現代の技術でクラシックバイクのテイストを再現すると、こうなります。|ベネリ・インペリアーレ400は、楽しさと完成度の高さ、コスパをバランスさせたシングルだった。

シングルエンジンには様々な魅力がある。シンプルかつ軽量にすることができ、低速域など実用回転域でのトルクが太くて扱いやすいエンジン特性になり、部品点数が少ないので価格も比較的手頃なマシンも多い。近年、シングルエンジンを搭載したモデルが色々なメーカーから投入されているのも、こういった点が現在のライダーのニーズと合致しているからだろう。ベネリ インペリアーレ400はまさしくそんなマシンである。

ベネリ・インペリアーレ400……668,800円(消費税込み)

現代の技術でクラシックバイクのテイストを再現

今回紹介するインペリアーレ400はベネリ製だ。1911年にイタリアで生まれたベネリは戦前から優れた性能のマシンを生み出し、レースでも数多くの伝説を生み出したブランドである。2005年に中国のQJグループとなり、2016年にボルボやロータスを傘下に収める巨大企業GELLYの資本参加を受けたことにより、マニアックなマシン作りで知られていたイタリアのブランドと強大な資本、生産能力が組み合わされ、個性的なマシンを次々と発表している。

インペリアーレは元々1950年代に存在した小排気量マシンだが、現在のインペリアーレはこのモデルをオマージュしたわけではなく、受け継がれたのは名前のみ。新規にデザインされたマシンではあるが、1950年代の雰囲気を上手く作り出している。空冷の単気筒エンジンはレトロな造形でシリンダーが直立したデザイン。ダブルクレードルフレームにツインショックという車体構成など古き良き時代のシングルそのままといった構成だ。

ストリートの楽しさを追求したシングルエンジン

インペリアーレ最大の魅力はなんといってもエンジンである。φ72.7mmのボアに対して90mmというロングストロークの設定とし、4バルブではなく低中回転で充填効率が高い2バルブのSOHCを採用。空冷で圧縮比は8.5:1に抑えられている。高効率を追求するのではなくシングルのテイストを重視した設計である。

最大トルク29Nmを発生するのは4500rpmだが、低回転からフラットに力強いトルクを発揮しているから、どの回転からでもスロットルを開けたらや同じように加速してくれる。走り出してすぐに感じるのは大きなフライホイールマスによる扱いやすさ。シングルエンジンにとって、フライホイールマスはエンジンの特性に大きく影響する。大きなフライホイールマスは粘り強さと滑らかさを生み出し、スロットルレスポンスに対するエンジンのツキがおだやかになり、エンストしにくくなるから低回転でスタートする時も神経を使わずにすむ。

必要以上に大きなフライホイールマスは、エンジンのフィーリングをダルにしてしまうが、インペリアーレはこのあたりの設定が絶妙だ。ノンスナッチ(回転を落としてもギクシャクしない回転数)は高いギアでも3000rpm付近。ここからスロットルを開けると息つきを起こすこともなく、シングルの鼓動感と歯切れのよい排気音とともに加速していく。メカノイズや不快な振動がない為、シングル特有の鼓動感がダイレクトに伝わってくるし、このくらいの低回転を使っていても十分すぎるくらいのパワーがあるから、ストリートでは4000rpmくらいまで使っていれば、常に心地よい加速感に浸ることができる。

低中速を重視したシングルの場合、高回転まで引っ張ると振動が増え、苦しげに回るイメージを持っていたのだが、インペリアーレは違った。嬉々として上まで回っていくような性格ではないにしてもスムーズにレブリミットまで回りきってしまう。高回転で振動が増えることはなく、無理をして回っている感じがしない。これは本物のクラシックバイクでは真似のできない部分だ。インペリアーレのようなマシンをストリートで走らせていると、低中速を多用することになるので高回転でのフィーリングは忘れられがちだが、ツーリングなどで高速道路を走る時は高回転を使わざるを得ないこともある。そんな時にストレスなく走れることができる特性は非常にありがたい。

