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スタートアップにPHEVは作れない。ではエンジンがないBEVならIT企業が作れるのか? | 電動化は自動車産業を変えるか・前編

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当初予定では2020年に量産が始まるはずだったBYTON M-Byteは、まだ世の中に出ていない。CESでコンセプトカーを披露し合計8億ドル(約840億円)を投資家から集めたが、市販された車両は1台もない。

IT(情報通信)系企業が相次いでBEV(バッテリー電気自動車)市場に参入すると、クルマの作り方が変わる。競争が変わる……こういう声があちこちから聞こえてくる。たしかにEU(欧州連合)のCO2規制対応で一気に販売モデル数が増えた。規制は強化される一方だから「BEVは儲かる」と考える企業が出てきても不思議はない。自社でBEVを企画・設計し、開発はエンジニアリング会社に委託し、量産もどこかの自動車メーカーに委託するという手段はある。そして、値段が安いほうが勝つ……しかし、うまくゆくだろうか。
TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

技術開発は継続と蓄積こそ力 | 三菱エクリプスクロスPHEVで考える

三菱エクリプスクロスPHEVには、ICE(内燃エンジン)と電動技術の粋が詰まっている。おいそれとは真似できない。

技術開発は継続と蓄積こそ力であり、そこに一日の長がある。そう思わせる例をひとつ紹介する。

三菱自動車は昨年末、エクリプスクロスのPHEV(プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ビークル=プラグインハイブリッド車)を発売した。アウトランダーに続く2車種目のPHEVである。奇しくもホイールベース長はアウトランダーと同じで搭載するエンジン、モーター、バッテリーなどハードウェアも同じ。室内長はアウトランダーより30mm短いだけ。車両価格はアウトランダーよりやや割安。しかしボディのスタイリングはまったく違う。スペック上は「かなり似た2車」だが、キャラクターの違いで売り分けるようだ。

エクリプスクロスPHEVは、日本のモード計測による「電動だけ」での航続距離は57.3kmであり、EUの計算方法だとCO2排出のリダクション・ファクターは(25+57.3)÷25=3.392となり、この数値で「ハイブリッド走行だけ」の場合のCO2排出量を割り算した値がCO2排出量になる。日本も欧州も燃費および排ガスの計測はWLTC(ワールドハーモナイズド・ライトビークル・テスト・サイクル)/WLTP(最後のPはプロシージャー)で行なうが、欧州は車速130km/h以上の「エクストラ・ハイ」領域も計測されるため、同じWLTC/WLTPモードでも日本と欧州の計測結果は違ってくる。エクストラ・ハイ領域は、日本では法定速度を超えるため計測されないのだ。

エクリプスクロスPHEVは。エンジンとフロントモーター 型式:S61 最高出力:82ps(60kW) 最大トルク:137Nm リヤモーター 型式:Y61 最高出力:95ps(70kW) 最大トルク:195Nmを組み合わせる

エクリプスクロスのガソリンエンジン4WDモデルと4WDオンリーのPHEVモデルを比べると、車両重量は370〜380kgの差がある(PHEVの方が重い)。この重量差を担保するためダンパー(ショックアブソーバー)径の大型化などが行なわれた。電動モーターは前軸/後軸にそれぞれ独立して使用され、前軸は駆動および発電用のエンジンからの駆動力も加えることができる。走行時の駆動力制御はアウトランダーPHEVと基本的には同じだが、細部は専用チューニングである。EPS(電動パワーステアリング)の制御はアウトランダーPHEVとも異なる。

筆者は、試乗前には資料の車両寸法と車両重量欄を見ないようにしている。実際に運転してみたときの「重さ感」「サイズ感」から車両重と寸法を推測し、あとで実際の数値と比較するようにしている。エクリプスクロスPHEVは、筆者の見積もりでは1750kg。実際には1920kgだった。その動きの素性から車体が軽く感じた。寸法は、走り出した最初のうちは全長が長く感じ、横幅も大きく感じたが、5分もすると「ん、予想より短くて幅も狭いかな?」に考えをあらため、実寸のデータを見て「うわ〜、やっぱり大きいんだ!」と驚いた。

エクリプスクロスPHEVのメーター。電池の残り表示がセグメント1個になると、その先でバッテリー出力を絞る。SOC(ステート・オブ・チャージ=充電状態は)は充電側が90%、放電側は35%付近がリミットになる。つまり全体容量の55%しか日常は使わない。経年劣化してもクルマを動かせるだけの充電量を確保するためだ。

走らせた感じは、アウトランダーPHEVよりもキビキビ感があるが、SUVらしく「全体に落ち着きがあり」「ロール速度もその戻りもややゆっくりめ」である。EPSは「アシストの立ち上がりが遅れず、しかし焦らず制御過多にならず」。走行モードは「ノーマル」「エコ」「グラベル」「ターマック」「スノー」をそれぞれ試したが、「こんなモードはいらない」というものはなく、それぞれのモードが「ああ、なるほど」と納得させてくれた。できればそのうち「スノー」モードを雪道で試したい。

向かって右が鈴木忠志・商品戦略本部商品評価部主任(プロダクト評価担当)、左が金子真樹・プロジェクトマネージメント本部プロジェクト推進室第2プロジェクト推進室・主任。感染防止対策のためインタビュールームのデスクにはこのようにアクリル製パーティションが置かれていたのでそのまま撮影。

エクリプスクロスPHEVの仕上げの方向性について、鈴木忠志・商品戦略本部商品評価部主任(プロダクト評価担当)と金子真樹・プロジェクトマネージメント本部プロジェクト推進室第2プロジェクト推進室・主任に話を伺った。以下はそのダイジェストである。おふたりの発言はMMCとしてまとめた。

牧野:満載2トンの重量を感じさせない仕上がりです。前軸荷重だけで1トンあるのにEPSの感触もなかなか気に入りました。

MMC:はい。前軸荷重1040kgですが、EPASは路面フィードバックを感じられるよう、意識して手応えを上げています。しかし過敏過ぎないよう配慮しました。

牧野:車両重量に対して気をつけたことは?

