あまりの進化に驚かされた、ロイヤルエンフィールド・新型クラシック350。古き良き時代の味わいが魅力だが、万人向けの懐の広さも自慢。

パッと見の印象は、1950年代からほとんど変わっていない。とはいえ現代のクラシック350は、昔ながらのフィーリングを維持しつつも、近年の日本車と大差ない感覚で付き合える、親しみやすさと包容力を獲得しているのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ロイヤルエンフィールド・クラシック350…691,400円~728,200円

クラシック350の価格はボディカラーや装備によって異なる。この車両は最も高価なCHROME。

ネオクラシック系ではない?

ロイヤルエンフィールドのラインアップに、クラシック350が加わったのは2009年からで、2019年までは500cc仕様も併売していた。そして車名と登場年を考えると、近年になって世界的に流行しているネオクラシック系?……という誤解をする人がいそうだが、このモデルは大昔から同社の屋台骨を支えてきた、空/油冷単気筒エンジン+スチールフレーム車の最新仕様である。

1950年頃のG2。当時はすでにテレスコピック式フォークの普及が進んでいたが、リアのスイングアーム+ツインショックは画期的な装備だった。

そんなクラシック350の原点を、今現在のロイヤルエンフィールドは1950年型G2と公表しているけれど、1948年型と記されることもある。いずれにしても、姿形をほとんど変えることなく、70年以上に渡って熟成を続けてきたこのモデルは、ホンダ・スーパーカブ以上の歴史を誇るロングセラー車、と言えなくはないのだ。

2021年型で全面刷新を敢行

2024年型のクラシック350。この写真で2025年型との差異を判別するのは難しい。

前述したように、姿形は大昔からほとんど変わっていないものの、クラシック350は2021年型で全面刷新を敢行。中でも最も注目するべき改革は、振動を緩和する機構としてクランクケースの内部に1軸バランサーを新設したことだろう。そしてエンジンに関しては、動弁系をOHV2バルブ→OHC2バルブ、ボア×ストロークを70×90→72×85.8mmに変更したこと、オイルを積極的に冷却に使う機構を導入したことも、現代の同社の350cc単気筒エンジンを語るうえでは欠かせない要素だ。また、フレームは伝統のダイヤモンドタイプを継承しつつも、2021型からは剛性向上に寄与しそうなボルトオン式のダウンチューブを下部に追加している。

キャストホイールを採用するDARKのカラーは、ガングレーとステルスブラックの2種。

今回試乗した2025年型は、2021~2024年の基本を踏襲しながら、新たな機構としてLEDヘッドライト/テールライト/ポジションランプやギア段数インジケーター、USBタイプC電源を導入。それらに加えて、上級仕様となるダークとクロームはLEDウインカーや位置調整ダイヤル付きブレーキ/クラッチレバー、Tripperナビゲーションシステムなどを採用している。

LEDウインカーを採用するのはダークとクロームのみ。
ダークとクロームのブレーキ/クラッチレバーは、位置調整機構を装備。
他のボディカラー車がスポークホイール+チューブタイヤを採用するのに対して、ダークはキャストホイール+チューブレスタイヤ。
ダークのメーター。この写真で時計を表示している液晶画面は、Tripperナビゲーションシステムとして使用することが可能。

万人にオススメしたくなる

ロイヤルエンフィールドの空/油冷単気筒+スチールフレーム車には、新車で買えるクラシックバイク的な資質が備わっている。もっとも僕の中でその感覚は時代と共に変化していて、20年ほど前まではよくも悪くも旧車そのもので、万人にオススメするのはなかなか難しかったのだが、2009年以降は昔ながらの単気筒に興味があるならぜひ‼と言いたくなるほど洗練が進んでいた。では最新のクラシック350はどうかと言うと……。

ルックスが好みだから、色がカワイイから、何となく興味があるから、などというシンプルな理由で購入して全然OKだと思う。昔ながらのフィーリングは依然として存在するものの、このバイクは一般的な350~400ccクラスの日本車と大差ない感覚で付き合えるのだから。

インド本国でのクラシック350はシングルシート仕様で販売。

まずはエンジンの説明をすると、ロングストローク+重くて大きなフライホイールならではの鼓動感や粘りは相変わらずでも、現代のクラシック350は、スロットル操作に対する反応が明らかに良好で、高回転域で発生する振動が劇的に少なくなっている。もうちょっと具体的な話をすると、先代以前に存在したスロットルを開けた際のタイムラグは絶妙の塩梅で解消されているし、先代以前では苦行と言われた100km/h巡航が難なくこなせる。おそらく、先代以前のオーナーがこのモデルに乗ったら、あまりの進化に驚くことになるだろう。

そしてエンジンと歩調を合わせるように、車体も大幅に進化している。フロント19インチならではの安定感と軽快感、優しくてわかりやすいフロントまわりのセルフステア、リアから伝わる濃厚なトラクションなどを維持しながら、現代のクラシック350は包容力が格段に上がっていて、先代以前のような気遣いをすることなく、スポーツライディングとツーリングが存分に楽しめる。

