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カワサキ・MEGURO S1…….720,500円(消費税10%含む)





2021年2月K3の投入で実現された「メグロ」ブランドの復活劇。2024年11月に新発売された今回のS1はその弟分にあたる同ブランドの第二弾である。
搭載エンジンは232ccの空冷単気筒。広報資料によると60年前に存在したカワサキ250メグロSG からの系譜を受け継いだメグロの正統な後継モデルという。解説文の一部を引用すると“立体的な「MEGURO」エンブレムが100年の歴史とスタイルを受け継ぐレトロクラシックモデル、メグロであることを示しています。”と記されていた。
ここに名前のあがったメグロ250SGは上に掲載した写真のモデルである。これは1961年、川崎航空機工業と資本提携後の「カワサキメグロ製作所」を経た後にメグロブランドを引き継いだ「川崎重工業」が明石工場で生産した1964年モデルだ。
メグロは戦前から有力メーカーのひとつとして知られ終戦後はレース活動も含めて精力的な新機種開発を展開。SGに至る250ccモデルではOHVエンジンを搭載するジュニアSシリーズ(1953~1962年)が侮れない評価を集めたそう。それは進化熟成を重ねS8まで発展した。
その後継モデルが18ps/7000rpmの最高出力を発揮するOHVエンジンを搭載したカワサキ・250メグロSGだったのだ。ちなみにダブルシートを標準装備したスポーツタイプのSGTも投入されていた。
戦後はバイクを製造する会社が多数誕生したが1960年代は淘汰の時代。バイクに対する市場ニーズも移動や運搬に活用された商業用途の多くが軽四輪に移行し二輪車は趣味として乗るスポーツバイクが模索されていったのである。
もうひとつ余談を挟むと、カワサキは1992年に「エストレヤ」という249ccOHC単気筒エンジン搭載車をリリース。当時ライバル無き独自の魅力を誇った。
66×73mmというボア・ストロークがSGとほぼ共通するロングストロークタイプのエンジンと蔵型シートの採用はまさに「メグロSG」の再来と言える存在感を誇り、穏やかで逞しい独特のトルク感が、実用域で豊かな乗り味を提供してくれた。
当時筆者はエストレヤの紹介記事中に「メグロ時代からのブランド力が活かされたら、商品力はより高いもにになっていたハズ。ちょっと惜しい気もしたが、今後の商品戦略に期待したいところ。」と綴っていた。
開発リーダーの高谷聡志さんにお話を伺うと「エストレヤも含めてロングストローク・エンジンにあった乗り味と、メグロらしい力強いスポーツ性を意識しました。」と言う。
開発陣が実際にSGやエストレヤに試乗検証することは叶わなかった(現存モデルの手配ができなかった)がシミュレーション技術を駆使してそれらに負けない柔軟でパワフルな出力特性を追及したそう。クランクマスや燃焼のチューニングを始めとしてオリジナルの出力特性を達成、下のパワー/トルク曲線図(緑線)に示されているように、KLX230とは異なり特に中低速域で優位性を発揮するエンジンに仕上げられた。
ちなみにピークパワーの発生回転数はKLXより低く18ps/7000rpmを発揮。奇しくもSGと同じデータになっている。丸みを持たせたクランクケース両サイドカバーのデザインやキャブトンマフラーの採用はむしろエストレヤに倣ったようにも見える。
メグロらしい主張は、クロームメッキをあしらいニーグリップラバーを採用したタンクデザインと存在感のある立体エンブレムからもたらされる。良い意味で古めかしい雰囲気にメグロブランドならではの価値が見出せるわけだ。
フレームはスチールパイプ製セミダブルクレードルタイプ。車体サイズはエストレヤよりひとまわり大柄だが、S1はより低いフォルムが印象的。シート高はエストレヤよりさらに30mm低い740mm。下の比較写真の通り、どっしりと身構える佇まいはK3譲りである。
搭載エンジンはボア・ストロークが67×66mmという僅かにショートストロークタイプの空冷OHC2バルブ単気筒。6段リターン式のトランスミッションも基本的にKLX230系と共通のものだが、2次減速比は高められドリブンスプロケットはKLXの45丁に対して38丁を採用。
足回りは前18後17インチのスポークホイールにIRC製タイヤを装着。テレスコピック式フロントフォークにはラバーブーツを装備。リアは長円形断面のスチール製スイングアームを採用した2本ショックサスペンションで、ショックにはダブルピッチスプリングを使用。ブレーキは前後ともにシングルディスクを装備。前は2ピストン後は1ピストンのピンスライド式油圧キャリパーを備えている。
