目次

BMW・F900 GS…….2,043,000円(消費税10%込み)〜





カラーバリエーション
BMWのFシリーズは1993年に登場したF650に始まっている。当時同社の主力エンジンはクランクを縦に置く伝統的ボクサーツイン(水平対向2気筒)とシャフトドライブ機構に確かな評価と人気があり、新規投入されたFは当時唯一の単気筒エンジンにチェーンドライブという点でも新鮮な話題を提供した。
ブリッジ付きのアップハンドルやシートと面一につながるリアキャリアを装備。フレームマウントのヘッドランプとミニスクリーンを持つ。スマートな車体にタンクと一体化するカウルデザインやダウンタイプのフロントフェンダーなど、オフロード系の基本フォルムを備えながらも、どこかモダンで洗練された外観デザインを誇っていたのである。
オーストリアのロータックス製エンジンを搭載し、イタリアのアプリリア工場で生産される異色モデルとしても話題に登ったが、何よりもBMW製品の敷居をさげる親しみやすい存在として認知された。
当初はFunduroと命名された新ジャンルモデルとして投入。時代の流れと共に都市型コミューター的なトライ(ベルトドライブのF650CS)を経てクロスオーバーモデルの様相も披露したが、現在は同GSを筆頭にミドルクラスを象徴するモデルとなっている。F800から2気筒エンジンを搭載したルーツや機種展開に関する変遷の詳細は割愛するが後により親しみやすいシングルスポーツとしてG310RとG310GSを新規投入。本流Fの現在は900Rと同XR。そしてF800GSと今回のF900GSの以上4機種がリリースされている。
前述の通り初代のF650は単気筒から始まっている。現在は2気筒に移行して3代目のエンジンを搭載。当初798ccでスタートした前傾直(並)列DOHCの水冷ツインは、853ccを経て現在は894cc に拡大。
ボア・ストロークは86×77mmのショートストロークタイプ。270度クランクが採用されており、最高出力は先代エンジンより10ps向上の77kW(105PS)/8,500rpmを発揮。最大トルクは1Nmアップの93Nm/6,750rpmを誇っている。
振動を打ち消すためにクランクと逆回転する2本のカウンターバランスシャフトを内蔵しスムーズで快適な回転フィールに調教されている点も既に定評がある。
従ってエンジンは、シェル構造と言われるスチール製ブリッジタイプフレームにリジッドマウントされ、エンジンブロックそれ自体も車体の剛性メンバーに加えられた合理的な設計がなされているわけだ。
各種電子制御技術が最新のものに刷新される一方、従来モデル比でなんと14kgもの大胆な軽量化を果たしているのも見逃せない。右出しのアップマフラーは、アクラポヴィッチのチタン製スポーツサイレンサーが標準装備され1.7kgの軽量化。14.5L容量(従来比0.5L減)の燃料タンクはスチール製からプラスチック製に換装されて4.5kgも軽量化。ボルトオンされたリアフレームも新設計され、車体後部全体で2.4kgもシェイプされたそう。車両重量は走行可能状態で219kg。ちなみに弟分であるF800GSの車両重量は同じく227kgなのだから、軽量化の徹底ぶりが理解できるだろう。
21インチサイズ・ゴールドリムのクロススポークホイールを支持するフロントフォークは中空シャフトを使用するリーディングアクスルタイプ。φ45mmの倒立式フォークはSHOWA(Astemo)製フルアジャスタブルタイプでチタニウム・ナイトライド・コ-ティングが施されている。
一般にSFF(セパレート・ファンクション・フロントフォーク)と呼ばれるタイプが採用されており、トップエンドにあるそれぞれのアジャスターでスプリングプリロードと、左が圧側、右が伸び側の減衰調節ができる。どちらもアジャスターダイアルを時計回りいっぱいまで回した所から10クリック戻したところが標準設定だ。
一方エンデューロパッケージProの装備に採用されたリアのモノショックはSachs製のフルアジャスタブル。プリロード調節は車体左側にセットされた油圧リモコンダイアルで調節できる。ショックユニット下方のアジャストスクリューでは伸び側の減衰調節が、車体右側から上方の調節ダイアルでは圧側ハイ/ロー2種の減衰調節ができる。
その他シフトペダルは位置調節が可能。クィックシフターのタッチも熟成されたそう。LED製の灯火類もリファイン。キーレスライド(スマートキー)やクルーズコントロール。タイヤ空気圧センサーやグリップヒーターも標準装備。6.5インチTFTカラーディスプレイの直ぐ上には、ナビゲーション等の取り付けに対応するホルダーも装備。その他アルミニウムケースなど純正アクセサリー装着への対応も充実しているのである。
適度に感じられるエンジンと車体の逞しさが魅力的。

