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エンジン車は、いつまで続くか。その3「30年先でもエンジン車は残る」2020〜2021年自動車産業鳥瞰図

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急激なBEV推進は社会に歪みを生む

さて、ここからが本題。
市場調査会社の予測には開きがあるが、2031年時点での新車市場予測は、BEVが約17%、PHEVを含むHEV系の全合計が47%、純粋なICE車は36%というあたりが平均だ。日本の調査会社の中にはBEVが35%程度になると予測しているところもあるが、現在のEUのCO2規制強化方針を反映させてもBEV比率の上限は20%という見方が世界には多い。

その理由はバッテリー生産量の不足と電力消費の増加だ。BEV普及のためには年産1GWh(ギガワットアワー)以上の生産能力を持つ電池工場を世界各地に建設しなければならない。時間も費用もかかるうえ、資源問題が発生する。うまく切り盛りできたとしても、費用だけは数十兆円かかる。

筆者は、急激なBEV推進は社会に歪みを生むと見ている。欧州の例でいうと、2018年のECV(エレクトリカリー・チャージャブル・ビークル=充電電動車/BEVとPHEV)販売比率は、国民1人当たりGDPと完全に比例していた。この傾向が2020年もほとんど変わらない。補助金を増額する余裕のある国ではECVが増える。そうでない国は置いていかれる。

EUと英国、スイス、ノルウェーの合計で見ると、2018年の新車販売台数に占める平均のECV比率は2.0%だが、EU加盟国の半数は1%未満のECV比率にとどまる。そして1%未満のすべての国では、ひとり当たりGDPが2万9000ユーロ未満だ。これとは対照的に、ECV比率が3.5%を超える国はすべて、1人当たりGDPが4万2000ユーロを超える。

欧州での新車販売台数に占めるECV比率(2018年)

欧州での新車販売台数に占めるECV比率(2018年)

ACEA(欧州自動車工業会)まとめ。これを見ると、ひとくちにEUという括りで普及策を論じることは難しいだろうと感じる。EUの5大自動車市場で見ると、2018年はドイツが6万7658台/比率2.0%、英国5万9947台/同2.5%、フランス4万5623台/同2.1%、スペイン1万1810台/同0.5%、イタリア9731台/同0.5%である。2020年はECVが大きく伸びたが、その中心は補助金倍額のドイツと補助金大幅アップのフランスである。

国民ひとり当たりGDP(2018年)

国民ひとり当たりGDP(2018年)

EUとACEAのまとめ。新車需要に占めるECV販売比率が1%未満のすべての国ではGDPが2万9000ユーロ未満で、いっぽう販売比率が3.5%を超える国はすべて1人当たりGDPが4万2000ユーロを超える。ノルウェーはEU加盟国ではないが、1人当たりGDPはEU平均の3万600ユーロの2倍を超える7万3200ユーロである。ECV販売比率が低い国は1人当たりGDPも低く、リトアニア0.4%/1人当たりGDP1万5900ユーロ、チェコ0.4%/同2万500ユーロ、ギリシャ0.3%/同1万7100ユーロ、スロバキア0.3%/同1万6600ユーロ、ポーランド0.2%/同1万2900ユーロである。ECV販売台数はポーランド1324台、チェコ981台、ギリシャ315台、スロバキア293台、リトアニア143台である。

EU委員会は、ポーランドなどECV販売比率が低い国でECVを販売した場合に勘定を×2にするスーパークレジット制を採用しているが、この比率も2021年は×1.67に縮小される。ポーランドは韓国・LGケミカルの車載電池工場を誘致したが、ポーランドの発電構成から見て、再生可能エネルギーによる電池製造だとは思えない。同じくECV販売比率も国民ひとり当たりGDPも低いポルトガルは、EU内のエネルギー企業およびファンドが進めるリチウム露天掘り鉱山の建設問題で揺れている。ポルトガル政府がこれを承諾しないとEU内での電池原材料サプライチェーンはまったく確保できない。

