日本人の体格にもフィットする、程よいサイズ感。KTM・390DUKE試乗記

全体的なスタイリングイメージこそ踏襲されているが、フレームを始め搭載エンジン、前後サスペンションやホイールに至るまで、2024年に全てが一新された390 DUKE。その仕上がりは中型免許で乗れるホットなシングルスポーツに相応しい元気の良い走りを楽しませてくれた。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●KTM Japan 株式会社

KTM・390 DUKE…….829,000円(消費税10%含む)

エレクトロニック・オレンジ

カラーバリエーション

アトランティック・ブルー

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2023年モデルとの比較

2023年型 390 DUKE…….765,000円(消費税10%含む)

2024年型 390 DUKE…….829,000円(消費税10%含む)

新世代LC4cエンジン。コンパクト設計が追求されている。

かつてKTMは、オフロード系にめっぽう強いブランドとして知られていた。もちろん他にもバリエーションはあったが、コンペティションモデルに近い少量の機種が輸入された日本市場においてKTMは極めて高価で高性能な存在として認知されていたのだ。
何しろそれは競技用モトクロスマシンに前後ランプやメインスタンドが装備された、レゴラリータ(エンデューロマシン)タイプで、公道走行用の一般的な量販車とは比較にならない、レベルの高いポテンシャルを発揮するホットなモデルとして憧れられていた。
そんな競技車を主体としたブランドイメージから明確に舵を切り、量産車メーカーへの脱皮を果たすことに大きく貢献したモデルが、ネイキッドバイクとして新規投入された「DUKE」だったのである。      
現在、KTM(2輪)のバリエーションはコンペモデルも含めて9種にも及ぶ豊富な展開。中でも登場30周年を迎えたDUKEは2023年モデルも含めると125~1390までなんと11機種が揃えられ、その内2024年型最新モデルは250~1390までの5機種が投入されている。
1990年代なかばからオーストリアで同社の新機種開発を担う「キスカデザイン」の参画を機に始められ、今ではすっかり定着したオレンジのコーポレートカラーを身にまとうフォルムは、見るからにエネルギッシュな仕上がりを披露する。

今回の試乗車もその外観から、一目で同社製品であることがわかる。ちなみにカラーバリエーションの異なるアトランティックブルーでもホイールやフレーム等のオレンジがアクセントカラーとして際立っているのだ。左右横向きの広報写真4点を揃え、2023年モデルとの比較写真を掲載したが、2024年最新モデルはオレンジカラーの配色がより強調されている。さらに見逃せないのは、細部にわたり軽量化設計が徹底的に追求されている点にある。
先ずアルミキャストホイールは、黒い10本スポークタイプだった2023年モデルに対して新型は回転方向に若干のひねりを加えたオレンジの細い5本スポークタイプに変更。アクスルシャフトも大径の中空タイプが新採用されていた。左サイドから右サイドに移設されたフロントのシングルディスクローターもハブ部ではなくスポーク部にマウントされるリング式ローターに換装された。いずれも軽量化へのこだわりが、そこに見て取れるわけだ。
オレンジのトレリスフレームも新設計。スチール鋼管もサイズと剛性バランスが見直され特にリアピボット部がワイド化された新デザインが印象深い。ボルトオンされたリアフレームもアミダイキャスト製になっている。
車体サイズは特に変化なく、1357mmのホイールベースも新旧ほぼ共通である。ただタンク周辺のボリュームが若干大きくなった。実際タンク容量は13.5Lから15Lへと大型化され、見た目にもよりマッシブな印象を受ける。ちなみに車体関係やホイールはカラーリングの違いこそあれ、250 DUKEと基本的に共通である。
タンク両サイドから前方に伸びる大型化された左右シュラウドの内側には水冷エンジン冷却用のラジエターが装着されている。冷却系のクーラント容量を1.2Lから1Lへ減少させたのも軽量化への配慮が伺えるが、前面投影面積に対して実質的な表面積を大きくとれる湾曲タイプ・ラジエターの新採用で、放熱効率の向上も施されたわけだ。いずれも軽量化設計を徹底していることが伺え知れるのだ。
前後に装着されたWP製のサスペンションも熟成。リアのスイングアームも新設計され、白いコイルスプリングを採用したモノショックユニットはより前傾マウントされた。直立を90°と表現すると、2023年型は前傾50°だったが、2024年型はさらに寝かせて前傾30°搭載。しかも右サイドにオフセットマウントされたのが新しい。ショックユニットはプリロードと伸び側の減衰調節ができる。一方φ43mm倒立式のフロントは右が伸び側、左は圧側それぞれの減衰アジャスターを装備。前後共に150 mmのサスペンションストロークが稼ぎ出されている。
そして「LC4c」と呼ばれる新作エンジンは水冷の前傾シングル。DOHC狭角の4バルブを右側カムチェーンで駆動する398.7cc。2023年型はボア・ストロークが89×60mmの373ccだったが新型はストロークが4mm伸ばされた64mm。いずれもショートストロークタイプに違いはないが、少しスクエアに近づけられた。
シリンダーボアに変更はなく、吸排バルブの傘系も変わらずφ36mmとφ29mm。カムレバーと呼ばれているロッカーアームを介してバルブを駆動する方式にも変更はない。ただ燃焼室が一新されて圧縮比は12.54対1から12.59対1へと微妙に高められた。またピストンはアルミ鍛造品を採用。
結果的に最高出力は32kW(44ps)から33kW(45ps)に、最大トルクは37Nmから39Nmへ向上。排出ガス規制適合に加えてパフォーマンス向上の両立が図られた模様。ホームページの資料によると車両重量も半乾燥データで150kgから149kgに軽くなった。
この他6速ミッション及び二次減速のレシオは同じだが、1次減速比が2.667から2.606へ高められた。またクィックシフターを標準装備。電子制御式スロットルはライドモードが選択可能に。発進加速で強みを発揮するローンチコントロールも奢られているのである。

