ステレオカメラが危険を感知! 安全性と快適性を向上させる日立Astemoの最新技術たち【EICMA2024】

2024年11月5日(火)〜10日(金)まで、イタリア・ミラノで開催されたEICMA(エイクマ)/ミラノ国際モーターサイクルショー。日立Astemoは、サスペンションブランドのSHOWAが単独で出展していたときから数えて10回目のEICMA参加。近年は電子制御技術を駆使し、二輪車の安全性と快適性の向上を図るADASを積極的に発表している。EICMA2024では市販車搭載を見据えた、その最新技術を展示した。
PHOTO/REPORT●河野正士 (TADASHI KONO)

日立Astemo(ヒタチ・アステモ)は、EICMA2022で前方検知用ステレオカメラを使った二輪車用ADAS(エーダス/先進運転支援システム)のコンセプトモデルを発表。以来、それを進化させてきた。そしてEICMA2024では、その最新版を発表、展示した。

発表初年度には、四輪用ADASユニットをベースに、前方検知用ステレオカメラとADAS用ECUを一体化した二輪車専用ADASユニットを開発。前方の危険を察知して自動的にアクセルが戻ったりブレーキを掛けたりする自動減速システムや自動ブレーキといった安全性を高める機能と、電子制御サスペンション特有のリアルタイムでサスペンション特性を変化させることができる機能やACC(アタプティブ・クルーズ・コントロール)といった快適性を高める機能を、複合的に作動させる大型モーターサイクル用ADASを発表した。さらには販売台数が伸び続けている、アジア/アセアン地域で主流の小排気量コミューターへの搭載を考慮し、ステレオカメラとABSユニット、そしてFIコントロールユニットを連動させて制動サポートや危険認知を行う簡易型ADASも発表した。またEICMA2023では、ステレオカメラとADAS用ECUの分散配置を実現するとともに、2眼ヘッドライトのように、2つのカメラを切り離して車体に搭載可能にして車両搭載性を大幅に向上させている。

EICMA2024では、そのステレオカメラがどのように前方検知を行っているかをデモンストレーションした。デモ車両に搭載したカメラが、ブース前を行き来する来場者を捕捉追従しながら、そこまでの距離をリアルタイムにデモンストレーション用モニターに表示。実走行では、それらの前方走行車両や障害物、車線や道路標識などの情報を識別して制御ユニットに送り、それに合わせてライダーへの注意信号の発信や、速度管理など制御技術と連携して運転サポートを行っている。

そのADASの新技術として路面感知機能を追加。東南アジアや欧州には市街地での速度抑制のためにスピードバンプと呼ばれる、道路を横断するこぶが設置されている。それをカメラで検知して、制御で速度抑制を行ったり、ライダーへインフォメーションを出したりして、市街地での走行安全性を高めるのが目的だ。

↑前方検知用ステレオカメラが捉えた映像。視覚的に得られるさまざまな周辺情報を元に走行状況を把握し、それをもとに制御ユニットがさまざまな運転サポートを行う

また日立Astemoの電子制御サスペンション/SHOWA EERA(ショーワ・イーラ)も、さらに進化。Gen2バージョンとなった。EICMA2023で、減衰力を可変するアクチュエータの制御基板をリアサスペンションユニットに組み込み、その制御基板にGセンサーを組み込むことで、これまで別体で搭載していたサスペンション制御用ECUとストロークセンサーが不要となった。これによってコスト競争力が求められる小中排気量車両にも、電子制御サスペンションシステムを搭載可能になることはもちろん、リアサスペンションのみを電子制御することでも、そのメリットが得られることを発表した。

↑EICMA2023 でも発表した「SHOWA EERA Gen2」リアショックユニット。ロゴをデザインした赤いボックスが、Gセンサーを内蔵した、減衰力を可変するアクチュエータの制御基板

EICMA2024では、その制御ユニットをフロントフォークにも搭載。前後サスペンション単体はもちろん、前後セットでシステムの採用を可能とし、幅広いキャラクターや価格帯の車両の電子制御サスペンションシステム搭載を可能とした。

↑フロントフォークのトップキャップ部に「SHOWA EERA Gen2」の制御基板をセット

SHOWA EERAの追加機能である、停車や発進を感知して自動で車高を調整するHEIGHTFLEX(ハイトフレックス)も進化。ギアポンプ式のサスペンションスプリングアジャスターを搭載可能とした。EICMA2023ではリアショックユニットにギアポンプ式スプリングアジャスターを採用したが、EICMA2024ではフロントフォークにも同様のポンプユニットを内蔵した。

ギアポンプ式スプリングアジャスターのメリットは、高頻度高速作動の実現。5〜7秒で上昇が完了する。EICMA2024会場では、その上昇を体感できるデモンストレーション用車両も用意された。

↑SHOWA EERA HEIGHTFLEXのデモ機。多くの来場者が体感したのはもちろん、国産および海外ブランドの開発担当者が多く訪れ、ギアポンプ式のサスペンションスプリングアジャスターの動きを確認していた

SHOWA&NISSINとの共同開発による新しいサスペンション&ブレーキシステムのコンセプトモデルも話題となった。倒立フォークのボトムケースから伸びる一本足でブレーキキャリパーを連結。軽量化とともに、ボトムケース下の空洞とブレーキキャリパーにデザインした冷却ファンで冷却効果を向上させている。

このボトムケース&キャリパーにデザインされたロゴは、アルファベットの「A」をアレンジした、さらなる高付加価値を持つサスペンションの「SHOWA」とブレーキの「NISSIN」の、ハイパフォーマンス製品の新シンボルマーク。NISSINとSHOWAのロゴも変更。まずはレースの現場からこの新ロゴを使用していくという。

↑走行風を積極的に取り込み、ブレーキキャリパーの冷却効率を高める方法は、現在のレースシーンにも実戦投入されている。このコンセプトモデルはそれをさらに進化させたもの
↑SHOWA&NISSINとの共同開発による新しいサスペンション&ブレーキシステムのコンセプトモデル
↑日立Astemoはオンロードからオフロードまで、さまざまなカテゴリーのレースを戦うファクトリーマシンをサポート。2024年からはモトクロス・カテゴリーに踏み込んできたドゥカティをサポート。オフロードマシン「Desmo450MX」のサスペンションはSHOWAブランドで固められている

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著者プロフィール

河野 正士 近影

河野 正士

河野 正士/コウノ タダシ
二輪専門誌の編集スタッフとして従事した後フリーランスに。その後は様々な二…