電池のあやうさは、自動車メーカーもEU委員会も、賢明な政治家や学識経験者も知っている。しかし、現状では電池に頼るしかない。その先にある水素社会が実現するまでは……。EUでの水素投資が活発なことは前回紹介したとおりだが、ドイツは再エネだけで精製した水素に大気中のCO2から分離した炭素を組み合わせた合成燃料、いわゆるe-Fuelの実用化を狙っている。いずれこの件も詳しく取り上たい。限りなくカーボンフリーに近い合成燃料が量産され、流通するようになれば、あえてBEVを選ぶ必要がなくなる。

たとえば、20年後の2040年にガソリン・軽油の半分をe-Fuelで肩代わりすることができるようになると仮定する。そこに至るロードマップのなかにECVおよびさまざまなHEV系の普及を重ねれば、そう無理することなく自動車分野のCO2を減らせるはずだ。石油需要が漸減するとなれば、産油国はこの方面への投資とプラント建設に動くだろう。

ただし、それまでは精製される原油を余すことなく使い切ることが重要だ。まだ人類は化学原料をすべて合成できるわけではない。原油を精製すれば必ず出てくる中間留分はガソリン、軽油、灯油として消費するのが賢明だ。さらに現在はナフサが余っている。ナフサをディーゼルエンジンで使うとほとんどNOx(窒素酸化物)が出ないことは日本の石油化学業界が実証に成功している。

要は、いま手にできる燃料なり資源なりをできるだけ有効に、適材適所で使いこなすことでも省エネに寄与することができるということを、もう一度しっかり認識することが重要ではないだろうか。東西と南北の分断をもたらしてまでECV化を進めなければならない理由を、筆者は想像できない。

「CO2削減は待ったなし!」

そうだろうか。ならばなぜ、IPCCは2度も温暖化予測を誤ったのか。計算の前提が誤りだったからではないのか? その検証もせずにECV化を煽るのは、フォン・デア・ライエンEU委員会委員長が演説で語った「再び強い欧州を政治主導で実現させる。アメリカのIT企業と中国の製造業に対抗できるだけの競争力をEU企業に持たせる」ためではないのか?

前述したように、日本の自動車分野のCO2排出比率はEU全体平均よりもずっと低い。同時に年間150万台、比率にして約35%がECVとさまざまなHEVで占められている。35%は充分に誇れると筆者は思う。しかも、これを原子力発電比率5%程度で実現している。うしろめたいことなどない。逆に、原発比率5%だからBEVは厳しい。一概に「BEVは環境に優しい」とは言えないのが日本だ。

自動車は一国の経済を支える一大産業であると同時に、商品そのものは嗜好品でもある。しかし、社会的なコンセンサスを得た国・地域ごとの環境および安全基準さえ満たしていれば、それを購入することは誰からも非難されるものではない。日本の2030年燃費規制は24.5km/ℓだ。これはWLTP/WLTCでの数値である。これを満たすためのさまざまな研究開発が進められている。同時にECVの開発も進められている。

多くの人が、価格も含めて「BEVでいい」と思うようになれば、ICE車は自然淘汰されるだろう。HEVが年間数千台から100万台以上へと成長した背景は、お客さんがHEVを選んだからにほかならない。同じことがBEVで起きても不思議ではない。では、いま現在BEVは、そのレベルに達しているだろうか。補助金がなければBEVに競争力がないことは欧州と中国が証明している。

3回にわたって「エンジン車は、いつまで続くか」を取り上げた。筆者の結論は「30年先でもICEは存続する」だ。ただし燃料はずいぶん違っているだろう。もし日本で水素ベースの合成燃料が潤沢に流通するようになれば、エネルギー自給率は高まり中東依存度は下がる。日本はBEVに絡む世の中の分断に加担する必要はない。むしろ分断を緩和する方向で貢献すべきだ。同時にアジアや中南米、アフリカに向けては、欧米メーカーのように「お古」ではなく最新のICEを今後も供給し続けるべきだ。世界が「買ってくれる」以上、日本人が考えたICEはなくならない。

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