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アプリリア・トゥアレグ 660…….1,540,000円〜(消費税込み)
インディゴタルゲマスト…….1,562,000円
アプリリアのミドルクラスに新規投入されたトゥアレグ。そのネーミングは、1985年に登場したオフロード系250ccモデルに由来している。
ヨーロッパのライダーにとって、地中海を渡った先にあるアフリカの砂漠を走るアドベンチャーツアーは決して夢物語ではない。アドベンチャー系バイクが人気を集める背景には、そんなステージを楽しめるツアーイベントが実際に用意されている事と無関係ではないだろう。
トゥアレグは、そんな冒険シーンを演出するに相応しいモデルとして投入。本格派のオフロード性能を有すマルチパーパスなバイクとされている。
搭載エンジンから推察できる通り、スーパースポーツのRSや同ネイキッドのTUONOと基本的には同じパワーユニットを使用。前後共に240mmものロングストロークを誇るKYB製サスペンションが奢られ、パニアケース装着に対応するヘビーデューティなツアラーとしての基本性能が徹底追求されている。
新設計された高張力のスチール鋼管製フレームに鋳造アルミ製の接続プレートを介し、RSより10度後傾させてて6軸マウントされたエンジンは、4ストローク水冷直(並)列ツイン。右サイドのサイレントカムチェーンで駆動するDOHC4バルブと13.5対1という高圧縮比のシリンダーヘッドを持つ。
クランクは270度位相式を採用。ボア・ストロークは81×63,93mm というショートストロークタイプの659cc。吸気系には電子制御式のφ48mmツインスロットルボディを持つ。 ウェットサンプ式の潤滑方式や機械式スリッパーシステム付きの湿式多板クラッチ、そしてトランスミッションは6速リターン式でAQS(アプリリア・クィック・シフト)に関してはオプション設定。
つまり基本的にはRSやTUONOと同じである。但し240mmのロードクリアランスを稼ぐためにオイルパンはトゥアレグ専用に設計し直されている。
吸気系と排気系、そして電子制御マップもトゥアレグ専用に新設計。RSの諸元データと比較すると、結果として最高出力は100馬力から80馬力(73,5kW/10,500rpmから58,8kW/9,250rpm)にダウン。
しかし最大トルクは67Nm/8,500rpmから70Nm/6,500rpmに向上し、実用域でより大きな威力を発揮すべく、中低速域で柔軟な高トルクを誇る出力特性に変更。走行モードが可変できるAPRC(アプリリア・パフォーマンス・ライド・コントロール)も専用の物が奢られている。
フレームはスチールパイプ製ながら、ロングスイングアームはアルミ製でフルアジャスタブルのKYB製モノショックのボトム部にはプログレッシブリンクが採用されている。
ホイールベースは1525mm。ライバルとなるヤマハ・テネレ700は1595mmあり、全長も含めて車体はテネレよりひとまわりコンパト。車両重量は乾燥で187kg、装備重量で204kg。
フロントフォークはφ43mmのKYB製倒立タイプを装備。ストロークは前述の通り前後共に240mmと十分な長さを誇る。ちなみにテネレのストロークは210mmである。
また燃料タンク容量は18L。テネレは16L。両車の航続距離を、WMTCモード燃費率の諸元値から概算すると約380kmのテネレに対してTUAREGは約450km。本格的アドベンチャーシーンへの備えは十分に大きい。
発表会用に収録された動画によると開発スタッフは、「ロングツーリングやオフロードアドベンチャーフリークはもちろん、日常的な足としての走りにも(性能に)妥協したくないライダー向けに開発した」と言う。
最高の最新テクノロジーを集結させ、「ミドルクラスアドベンチャーのベンチマークである」と自信の程を伺わせるコメントが印象的であった。
シットリと穏やかな走りが心地よい。元気一杯の走りも楽しめる。
写真からわかる通り、試乗車にはアクセサリーパーツのサイドパニアケース左右とラジエター両脇をカバーするチューブラーエンジンガードが装備されていた。
そのスタイリングは、まさにアドベンチャーツアラーに相応しいフォルムを披露。傾斜の少ないフロントスクリーンやナックルガードの装備とチューブレスのブロッパターンタイヤを履いている点からは、いかにもそれらしい雰囲気が醸し出されている。
排気量や車格(価格)的にヤマハ・テネレ700やBMW・F850GS等がライバル。斬新なフロントマスクや堂々たるボリューム感、そして足が長く十分なロードクリアランスを稼ぐフォルムはなかなか立派である。
早速股がってみると、足つき性が良い。テネレ700と比較すると車体はひとまわりコンパクト。平地なら両足の指の付け根でしっかりと地面を踏ん張ることができ、乗り降りを含め発進停止の多い市街地でも扱い易い。
主要諸元にあるシート高の値で比較すると15mm差に過ぎないが、足つき性チェックの写真を参照頂ければわかる通りトゥアレグはかなり楽。この違いにより気楽に乗り出せる点は好感触。立ちゴケに対する不安でビクビクする機会が少なくて済むのである。
ただ、バイクを起こす時や押し引きして取り回す時の感触は少々重め。パニアケースを取り外してもチェックしてみたが、フロントまわりの荷重が多い(重心が高い?)ような手応えを覚えた。 諸元値で1kg重いテネレの方が、扱う感触はむしろ軽かったと記憶している。