ミドルクラスのGSであることは承知の上だが試乗車を目前にすると車体全体の堂々たるたたずまいには、圧倒される感じを受けた。とは言え最高峰のR1300GSで覚える威圧されるまでのボリューム感と比較すると、ずっとスマートである。
早速跨がると、やはり車体は大柄でシート高は高い。足つき性チェックで示す通り、筆者の体格ではサスペンションの沈み込みは少なく両足が爪先立ちとなる。腰をしっかりと立てて、背筋を伸ばし膝も伸びきる状態故、バイクを支える上で不安を抱きそうだったが取り扱いの軽さに意外な親しみやすさを覚えた。
高い位置にセットされたワイドなアップハンドルにスリムな仕上げの車体デザインと軽量設計が奏功し、引き起しや車体を取り回す時の扱いやすさが好感触。
つまり立派なフォルムの割に手ごわさは小さい。少なくとも平坦な舗装路で乗る上で不安は感じられない。また本格的なオフロードランに出かけるような時、最高峰のR1300GSとどちらか選べる状況だった場合、筆者なら間違いなくF900GSを選択するだろう。
R1300GSにはもともと憧れを持っているが、実用性や価格面への考慮を含めて現実味のある(身の丈にあう)選択をするなら、迷わずFを選ぶと思えたのが正直な第一印象だ。
なぜなら、転倒やスタック等のトラブルに見舞われた場合でも、ギリギリとは言え何とか自分でも対応できそうな感触を覚えたからである。
エンジンを始動しスタートすると、目線位置の高い見晴らしの良い乗り味が快適である。右手のスロットルをワイドオープンして行くと穏やかで優しい感触のレスポンスながら、そのトルクフィーリングは逞しく、実に頼り甲斐がある。
「穏やか」と「逞しく」は相反する言葉に思われるかもしれないが、低速域から高速域までエンジン回転数を意識せず即座にグイグイと加速できるポテンシャルは一級。8,500rpmからのレッドゾーンにも難なくかつスムーズに飛び込んで行く様も気持ち良い。
それでいて過激さは抑えられ、常にマイルドなトルク変動でリヤホイールに思い通りの駆動力を与えていける扱いやすいエンジン特性が優秀だ。つまり「穏やか」という文章表現の中に非力感は皆無なのである。
ちなみにローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードは45km/h。6速トップギアで100km/hクルージング時のエンジン回転数は4,000rpm弱だった。市街地から郊外や高速、あるいは日本的な林道走行でもライダーの意志(操作)に対して忠実に生き生きと走る。前方視界の広さや巧みなウインドプロテクションを含めて走行フィーリングはとても爽快。
前後サスペンションもフットワークが良く、路面のギャップを拾った時のゴツゴツ感が巧みに吸収されていた。今回は舗装路のみのミニ試乗だったが、長距離や凹凸の激しいダートランでも大柄なライディングポジションと相まって快適な乗り心地が得られることは間違いない。
前後ブレーキもタッチが軽く、効き味が自由自在になる扱いやすさも優秀であった。グリップヒーターやETC、クルーズコントロールも標準装備され、サスペンションやマフラーに見るプレミアム装備の充実ぶりも魅力的な仕上がりであった。
足つき性チェック(ライダー身長168cm / 体重52kg)

ご覧の通り、両足は爪先立ちとなる。シート高は870mm。停車時の扱いは慎重になるが、平地で扱う限りバイクを支える上での不安感は少なかった。純正オプションのハイシート(68,090円)に換装するとシート高は890mm。逆にローシート(64,900円)のシート高は835mmだ。