安定感を重視した19インチのハンドリングがストリートライディングを楽しくする

ハンドリングは、フロント19、リア18によるゆったりとした味付けになっている。スポーティではないが乗りやすくて安定性が高く、過敏さがないので安心して走ることができる。足回りも実用速度域を考えた設定になっていて、フロントフォークやレイダウン気味にセットされたリアショックの動きも良く動いてショックを吸収してくれるし、ブレーキも十分な制動力を確保しながら過敏さがなく、安心してブレーキレバーを握り込んでいくことができる。

シングルのバイクとしては若干ハンドリングに粘りがあり、バイクを倒していった時にステアリングに若干舵角が強めにつくのは車体に対して太めのタイヤが装着されているからだろう。これくらいの車格、パワーなら、もう少し細いタイヤの方が軽快なハンドリングになるはずだから、もしも自分の愛車なら試してみたいところである。

Uターンが簡単なのもストリートでは嬉しいところ。スリムなフレームに正立フォーク、オフセット量の多いステムだからハンドルの切れ角も十分に確保されている。車体がスリムで脚付きも良いし、エンジンも十分なフライホイールマスによって低回転域でのシビアさがないのでバンクした状態でパワーを使い、車体をバランスさせるのも容易。だから思い切った小回りも得意なのである。

旧車好きなテスターとしては、シングルならクラシックバイク、という思い入れが強いのだが、インペリアーレは実際に乗ってみて、とても良いバイクだと感じた。エンジンのテイストにうるさいベテランライダーをも満足させる味わいがあるし、現代の道路事情を考慮した動力性能、走行性能、快適性を十分に確保している。ビギナーでも臆することなく走り出すことができるフレンドリーさもある。しかも手に入れやすい価格。色々な人に乗ってみていただきたいと思うマシンである。

スリムな車体で足つき性は良好(身長178cm 体重78kg)

上体がほぼ直立するポジション。ストリートでは疲れが少なく、セミアップタイプのハンドルを操作しやすい。その反面、高速道路では風圧をもろに受けることになる。

車体がスリムなのでミドルクラスのロードモデルとしては足つき性良好。車体もさほど重くないは幅の広いハンドルはマシンを支えやすく、取り回しも容易だ。

クラシック感を演出するマシン作り

クラシカルな雰囲気を醸し出すメーター。オド、トリップ、燃料計、ギアポジションに各インジケーターを見やすく配置している。

ステップは固定式。回転を上げて走ってもブーツに伝わる振動は多くない。

レイダウンして取り付けられたリアショック。ストリートの走りを考えてソフトな設定になっている。小型のサブタンクは目立たないがサスのダンピングを安定させる効果を持っている。

端切れの良い排気音を奏でるキャプトンタイプのマフラー。音量は抑えられているがライダーの耳には常に心地よい排気音が聞こえてくる。

シートは前後で分割式。フロントのみスプリングで支持される。スポンジは十分な厚みがある。タンデムライダーの乗り心地も悪くない。

燃料タンクは容量12リットル。細身だがニーグリップラバー部分は体にフィットする形状になっている。

バイプハンドルはセミアップタイプ。幅が広いので軽い入力でマシンをコントロールすることができる。

フロントブレーキは片押し2ポット。絶対的な制動力は十分に確保しながらも過敏すぎず、ストリートで非常に扱いやすい特性になっている。

主要諸元

全長×全幅×全高  2170mm×820mm×1120mm
軸間距離  1440mm
最低地上高  165mm
シート高  780mm
車両整備重量  205kg
エンジン形式  空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ
総排気量  374cc
内径×行程  72.7×90.0
圧縮比  8.5:1
最高出力  15.5kw/5500rpm
最大トルク  29Nm/4500rpm
始動方式  セルフスターター
トランスミッション形式  常時噛合5速リターン
タイヤサイズ(前)  100/90-19
タイヤサイズ(後)  130/80-18
燃料タンク容量  12.0L

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