MMC:ダンパーのチューニングです。アウトランダーPHEVと同じ仕様のダンパーではダメで、もちろんガソリンエンジン仕様エクリプスクロスのダンパーでもダメです。アウトランダーとの比較では、エクルプスクロスのほうがボディ剛性が高いため、とくにフロントは同じ仕様のダンパーだと前輪荷重になったとき曲がり過ぎてしまうのです。

牧野:ホイールベースが同じで前後重量配分も似ているのに、不思議ですね。

MMC:こうも違うものかと、我われも不思議でした。ダンパーを必要以上に硬くしないで、しかし余分な動きは抑える。そして後軸モーターが後ろから押してくれるときの車体の挙動も自然に、というチューニングです。

牧野:駆動系の制御もアウトランダーとは違うのですか?

MMC:ほぼ同じですが、細部は微調整しています。

牧野:各モードを試してみたのですが、曲がりくねった細い道や、ブラインドスポットの多い住宅街では「エコ」が重宝します。アクセル抜き側で空走せず、低速側の速度管理がやりやすいです。

MMC :「エコ」ではモーターの出力を20%程度落としています。エアコンの作動も緩くしています。電力セーブのモードです。

牧野:「ターマック」モードにするとつねにエンジンが作動しています。

MMC:強い加速をしようとすると「ノーマル」モードでもエンジンをかけに行くのですが、エンジン始動までの時間がもったいないから「ターマック」モードでは最初からエンジンをかけています。ドライバーが求める駆動力にすぐ反応させるためです。かなり速くストッロルを開け、それに合わせて回生ブレーキも強くしています。加速側と減速側との対称性に気を遣いました。

牧野:通常、FFベースのオンデマンド4WDは後軸の駆動力をあまり使わない制御がほとんどですが、エクリプスクロスは積極的に使ってきます。そこはアウトランダーと同じですね。

MMC:せっかくの4WDですから「おまけ」ではダメです。4WDの制御はリヤが強いほうが走りやすいと我われは考えています。そのほうが、より4WDの理想に近くなる、と。これはMMCとしての経験の積み重ねの結果です。

澤瀬 薫・EV・パワートレイン技術開発本部チーフテクノロジーエンジニア。S-AWCやAYCの考案者であり、筆者が取材で会ったドイツやフランスのエンジニア諸氏もドクター・サワセを知っていた。三菱自動車の次世代PHEVあるいはBEVは、3モーターで駆動力制御するスーパーハンドリングマシンになるのでは、と筆者は思う。
4WDの話題になったところで、「Motor Fan Illustrated」誌の取材で何度もお世話になっている澤瀬 薫・EVパワートレイン技術開発本部チーフテクノロジーエンジニアに声をかけた。

牧野:とてもいい仕上がりなので楽しい試乗でした。しかし、開発段階ではどうだったのかな、と。澤瀬さんは何回ダメ出しをしたのかなぁ(笑)。

澤瀬:ほとんどセッティングが出来上がってから試乗したのですよ。十勝の圧雪ハンドリング路で初めて乗りました。今回、私は何もしていないんです。私が言うもの何ですが、乗った瞬間に気持ちよかった。スッとハンドルを切った瞬間に、クルマが体にフィットする感触が伝わったのです。雪の上で、最初のカーブをアクセルを踏まずに定常で20km/hくらいでスーッとゆっくりハンドル切ったとき、ボディが軽々動いた。そこから下り坂を走って安心して、続いて直線路、その先で登り道に入るころには、すでに遊び始めていました(笑)。

牧野:ほお、澤瀬さんがそこまで言うのは珍しいですね。

澤瀬:アクセル操作、ハンドル操作に対してクルマ側の遅れが少ないから直感的に運転できるのですよ。プラットフォームも違いますが、エクリプスクロスはアウトランダーより重心高が10mmほど低いのです。それと、全長が少し短いからヨー慣性モーメントもやや小さい。ボディ剛性が高い。こうした要素はプラスに働いています。何より現場がよく作ってくれました。

以上がエクリプスクロスPHEVを試乗した印象と、筆者から三菱自動車開発陣への質疑と、その回答である。いまのところPHEVは、自動車メーカーでなければ作れない。ICE(内燃エンジン)と電動モーターの両方を使った駆動力制御という領域は、いかにIT企業とはいえ、おいそれと手を出せる分野ではない。三菱自動車は2012年12月にアウトランダーPHEVを発売し、その後も改良と商品開発を続けている。

4WD機構については、第2次大戦中の軍用4輪駆動車(のちのジープ)を手がけた米・ウィリス・オーバーランド・モータースとの提携により1953年に日本国内でのノックダウン生産を開始したときからのノウハウ蓄積がある。1956年からは完全国産に切り替えてミツビシ・ジープとなり、1982年の初代パジェロへと技術がつながる。

そして、4輪で地面に駆動力を伝えるメリットを悪路走破だけでなく舗装路でも発揮させる研究がたどり着いたのは4輪の駆動力統合制御S-AWC(やAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)であり、トルクベクタリング=左右輪間のトルク移送だった。いま、三菱自動車のPHEVはICEと前後独立モーターを使うS-AWCを中心に、これまでICE搭載車で培ってきた技術を電動車に展開している。

では、これがエンジンのないBEVだったら、自動車メーカー以外でも簡単に開発できるのだろうか。たとえば、いまをときめくテスラが自動車事業を立ち上げたときはどうだったのか。

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