カーデザイン豆知識覚えてますかフェラーリJ50 ”J はジャパン、50は50周年！"

2021/03/26
荒川健

今回取り上げるのは、フェラーリが日本進出50周年を記念して10台だけの限定で発売した、完全オリジナルデザインの量産？車なのだ。

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お値段は3億6000万円とのことであったが2016年12月に新国立美術館で行われたプレス発表会時点ですでに完売しており、今ではなんと5億円越えの声も聞かれる。希少なフェラーリを一度手に入れぶつけさえしなければ、値上がりした分でさらに希少なフェラーリを買い、おつりで生活も出来る！なんて不埒な考えをしてはいけない。フェラーリ社は顧客管理が徹底していて、長年にわたる信頼関係を築いた方のみにしかこうした限定車は売らないのである。

デザインは最近注目のフェラーリ社内のスタイリングセンターによるものだ。このJ50も世界最高峰のデザインアワード“レッドドット賞”を受賞、フェラーリ・デザインセンターが手掛けたうち、これまでに史上最多の17台が受賞していることもあり、デザインレベルの高さで世界のカーデザイナー達の憧れの就職先となっている。

息をのむ美しさとカッコよさ

さっそくデザインの詳細を見てみよう。今回の写真はすべて私が撮ったものなのでプロには及ばない点をご容赦いただきたい。
ベースが488スパイダーとのことだが、基本的な鋭くとがったノーズデザインやくびれたドア周辺の造形手法に共通点は有るものの、J50 のほうがはるかに洗練されていて、またディテールの細かなデザイン処理の完成度が高く、台数が少ないスペシャルにありがちな未完成なところが微塵もない仕事ぶりに私は驚いた。

シンプルとは無縁の様々なディテールデザインのアイデアがすべて理にかなっており、複雑さが見事にカッコ良さに直結した稀にみる成功例のデザインではないだろうか。とにかく息をのむ美しさとカッコよさで圧倒されてしまったのである。

私がいつものように細部を解説するよりも、このJ50 の美しさは下手な写真でも数多くを見ていただいた方が何よりだと思えるので、じっくりご覧いただければ幸いである。
こんな美しいクルマは今世紀に何台登場するだろうか？
2019年に発表されたプラグインハイブリッドのSF90もこのJ50の流れをくむデザインで美しいが、実車を間近で見た衝撃が大きかったせいか私はJ50の方がダイナミックな動きが感じられ、またわずかな点で造形のバランスが完璧なように思えるのだ。

なんと21世紀にフィオラバンティの手掛けたワンオフモデル“フェラーリSP1”登場

さて、このJ50 以前にワンオフのビスポーク（特別注文）モデル、SP1が存在したことはご存知だろうか。このクルマについては後日改めてオーナーの許可を頂いてからこのコーナーでとりあげるつもりだ。（2009年1月発売のカースタイリング第188号にオーナーの平松氏のご厚意で私が撮影した画像と記事を掲載させていただいているので、読むことが可能な方は是非ご覧いただきたい。）

簡単にご紹介すると、このSP1は2006年から2008年にかけてフェラーリコレクターとして世界的に著名な平松潤一郎氏がフェラーリ社の当時のCEO、アメディオ・フェリーサ氏に特別の「世界に1台のフェラーリ」製作を依頼、友人である元ピニンファリーナのデザイン・ディレクターだったレオナルド・フィオラバンティ氏（独立してデザイン会社を経営）に依頼してご自分のスケッチをもとにクレイモデルを製作。それを基にフェラーリの社内ファクトリーでたった1台だけ造られたクルマなのだ。

SP1と488GT およびJ50、FS90のデザインは特徴的な類似点が多い。見た瞬間のスタイリングテーマがそれ以前のピニンファリーナのものとは全く異なっていることに気付かれた方も多いのではないだろうか。
実は488GTもピニンファリーナではなく社内スタイリングセンターの作品なのだ。つまり平松氏のアイデアスケッチによって造られたSP1が、時期的にその後にスタートしたスタイリングセンターのデザインに大きな影響を与えているといっても過言ではない。

ちなみに平松氏は子供のころからクルマが大好きで、学生の頃はカーデザイナーを本気で目指そうとした時期があったらしいが、家業を継ぐために経営学を学ぶ道を選んだという。
その後ビジネスで成功し、結果的に今のフェラーリ・デザインに影響を与えるという、カーデザイナーとしての夢もかなえたことになった。