かつてカワサキによってリリースした最後のメグロブランドだったSGに触発されて新たにS1として復刻されたメグロは、果たしてどのような乗り味を楽しませてくれるのだろうか。
気軽で親しみやすい乗り味が心地良い。

試乗車に跨がると先ずは何ともフレンドリーな乗り味を直感する。その多くはシート高の低さに由来することは間違いないが、決して小さくない車体サイズながら、250フルサイズとも異なる軽量な仕上がりを感じさせてくれる微妙なさじ加減が印象深い。
125ccクラスとは別格の存在感を誇り、しかもその見映えにはドッシリとした落ち着きを伴う。とは言え250ccクラスとしてとても親しみやすい程良い車格。良い意味で中途半端な排気量からもたらされたS1のスケール感には初っぱなから好印象を覚えたのである。
足付き性チェックの写真からわかる通り、ライディングポジションはごく普通にアップライト(直立姿勢)となる。シートの前寄りに座る傾向がある筆者の上体はやや後継ぎみとなる。
サイドカバーの膨らみなど、車体の幅が広めで、両足の着地位置は少しバイクから遠くなるが、それでも両足は踵までべったりと楽に地面を捉えることができる。この良好な足付き性から得られる安心感は改め魅力的。
適度にアップしたバーハンドルの位置が、少し近いようにも感じられたが、乗車位置前後の自由度もあるので特に窮屈ではなく、小柄なライダーでも上手く対応できるライディングポジションだ。
押し引きする取り回しでも無理なく扱える気楽さは足代わりに普段使いするバイクとしても相応しく、体力の衰えたシニアライダーから体力的に非力な女性のビギナーライダーまで乗り手を選ばない扱いやすさが光る。
操舵角は40度。最小回転半径は2.6m。2.2mだったSGには及ばないが、昨今のバイクとしては小回り性能もまずまずのレベル。実際発進直後にクルリとUターンしたり、後退して切り返す動作も至って簡単だった。
エンジンを始動すると元気の良い排気音を響かせ、ブリッピングした時のレスポンスもなかなか良い。
クルージング時の排気音に関しては、SGを彷彿とされるチューニングが施されたと言うが原音の記憶が定かでない筆者にとっては、良くわからないのが正直なところ。ましてや若い開発陣にとって音の作り込みは想像を膨らませた領域の中で行われたことだろう。
あえてエストレアの記憶と比較すると、よりリズミカルで快活、弾けるような歯切れの良い連続音が印象的で、吹き上がりのシャープさもなかなかのレベル。レスポンスの俊敏さという意味ではKLXとは明確に異なり、少しドロドロと重さを伴うフィーリングだった。低回転域から頼れるトルクが柔軟に発揮され発進操作やシフトワーク、渋滞路でのノロノロ走行も含めてとても扱いやすい。
あえてエストレヤの印象を辿ると、スロットルレスポンスや回転の上昇スピードはより悠長なフィーリングで常に力半分で走るかのような余裕があったと記憶している。
対してS1は高回転域まで快活に伸び上がり、引っ張るとレブカウンターの針は9,000rpmに到達する。レッドゾーンは8,500rpmからだし通常は引っ張ってもせいぜい7,000rpm程度で十分に満足できるハイパフォーマンスを発揮してくれる。
S1のエンジンは、中速域で太く柔軟な特性を発揮するが、さらに高回転域でも元気が衰えない特性が両立されている感じであった。
ひとつだけ気になったのは、エンジンブレーキを掛けてスロットル全閉で減速していく時エンジン回転の落ちが悪いことがあった。この点を質問すると気象状況(寒暖等)によってそういう制御が働く場合があるそうだ。
いつもの様にローギヤで5,000rpm回した時のスピードは23km/h。6速トップ100km/hクルージング時のエンジン回転数は6,000rpm弱だった。トップギアはクルージング用に設定された感じで、ギア駆動のバランサー機構と相まって、高速移動も快適。
峠道を含めハンドリングやブレーキの操作フィーリングは誰にも程良い仕上がり。その素直な操縦性と気軽な使い勝手は、それこそ乗り手を選ばず、普段使いに相応しい気楽な乗り味が魅力的。
そして黒にクロームメッキを配した外観デザインは世代によっては懐かしく、あるいはフレッシュなプレミアム性を感じさせてくれることだろう。この点にブランド価値を見出せるユーザーには価値あるチョイスになると思えた。
足付き性チェック(ライダー身長168cm/体重52kg)
