かつてのエストレアのような気軽さ最大の美点でした。|カワサキW230試乗記

カワサキがJMS2023で世界初公開したW230とメグロ S1がいよいよ発売となった。この2台はカラー&グラフィックが異なるだけの一卵性双生児であり、KLX230ベースの空冷シングルは「レトロスポーツ」というコンセプトに見合った外観と特性が与えられている。ここではW230のインプレッションをお届けしよう。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●カワサキモータースジャパン

カワサキ W230……64万3500円(2024年11月20日発売)

W230
メグロ S1

派生モデルのメグロ S1との違いはカラー&グラフィックのみ。それぞれでシート表皮を変えた結果、W230のシート高はメグロ S1よりも5mm高くなったが、足着き性に大きな違いはないというのがカワサキの見解だ。なお、両モデルの価格差は約12%、メグロ S1の方が7万7000円高い設定となっている。

メタリックオーシャンブルー×エボニー
パールアイボリー×エボニー

車体色はメタリックオーシャンブルー×エボニー(左)とパールアイボリー×エボニー(右)の2種類。車名の公式な読み方は「ダブリューニヒャクサンジュウ」である。エストレヤではなくWを名乗るのは、カワサキが重視する「伝統と革新」において、Wの伝統を大切にしたいとの考えからだ。

かつてのエストレヤよりも軽量でキビキビと走れる

「あたらしいのに懐かしい、ハートに温かいバイクです。」というコピーとともに、1992年に発売されたエストレヤ。セールス的に大ヒットしたわけではないが、カワサキでは最長のロングセラーモデルであり、東南アジアでは「W250」という車名で2019年型まで販売されていた。

カワサキ・250メグロSGのスタイリングを受け継ぎ、1992年に発売されたエストレヤ。この画像は筆者が2018年3月に試乗したファイナルエディションだ。249ccの空冷シングルは1軸バランサー付きで、ミッションは5段。旧Wシリーズで評価された魅力を備えていることから、カワサキでは「Wと血を分けた兄弟」と位置付けている。国内での販売を終了したあと、2017年11月から東南アジアで「W250」と名称を変えてリリースされた。

そんなエストレヤの後継に位置付けられるのが、この「W230」だ。エンジンはKLX230がベースなので別物ではあるが、開発の段階ではエストレヤの車格やエンジンフィールを参考にしたとのことで、DNAは受け継がれていると言っていいだろう。なお、車重はエストレヤの161kgに対し、W230は143kgと約12%も軽く仕上げられている。スチールリムのワイヤースポークホイールや、スチールフェンダーを前後に採用しながらこの重量を実現できたのは、ベースエンジンの軽さが大きく貢献しているとのことだ。

まずはハンドリングから。かつてのエストレヤは車重の影響もあって、250ccクラスとしては落ち着いた安定感があり、乗り心地も良質だった。フロント18インチホイールならではの穏やかな舵角の付き方が特徴であり、マシン任せで走らせるのが似合っていた。

対してW230は、そのイメージを受け継ぎつつも、車体の軽さによってライダーが積極的にコントロールできる幅が増えているといった印象だ。前後のサスペンションはエストレヤと同様にソフトなセッティングであり、特にリヤのクシュッと沈み込む様は旧車的でもある。それでいて峠道では破綻を来すことがなく、エストレヤよりも明らかにキビキビと走らせられるのだ。この身のこなしの軽さこそが、開発メンバーが目指したものだろう。

左はエストレヤ、右がW230/メグロ S1のフレームだ。シートレールの作りは異なるものの、クレードル部分はかなり近しいレイアウトとなっている。

Wブランドの祖である650-W1にしろ、スタイリングの元となった250メグロSGにしろ、どちらも発売当時は高性能を追求したスポーツモデルであり、いくらネオクラシックとはいえ元気良く走れる要素もなければ、などと個人的には思っている。ゆえに、W230がエストレヤよりもややスポーティーな路線に振ったことを大いに歓迎したい。