ただし2024年型以前のクラシック350は、峠道をムキになって飛ばした際の足まわりの挙動がいまひとつで、自分がオーナーになったら純正タイヤは速攻で日欧の最新バイアスに交換……と僕は思っていた。でも2025年型は前後サスペンションの設定が見直されたのか、純正タイヤ(従来と同じCEATのZOOM PLUS)でも大きな不満は感じない。さらに言うなら、ブレーキタッチやエンジンフィーリングも先代より好感触で、おそらく近年のロイヤルエンフィールドは、具体的な変更を公表していなくても、地道な熟成を行っているのだと思う。

ブリット350との違い

メテオ350はクラシックスタイルのクルーザー。シート高は他の兄弟車より格段に低い765mm

現在のロイヤルエンフィールドは、4種類の空/油冷350cc単気筒+スチールフレーム車を販売中で、日本市場の輸入元を務めるピーシーアイのリサーチによると、クラシック350を買うつもりでディーラーを訪れたのにクルーザーのメテオ350にグラッと、現代的な構成のハンター350を見に来たのにブレット350に興味津々などという感じで、現車と対面して意識が変化する人が少なくないと言う。そういった事例は、他メーカーではあまり聞いたことがないような気がするけれど……。

ハンター350の魅力は軽さと小ささ。タイヤサイズは現代的な前後17インチを選択。

ロイヤルエンフィールドの350ccモデルならアリだろう。何と言っても現在の同社が販売している空/油冷単気筒+スチールフレーム車は、基本設計の多くを共有しながら(ただしメテオ350の車体は、他3車とは別物)、各車各様の魅力を備えていて、いずれのモデルも価格は70万円±5万円の範囲に収まっているのだから。

ブリット350のカラーリングは、クラシック350とは異なる設定。

もっともクラシック350とブリット350は非常によく似たモデルで、外観から判別できる相違点は、シート、リアフェンダー、インジェクションカバーくらいである。とはいえカラーリングが各機種専用設計だからだろうか(クラシック350は7色で、ブリット350は3色)、この2機種に関しても、やっぱりディーラーを訪れて現車を見て、意識が変わる人が少なくないらしい。

ディティール解説

ヘッドライトを覆うナセルカバーと2個のポジションランプは、同社にとっては古くから続く伝統のデザイン。2025年型ではヘッドライト/テールライト/ポジションランプをLED化。
コクピットは昔ながらの雰囲気を踏襲。2025年型では、液晶モニター内にギアポジションインジケーター、クラッチレバーホルダー下部にUSBタイプC電源ポートを追加された。
スイッチボックスやグリップラバー、ブレーキ/クラッチレバーは、汎用品ではなく、クラシックテイストを意識した同社のオリジナル。
左右スイッチボックスの上部に備わる円型ダイヤルは、左:ヘッドライトのロー/ハイ/パッシング用で、右:エンジン始動/停止用。
シートは前後分割式で、日本仕様は海外の多くの国でオプション扱いとなるタンデムシートを標準装備。座り心地は非常に良好。
サイドカバーは施錠式。左はエアボックス、右は電装系部品と車載工具でギチギチだが、ETCユニットは何とか収まりそうな気配。
Jシリーズと命名されたロングストロークの空油冷単気筒は、20.2ps/6100rpm、2.75kgf・m/4000rpmを発揮。
2020年まではキックアームが存在したものの、現在の同社が手がける350cc単気筒の始動方式はセルスターターのみ。
試乗車は各部をブラックアウトしているが、車体色によって、マフラーはメッキ仕様、前後輪のリムはバフ仕上げとなる。リアショックは6段階のプリロード調整が可能。
 
ブレーキディスクはF:φ300mm/R:φ270mm、キャリパーは前後ともバイブレで、ABSは2チャンネル式を採用。フロントフォークはオーソドックスなφ41mm正立式。

主要諸元

車名:クラシック350
全長×全幅×全高:2145mm×785mm×1090mm
軸間距離:1390mm
最低地上高:170mm
シート高:805mm
キャスター角:24度
エンジン形式:空冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC2バルブ
総排気量:349.3cc
内径×行程:72.0mm×85.8mm
圧縮比:9.5
最高出力:14.87kW(20.2ps)/6100rpm
最大トルク:27N・m(3.8kgf・m)/4000rpm
始動方式:セルフスターター
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式5段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.615
 2速:1.706
 3速:1.300
 4速:1.040
 5速:0.875
1・2次減速比:2.3・2.8
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック正立式φ41mm
懸架方式後:スイングアーム・ツインショック
タイヤサイズ前:100/90-19
タイヤサイズ後:120/80-18
ブレーキ形式前:油圧シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:195kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:13L
乗車定員:2名

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…