メッキ仕上げのプレミアムな世界観、さて走りの実力は? メグロ S1|カワサキ試乗記

カワサキからK3に続くメグロブランドの第2弾として「メグロ S1」が発売された。同時に登場したW230のバリエーションモデルであり、232ccの空冷SOHC2バルブ単気筒はKLX230のエンジンをベースとしている。Z400とほぼ同額の72万500円というプライスは果たして市場に受け入れられるのか。500メグロK2の試乗経験もある筆者の感想やいかに。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●カワサキモータースジャパン

カワサキ メグロ S1……72万500円(2024年11月20日発売)

W230との違いは基本的にカラー&グラフィックのみで、表皮の違いによりメグロ S1の方がシート高が5mm低い。車格や走りについてはエストレヤを参考に開発し、結果的にタイヤサイズはエストレヤと共通のフロント90/90-18、リヤ110/90-17に。スチール製セミダブルクレードルフレームは新設計で、燃料タンクは日本未発売のW175から流用している。
1924年に創業、1960年に当時の川崎航空機工業と業務提携したメグロの世界観を表現するため、開発メンバーが参考にしたのがカワサキ・250メグロSGだ。1964年の発売から1969年まで生産されたロングセラーモデルであり、なおかつメグロの名を冠した機種の中で最も販売台数の多かったのが250ccのSシリーズだ。なお、新型車は欠番だった「1」を採用して「メグロ S1」というネーミングとなった。
車体色はエボニーのみ。単なる黒塗装ではなく、メグロSGの時代よりも漆黒に見えるブラックを使用している。

鼓動感と元気の良さを併せ持つKLX230ベースの空冷シングル

ジャパンモビリティショー(JMS)2023で世界初公開となったメグロ S1とW230。筆者はそのアンベイルの瞬間に立ち会っていたのだが、エンジンがKLX230の流用だと発表された瞬間、心の中で期待よりも不安が上回ったのを今でも覚えている。件の232cc空冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒は、デュアルパーパス用のパワーユニットとして完成度が高く、レスポンスの良さも含めて全域でスポーティな動力性能を持つ。ゆえに、もしそのエンジン特性が引き継がれるとしたら、ネオクラシカルなスタイリングのメグロ S1とW230にはミスマッチになりそうな気がしたのだ。

左がKLX230 シェルパ、右がメグロ S1のエンジンだ。エキパイをダウンチューブの右側から出すために排気ポートの向きを変えたシリンダーヘッド、圧縮比を下げるためにシリンダー座面高さを変更したクランクケース、かつての鋳鉄シリンダーを想起させる耐熱ブラック塗装のシリンダー、そしてクラシカルな雰囲気を演出するクラッチ&ジェネレーターカバーなど、KLX230のエンジンを流用したとはいえほぼ別物となっている。フレームレイアウトの違いにより、シリンダーヘッドのエンジンマウントの位置が異なる点にも注目を。

JMS2023での公開からおよそ1年が経過し、いよいよメグロ S1に試乗できる日がやってきた。エンジンの外観はKLX230とは別物と言えるほど変更されており、ネオクラシカルなスタイリングに見事に溶け込んでいる。そして、セルボタンを押してエンジンを始動した瞬間、KLX230との違いがさらに明瞭になった。筆者は10日ほど前にKLX230 Sと同シェルパに試乗していたため、アイドリング時から排気音が異なることに気付くことができた。音量規制もあってボリュームは十分に抑えられているものの、メグロ S1のエキゾーストノートは柔らかくも燃焼一発ごとの歯切れが良く、KLX230シリーズよりも上品にすら感じられる。アイドリング時の回転数が約1800rpmと高めなので、信号待ちなど停車中はややせわしなく感じるが、かなり入念にサウンドチューニングが行われていることが伝わってくるのだ。

ギヤをローにシフトして発進すると、KLX230との住み分けが排気音だけでなく、動力性能にまで及んでいることを察する。メグロ S1はスムーズな回転上昇の中に鼓動感や力量感が入り交じり、6000rpm付近までのトルクの厚さは250ccフルサイズの単気筒と同等かそれ以上にすら感じられる。3速のまま3000rpmから6000rpmへ、およそ30km/hから60km/hに増速していく時の、燃焼圧による雑味のないビート感は実に心地良く、よくぞここまで牧歌的な味わいを作り込んだなと感心しきりだ。付け加えると、メグロ S1/W230の2次減速比はKLX230シリーズに対して約16%ハイギアードであり(リヤタイヤの外径差は10mm)、トップ6速、60km/hでの回転数は、メグロ S1/W230の約3400rpmに対し、KLX230シリーズは約3900rpmとなる。よって、2次減速比の設定からも、前者の方はより低い回転域=味わい深い領域を使わせようという狙いが見えてくる。