コンパクトなエンジンに対してフレームのクレードル部分が大きく見えるのは、エストレヤの車格を参考にしたからだが、もしかすると将来的に排気量の大きなパワーユニットを積むのでは……、などという妄想も膨らむ。リヤサスはツインショックで、プリロードは5段階に調整可能だ。

W230のブレーキは前後ともディスクであり、特にコントロール性についての印象は良かった。なお、エストレヤはブレーキ、クラッチともレバー調整機構が付いていたので、W230にもぜひ採用してほしかったというのが正直なところだ。

6段ミッション採用で巡航時の回転数を低く抑えられるのがポイント

続いてはエンジンだ。エストレヤは250メグロSGとほぼ同じボア×ストロークの249cc空冷シングルを搭載し、2014年モデルを境に最高出力は20psから18psに減じられた。一方、W230のエンジンはKLX230ベースの232cc空冷シングルで、こちらも最高出力は18psを発揮する。

エストレヤは、重いクランクマスを想起させる低中回転域での粘り強さと、それに伴う鼓動感、いわゆる「トコトコ感」が明瞭で、自然と5000rpm以下を多用したくなるような味わい深さがあった。付け加えると、2007年型で負圧キャブから燃料噴射に変更された時に、この味わいがだいぶ薄まってしまったのだが、2014年のモデルチェンジで低中回転域重視のセッティングに変更され、負圧キャブ時代のシングルらしい鼓動感を取り戻している。

そんなエストレヤと比べると、W230のエンジンはややスムーズに回る傾向にあるが、それでもデュアルパーパスのKLX230がベースとは思えないほどに、低中回転域で牧歌的なフィーリングをうまく作り出している。そして、エストレヤよりも好印象なのは、高回転域にかけての吹け上がりの良さだ。交通の流れをリードしたい、峠道で元気良く走りたいなど、レッドゾーン付近まで使おうとした際に、エストレヤは回転上昇の穏やかさもあってそこまでの気分にならないのに対し、W230は積極的に使おうという気にさせてくれるのだ。つまり、低中回転域での鼓動感と高回転域のパフォーマンスを両立している点が、KLX230のエンジンをベースとした最大のメリットだろう。加えて、最新の音量規制に適合させながら上質なサウンドをも作り込んでいる。

エンジンは基本的にメグロ S1と共通だが、W230のシリンダーヘッドのフィンには切削加工が施されていない。

100km/h巡航時のトップギヤでの回転数は、エストレヤが5速で約6500rpm、W230は6速で約5500rpmと、後者の方が1000rpmほど低く抑えられる。エストレヤは100km/hでの高速巡航もできなくはないが、自然と5000rpm付近、80km/hぐらいまで落として単気筒らしい鼓動感を楽しみたくなる。これに対してW230は、100km/hでもパワー的に若干余裕があるといった印象で、今回は試せなかったがメーター読みで120km/hを出すことも可能だろう。

1992年発売の最初期型からファイナルエディションまで、筆者はエストレヤに何度も試乗しているほか、5年前には日本未発売のW175もテストしている。W230はエストレヤの後継であるとともに、海外市場においてはW800とW175の間を埋めるWブランドの中堅モデルでもあり、その役割は十分に果たしていると言えるだろう。試乗車のブルーは太陽光が当たるとメタリックが輝き、250ccクラスとしてはなかなかに質感が高いと感じた。身構えずに乗れる気軽さがW230の魅力であり、若いエントリーユーザーからリターンライダーまで、幅広くお勧めできる優良な1台だ。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

車体全体が低く、サッとまたがりたくなる雰囲気がW230の長所だ。ライディングポジションはかなりコンパクトで、筆者の体格では膝の曲がりが窮屈に感じる。一方、ハンドルは高さ、幅、絞り角とも好印象で、切れ角もエストレヤと同じ左右40°ずつと十分に確保されている。
シート高は745mm。足着き性と乗り心地を両立するために上等なウレタンを採用しているのだろうか、どっかりと腰を下ろす乗車姿勢でありながらお尻が痛くなりにくかった。ゆえに膝の窮屈さを我慢できれば、ロングツーリングもこなせそうな雰囲気がある。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…