走りが生き生き。丁度良いオールラウンダー。

のっけから結論を書くと、とても魅力的なバイクだった。筆者の体格や好みとピタリと合ったのもその要因のひとつだが、何よりも刺激的な高性能が気軽に発揮できてしまう。ごく普通の常用域でもバイクを扱う醍醐味が存分に楽しめてしまったからである。
試乗車を目の前にすると、タンクまわりのボリューム感がいくらかゴツく感じられたが、いざオレンジのシートに跨がると、ニーグリップ部が適度にえぐられた車体のデザインはスマートでしっくりと良く馴染む。
シートクッションも適度な硬さがあり、張り具合もしっかりとして、体重移動がし易い。例えば派手に腰を落とすハングオンの態勢でコーナリングするようなシーンでも、前後左右への移動がしやすく、外足の膝裏を引っかけるのも容易。伏せ気味の姿勢でも姿勢を安定しやすく、積極的にスポーツ走行する乗り方でも扱いやすかったのだ。
ごく自然とマン・マシンの一体感を得やすい乗り味は、ネイキッドスポーツとしてそのキャラクターを際立たせている。しかもそこにはエキサイティングな走りへの予感を漂わせている感じもうれしい。
400ccクラスのバイクとして車体サイズは決して大き過ぎない。足つき性チェックに掲載した写真の通り、両足は踵まで地面を捉えることができるし、片足で支える時も、車重は決して重過ぎず、乗り降りや取りまわしなどの扱いにも不安は感じられない。そんな適度なスケール感が親しみやすいのである。
ハンドルを手に取り、そしてシートに跨がりスタートさせた瞬間から、なんだか以前から愛用していた慣れ親しんだバイクの様に安心して扱え、手ごわさを感じない点に好印象を覚えられるわけだ。直感として手の内に納められる(制御できそうな素直な)感覚と、過激過ぎない適度なエンジンパフォーマンスも見逃せないだろう。           
始動直後の冷えている時は、3,000rpm以下でのトルクが少しばかり非力に感じられることはあったが、暖機後は発進操作や低速走行でもスムーズで粘り強さにも不足はない。クランクマスが軽い感じで、ショートストロークエンジンらしくシャープに吹き上がる出力特性は一級。軽快かつ歯切れの良いリズムで、右手のスロットル操作に対して力強くレスポンスする様は実に元気が良い。
市街地でも峠道でも反応の良い俊敏な出力特性は常に生き生きとした乗り味を楽しませてくれ、それを操るライダーのマインドも“はつらつ”とした気分へと、一気に若返ることは請け合いである。
回転計のレッドゾーンは9,500rpmからだが、3,000rpmからのトルクには図太さを感じ、5,000から7,000rpmまでのパンチ力はなかなかの迫力が伴う。クロスミッションを生かして順次早めにシフトアップしていく時の加速性能は爽快かつ一級のポテンシャルが光る。
スムーズな回転の伸びもあって、上まで引っ張ると8,500rpmからはメーター照明全体がオレンジに変わるし、トルク特性を無駄なく活用するなら7,500rpm当たりでシフトアップしていく操作が効率的。クイックシフターの操作フィーリングもなかなか小気味よい。
車重が軽いこともあってその動力性能は侮れない。追い越し加速やコーナー立ち上がりでの機敏な動きは上級ミドルクラスに匹敵。市街地から郊外、峠道から高速道路まで、まさに十分なハイパフォーマンスが楽しめる。
操縦性もクィックな操舵レスポンスを発揮しタイトなコーナーが続くワイディング路でもすいすいと軽快に抜けて行ける。キャスターアングルが1度立てられて64度になったことや少しワイドなハンドルバーも相まって操舵フィールの軽快さも抜群。
思わずハイスピードで各コーナーを抜けてみたい衝動にかられるほど、走りはワクワクと元気になれる。250ccクラスでは決して叶わないエキサイティングな走り。冒頭に記した通り、気分も高揚するその生き生きとしたエンジンフィールと操縦に対するレスポンスが実に元気良いのである。
ブレーキ操作で、急制動時にはやや強い握力が要求されたが、前後共にコントロールはしやすい。前後サスペンションのフットワークもなかなかの仕上がりだが、荒れた路面では特にリアの動きにより柔軟な衝撃吸収力を望みたい気にはなった。
いずれにしても一般的な舗装路を走る限り優秀な出来ばえである。少しだけ気になったのは、高速連続走行でハンドルバーに微振動が発生していたこと。もっともそれは走行中は気になるレベルではなかった。
ちなみに6速トップギアで100km/hクルージング時のエンジン回転数は6,000rpm弱だった。
手頃な車格感とどんな場面でも不足のないハイパフォーマンスは、日本で使う万能スポーツとして「欲しい」と思わせてくれる1台なのである。

足つき性チェック(ライダー身長168cm/体重52kg)

シート高は820mm。スマートな車体も相まって、足つき性が良い。ご覧の通り両足は踵までべったりと地面を捉える。車体を支えるのも軽く扱いやすさが直感できる。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…