Motor-Fan[モーターファン]|自動車最新ニュース・速報、試乗記など、クルマとカーライフを楽しむサイト

  • モーターファンテック
  • モーターファンバイクス[Bikes]
  1. TOP
  2. ニュース・トピック
  3. コラム・連載記事

“ICE(内燃エンジン)の砦”マツダの言い分 エンジンをなくしてしまって、ホントにいいのですか? その3

このエントリーをはてなブックマークに追加

では、マツダはどうする? MX-30ではBEVを作った。2020年末にはPHEVとおぼしき縦置きパワートレーンの写真(低解像度だった)も公表された。そもそも全量xEVなのだから、今後マツダの新車にはかならず電動機構が搭載されるということになる。

「MX-30にはRE(ロータリーエンジン)と電動モーターを組み合わせたレンジエクステンダー(高速距離延伸型)が設定される。HEV、BEV、レンジエクステンダーBEVを同時に成立させるマルチパワートレーン・プラットフォームのモデルとしてMX-30は開発された」

こちらは、2.0ℓ直4ガソリンエンジンであるSKYACTIV-G2.0に24Vのマイルドハイブリッドを組み合わせたパワートレーン
MX-30 EVのパワートレーン。モーターは日立Astemo(旧・日立オートモティブ)、バッテリーはパナソニック製だ。

マツダはこう言う。拡大解釈すれば、ICE主体のモデルとECVをひとつのモデルのなかで成立させ、この手法を全モデルに水平展開するということになる。なかにはBEV専用モデルもあるのだろう。ICE専用仕様(HEVだけ)があるかもしれない。

MX-30のMHEV仕様は、締めすぎない乗り味が良かった。この点は以前、走安性能開発部主幹エンジニアの梅津大輔氏から伺っていた。梅津氏はGVC(Gベクタリング・コントロール)の開発を主導した人だ。

「ハードウェアを追加せず、重量を増やさないで走安性を上げる手段がGVCです。電動モーターという、制御が命の正負駆動力機構の時代だからこそサスペンションはどうあるべきかを考え、リヤサスペンションをTBA(トーションビーム・アクスル)にした。左右独立懸架ではないリジッドサスペンションです。最大の理由はセッティングのパラメーターをシンプルにするということなのです」

エネルギー源はガソリンか
プラグインで充電される電気か

MX-30はMHEV仕様とBEV仕様とでは、乗り味がかなり違う。しかし方向性は同じに思った。MHEVは肩肘張らない「はんなり感」で、動き始めの部分にほんの少しの不感帯というか位相遅れを作ってある。だれが運転してもクルマのリズム感をつかみやすいが、体育会系ではない。BEV仕様はその不感帯の幅、位相遅れの時間をごく短いものにした。ただしリズムは変わらない。快活に、しかし速くなりすぎず節度を持って……という印象だった。

「最初のGVCを開発する段階で、いろいろと計測してみたのですが、ハンドリングにエンジントルクの微妙な増減を加えると、エンジンマウントも含めてプリロードがかかっている部分の位相遅れがなくなっていたのです。タイヤ接地面上の荷重で言うと、ほんの数十Nmくらいの違いなのですが、ゼロ点が違うんです。プリロードがちゃんとかかっているのです。横力などで逃げる部分をなくすことができていた」

BEVではさらにGVCを進化させると語っていた梅津氏がMX-30のBEVで何をやりたかったのか、よくわかった。電動の良さを、怖さを感じさせることなくあらゆる技量のドライバーに味わってもらう、ということだろうと筆者は解釈した。せっかくBEVにするのだから、単にCO2の話だけでなく、ICE車ではできないことをやる。それを商品の価値として提供する。そういうことではないかと感じた。

以下、筆者がMX-30試乗後に梅津氏と交わしたやりとり(リモート会議ですが)を少し紹介しておく。すべて筆者の質問に対する梅津氏の回答である。

「バッテリーをフロアに並べた低重心よりも、車体の中に揺動物があるかないかが大きい。ICEはP/T(パワートレーン=エンジン+変速機)として車体にマウントされて、吊られていて、車体に対して位相が遅れてロール/ピッチする。これを制御するのは難しい。ダンパーのセッティングなどもP/Tの揺れに影響されますし、乗り心地面で言うとP/Tのシェイクに対してダンパーでも対応しなければならない。それと、見逃せないのはガソリンタンク内のガソリンの揺動。これは大きい。ラジエーター水の揺動もある。そういった液体の揺れは、ICE車では「ある」という前提で乗っているが、別な個体が揺れているから位相遅れを感じる。BEVにはこれがない。LiBは剛体だしモーターはがっちり留められる。こういうところのほうが低重心よりも質感に効いていて理想に近付ける効果は高かった」