動力性能に関係する部分では、クランクシャフトやカムシャフトの変更が大きいようだ。イラストの左側はKLX230 シェルパ、右側がメグロ S1で、カウンターウェイトの形状の違いが確認できる。

その一方で、スロットルを大きく開ければレッドゾーンの始まる8500rpmを超えて9000rpm付近まできっちりと吹け上がり、最高出力18psながら交通の流れをリードすることも可能だ。かつてのメグロSGは高性能を目指した当時のスポーツモデルであり、そうした元気の良さもしっかりと再現されているのだ。クランクシャフトの重量が変更されていることは、低中回転域での粘り強さだけでなく、シフトアップ時にグンッと押されるような慣性力が残っていることでも伝わってくる。なお、シフトフィールはKLX230よりもさらに軽く、まるでスイッチのようにカチャカチャと軽く変速できるのは長所だが、シューズの種類によっては操作感が伝わりにくく、手応え(足応えか?)がないと感じる人がいるかもしれない。

バンク角主体のハンドリングは扱いやすく、スポーティな雰囲気も

フレームはKLX230シリーズとは全く異なるデザインで、専用設計のスチール製セミダブルクレードルを採用する。ホイールトラベル量はフロント117mm、リヤ95mmを公称し、オンロードモデルとしてはやや短めだ。なお、ワイヤースポークホイールはフロント18インチ、リヤ17インチとなっている。

走り始めてすぐに感じたのは、サスペンションの動きが限りなく旧車に似ているということだ。具体的には、それほど大きくないギャップでもクシュッと沈み込み、その傾向は特にリヤの方が強い。スプリングレート、減衰力ともに低めということになろうが、これによって生み出される乗り心地の良さは、筆者が4年前に試乗した500メグロK2にそっくりなのだ

カワサキが1965年に発売した500メグロK2。筆者が試乗した車両(写真)は極上のコンディションで、現代の交通事情においても走行性能に何ら不足がないばかりか、W800やメグロK3よりもエンジン、ハンドリングともにスポーティーだと感じた。メグロK2は当時の国産車のフラッグシップであり、最大限にパフォーマンスを追求していたのだ。

「柔な足周り」と表現できなくもないが、峠道でペースを上げても不思議と破綻を来さないことから、筆者はこのサスセッティングを大いに肯定する。ハンドリングは、どんな操縦でも寝かせてさえしまえば旋回するという非常にイージーなタイプで、しかもバンク角主体で向きを変える特性により、このルックスからは想像できないほどスポーティーにすら感じられる。加えて、タイヤサイズが細いことから倒し込みや切り返しは軽快で、リーンウィズのまま峠道をヒラヒラとクリアできてしまう。個人的には、2017年のZ650あたりからカワサキのスチールフレームに好感を持っており、メグロ S1もその延長線上にある。

ブレーキは前後ともディスクだ。絶対制動力よりもコントロール性を重視した設定のようで、特にリヤは旋回中のライン修正時に扱いやすかった。

72万500円という車両価格は、このクラスの空冷単気筒モデルとしてはかなり高価な部類に入るが、メッキ仕上げのタンクや立体エンブレムの質感は非常に高く、唯一無二のプレミアムな世界観を作り上げているのは確かだ。「ダウンサイジングを検討しているが、安っぽいのは嫌だ」というベテランライダーに受け入れられそうなバイクであり、聞くところによると年内販売分は予約でほぼ完売に近いという。気になる人はお早めに販売店へ。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

ライディングポジションはかなりコンパクトだ。グリップの位置はレブル250のように遠すぎることはなく、Uターンなどでハンドルを大きく切っても腕に余裕がある。一方、膝の曲がりはかなり窮屈で、足の長いライダーほど評価が分かれそうだ。
シート高は740mmを公称。サイドカバーの張り出しが大きいが、乗車1Gでのサスの沈み込みもあって足着き性はご覧のとおり優秀だ。なお、走行中は右足だけフレームカバーがかかとに干渉するため、足の置き場所が左右非対称に感じられる。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…