例えば足場の悪い林道で切り返しUターンをする様な時、足付き性が有利なのにも関わらず、グラッと来る重い手応えに気持ちがビビッてまいかなり慎重になる事があった。しかしそうした扱いの重い感覚には、実は良い面もある。
まず走り始めてしまえば、つまり車輪が少しでも転がり出せば、ハンドルがワイドで、操舵力そのものはとても軽くてスムーズ。扱いが重く感じられた要素は、むしろしっとりと落ち着きのある快適な乗り味に貢献してくれる。
実際「こいつは遠くまで行けそうだ」と思えたのがスタートした直後の第一印象。ミドルクラスながら、より大きなモデルに乗っているかのような、安定した心地良さがある。
当初ライディングモードは穏やかなUrbanを選択。通常の一般走行や優しく走りたいタンデムランにお薦め。このAPRC(アプリリア・パフォーマンス・ライド・コントロール)は、他にExploreとOffroadモードがある。
前者は持てる実力を遺憾なく発揮するフルパワーモード。後者はオフロード走行に特化してトラクションコントロールやエンジンブレーキのレベルを最小限に抑え、リヤブレーキのABSもOffされる。
さらにそれら電子制御の設定を自由にカスタマイズし好みのプリセットを可能とするのがIndividualだ。
Arbanで走り始めた事もあって、RSやTUONOとの出力特性の違いは明確に体感できた。まさに別物のエンジンに乗る印象である。
端的に違いを表現すると、シフトダウンを不精して2,000rpmを下回るようなラフな使い方をしても、エンジンは平然とそれに応えてくれる。ともかく優しく柔軟な底力を発揮するトルクが粘り強く、強かな加速力を簡単に発揮してくれた。
例えばRSで同様な使い方をすると、エンジンが「もっと弾けさせてくれ、ちゃんと爆発(燃焼)させてくれ」と少々苛ついた雰囲気になる。要はきちんとシフトダウンをして、ある程度エンジン回転を高めて上手にパワーバンドに乗せて欲しいと訴えて来るわけだ。
一方トゥアレグではおおように構えた図太さのあるレスポンスを発揮し、それがより大きな排気量のバイクに乗る様なユトリを感じさせてくれる。
実際6,500rpmで最大トルクの70Nmを発揮するエンジンは、約3,000rpmで既に約52.5Nmを発揮。4,500rpmも回せば59,5Nmの高トルクを絞り出すと言う。常用回転域でいかに高トルクを誇るエンジンなのか納得である。
前述の落ち着きのあるハンドリングとそんな出力特性が絶妙のマッチングを魅せ、旅道具として遠くまで走り続けられる快適性に貢献。さらに言うと遠くへ出かけて見たい気分になってくるのである。
タイトな峠道を行く時もコーナーへの倒し込み具合は決してシャープではないが、フロント21インチサイズのブロックパターン・タイヤを装着したバイクとしては、扱いが素直でリーン(左右へ傾く動き)は落ち着きのある挙動に終始する。
それがまた、ライダーの気持ちにユトリを生む。直進安定性もしっかりしており、オートクルーズコントロールも標準装備されていて高速ロングツーリングも快適。
スタンディングポジションで前後体重移動も扱いやすく、ライディングテクニックさえ備えていれば、海外のデザートツアーへ参加してみたい気分になってしまう事は容易に理解できるのである。
今回の試乗は120km程度だったが、復路は ライディングモードをExploreに変更してチェックした。キャラクターの変貌ぶりには、ちょっと驚かされてしまうほど。
それは俊敏にレスポンスするRSやTUONOのエンジンを彷彿とさせるメリハリの効いたダイナミックさで、まさに本領発揮。生き生きと元気の良い走りが楽しめたのである。
全体的なギヤ比が、やや低めに設定されている事も相まって、右手のスロットル操作に対してそれはもう鋭いピックアップを披露し、グイグイと強烈な動力性能を発揮できる。その変貌ぶりにはインパクトがある。
ローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードは39km/h。6速トップギヤで100km/hクルージング時のエンジン回転数は4,600rpmだった。スロットルひと捻りでグイッと前方へダッシュする瞬発力は侮れない。
試乗車にはクイックシフターも装備されていたので、2-3-4速を頻繁に往復させる様なコーナーの連続も小気味よく走れ、その一級レベルにある速さにもワクワクさせられた。
エンジンからの熱気上昇が気になったものの、全体にゆとりと落ち着きが感じられた点が印象深い。長いサスペンションストロークが悪路や段差の通過でも高い衝撃吸収性を発揮して快適な乗り心地を提供してくれた点も見逃せないチャームポイント。
本格的なデザートを走りに行けない日本では荷物を沢山積載してタンデムでロングツーリングに使うのが相応しい。それが正直な感想だが、たまにはフルパワーモードで元気良く爽快な走りをエンジョイできる、ヤンチャなキャラクターもまた魅力的なのである。
足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)
ご覧の通りアドベンチャーモデルとしては、良好な足付き性。シート高は860mm。両足の踵は浮いているが、指の付け根で地面を踏ん張ることができ、平地で扱う限り不安は無い。車体はズッシリと重く感じられ、傾斜地やオフロードで支えるのは慎重になる。
参考:足つき性チェック(ヤマハ・テネレ700)
ヤマハ・テネレ700の車体は一回り大きいがスマートで扱う感覚も軽い。
シート高は875mmと高い。ご覧の通り足つき性は爪先立ちになる。