMBAを取得した中国人が就いた。あるいはコンサルティングを欧米の自動車メーカー出身者に依頼していた。

現地の報道によると、不動産業など多角的な事業を営む宝能集団が買収し経営権を握った観致汽車は、日産など日系企業からCEO(最高経営責任者)や技術部門責任者を招いたという。かつてイスラエル政府系投資ファンドと奇瑞汽車が合弁で立ち上げた同社はいま、宝能集団の資金を得て事業再編を進めている。その舵取りを日本人経営者に委ねた。同様に振興BEVメーカーである小鵬汽車はトヨタから品質管理責任者を招いた。ホンダから幹部人材を招いた自動車メーカーもある。

2014年北京モーターショー  観致汽車の第1号製品は欧州系サプライヤーが部品を提供し設計・車両実験はマグナ・インターナショナルが担当した。衝突安全性の設計は元サーブのエンジニアと彼の元部下たちが担当した。

中国系エンジニアリング会社によると「中国企業から依頼を受けたヘッドハント会社が日本人と接触している例が増えた」という。その目的は「売れる商品を短期間で開発するため」だと言う。以前の中国自動車メーカーは、社内にエンジニアを育てるより技術は外から買って来るという考え方だったから、エンジニアリング会社は設計図面をどんどん売っていた。この構図は崩れ、エンジニアリング会社も従来のようにはビジネスができないと言う。

筆者の印象では、まだドイツ系自動車メーカーで経験を積んだ技術者のほうがブランド力がある。日本人経営者を招き始めたといっても、それは「ドイツ人がだめなら日本人でも」という消去法的な意味合いも含んでいる。とは言え、40歳前後を境に大卒者が極端に減る中国では、R&D部門だけでなく生産や財務などでも人材は不足している。経験を積んだ外国人に頼る例はどんどん増えるだろう。

それでも、21世紀以降を振り返れば中国自動車産業内のR&D体制は形が整ってきた。新しいモノを創造できる商品企画能力を養うのはこれからだが、その基礎は大学教育が担っていると思う。工学部系大学を訪問すると、最新の設備に驚くことが多い。自動車生産ラインを持っている大学すらある。空力のための実験風洞やCFRP(炭素繊維強化樹脂)成形のための加圧釜、6軸シミュレターなど、総じて日本の工学部系大学より設備を持っている。

ところが、よくよく話を聞くと「動かしたことのない設備」があると言う。先生も動かし方をよく知らない。故障してもメンテナンスできない。そんな発言があった。筆者が「日本では設備が壊れたら先生と学生が修理する」と言うと、互いに顔を見合わせて「やったことがない」と言う。

自動車はテクノロジー=技術だけでは進歩しない。テクノロジーを裏付けるサイエンス=科学が必要であり、サイエンスの探求なしに自動車は進歩しない。しかし、中国の大学教育現場では先生の数が絶対的に足りない。さまざまな分野に興味を持った探究心旺盛な学生を訓練し、社内のニーズに合わせて世に送り出すという、社会全体としてのR&D体制は整っていない。宇宙開発、量子コンピューター、自動運転AIなどの領域では中国が華々しい成果を見せているが、そこに投じられた予算と技術者の数(もちろん中国人だけではない)は、日本人の筆者としては絶句に値するものだ。

2017年 ベルギー ボルボのベルギー・ヘント(Ghent)工場で習近平国家主席に設備を説明する李書福CEO。

ただし、日本が現在の地位を維持できるとは思えない。毎年数百万人が大学の理系学部を卒業する。1%の秀才がいたとしても、人口比で見ればその数は日本の約10倍だ。この差を日本の財産である「現場力」で補える時代は、もうとっくに終わっているように思う。

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