「モータートルクの制御が走行フィールを大きく左右する。とくにGVCがあるかないかでクルマの動きはまったくちがう。電動GVCはステアリング操作に対し100%、確実に駆動モーターのトルクをコントロールする。そのときにドライバーが出している駆動力️・制動力に対し、切り込んだらモータートルクを減らして前荷重にする、ハンドルを戻すときにはほんの少しトルクアップした後ろ荷重にする。ピッチを後傾させて安定性を高める。これが下り坂でも上り坂でも常時できるので、バネ上のコントロールというか、車両としての一体感は圧倒的にいい」

「前後重量配分はMHEVの60:40(FF仕様)に対しBEVは55:45。ほとんどFRだ。総重量は200kgアップした。ただし低重心で揺動物がないのでかなり微低速域、動き出しの初期はあまり減衰ボリュームを盛らずにすんなり動かせる。高G域では、重たいぶんだけしっかりと姿勢を止めないといけないのでピストンスピードが速い領域では減衰をかなり上げている。ピストンスピードを横軸にとったダンパーのグラフを描くと、普通のICE車に比べてリニアなグラフになる。初期もへんなふうに盛っていない」

「ステアリングスポークについている「+」「−」のパドルは、右側は「登り」「高速巡航」アクセルオフで電流ゼロになるのでコースティングで使う。登りでアクセルオフの回生が強いと車速が落ちすぎてギクシャクする。車速の変動はいちばん電費を悪くするので、そういうときには右のパドルを使う。左パドルはエンジンブレーキ。これも最大0.15Gで、止まるところまではやらない。下り坂用だ。いろいろな勾配走って、勾配対応は2段階欲しいと思った。キツイところで2番目を使う。走行抵抗を変えてゆく概念で作った。これはギヤ段による減速とは違う」

「アクセルオフでの減速は0.15Gが限界だと思っている。理由は、ドライバーが右足を持ち上げたまま待つのはつらいからだ。0.2G以上の制動のときはブレーキペダルを踏んでもらい、ドライバー自身が姿勢を安定させるべきだと思う。もうひとつの理由はクリープ。クリープはパーカビリティと登坂の発進時には安心感を得られるから有益。クリープを付けたら、最後の停止はブレーキペダルで止まることになる。クリープはサウンドも有効で、完全停止のときはトルクを出していないから無音。クリープ時にはクリープトルクに合わせて微小に音を出している。音での認知性を上げている。無音でのクリープは怖い。何となく聞こえる程度の音だが、これがドライバーへのサインになっている」

ICEの砦、ICEの番人のように思われているマツダだが、BEVをしっかりと仕込んできた。その意味では、エンジンをなくしてしまってもいいのですか、という問いに対する答えは「Yes」になる。BEVならではの商品性をマツダは演出してきた。しかし、現実問題としてICEはなくせない。MX-30のマルチパワートレーン展開の中にもICE+電動モーターというMHEVがある。

厳密な計算はしていないが、たとえばドイツへ行ったとしても、発電方法別の発電時CO2を平均化してしまったら、MHEVがBEVに対し圧倒的に負けるということはない。勝てはしないが、いいところまで行く。車両廃棄段階での資源リサイクルまで含めたLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)的視点で語れば、ひょっとしたらトントンかもしれない。しかしEUは、ECV優遇であり、BEVは無条件でCO2排出ゼロだ。(つづく)

大型トラックは電気で走れるか? 大型トラックの「走行段階」だけCO2ゼロは、単なる本末転倒 エンジンをなくしてしまって、ホントにいいのですか?(その4)

エンジンなんてもう古い。時代はカーボンニュートラル。これからの自動車は電気だ——メディアだけでなく世の中の大勢はいまや...

あわせて読みたい

おすすめのバックナンバー

これが本当の実燃費だ!ステージごとにみっちり計測してみました。

これが本当の実燃費だ!ステージごとにみっちり計測してみました。 一覧へ

会員必読記事|MotorFan Tech 厳選コンテンツ

会員必読記事|MotorFan Tech 厳選コンテンツ 一覧へ